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Armor Knight  作者: 夢暮 求
第一章 -Encounter-
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初心者らしさとは

『はぁっ?! 本当に素人かよ!?』

『ホーミングするミサイルを密集するように移動……スズさん、本当に初心者ですか?』


「はい、始めて二ヶ月ちょっとの初心者ですよ?」

 わー上手く行ったー超嬉しいー。


 そんなものを語尾に付け足しつつ、オルナを更に動かし、エネルギーライフルでパッチペッカーのフレンド機――ホルンに照準を合わせる。ビームを二連射したが、さすがにこの短絡的な攻撃は通らず、かわされてしまった。

『クッソ! 作戦変更だ!』

 ウィンムルドとホルンが作戦を変えたらしい。ラクシュミは放置し、ウィンムルドがこっちに向かって来ている。

「パッチペッカーを任せます。ArmorじゃKnightの装甲を抜けないんで」

 こっちの攻撃を当てても雀の涙ほどしか耐久力を減らせない。

『え、あの、スズさん?』


「ホルンは私が落とすので、その間、邪魔をしないでください」


 エネルギーライフルを腰に差して、ブーストダッシュの速度を落とすことなく中空を駆け抜ける。ホルンとの間合いを詰めようとするものの、どうやら距離を置きたいらしくブーストで逃げられている。スラスターの性能的に、このままでは追い付けない。

 脚部格納からダガ―ナイフを取り出し、ホルンの行く先に目星を付けて投げ付ける。ホルンは急停止して、それが前方を通過するのを見送る。


 その停止は命取りだ。


『させるか!!』

 右斜め上からアラート音が響き、同時にオルナのブーストを切って、左右に機体を滑らすことでウィンムルドのビームを一つ、二つ、三つと避ける。


 Knightのエネルギーライフルの最大連射数は五発。四つ、五つと撃たれていたならば、その回避に専念し過ぎて、直後に向かって来るウィンムルドの閃刀による斬撃を避け切ることはできなかっただろう。


 だから、紙一重でウィンムルドの襲撃を乗り切れたのは、パッチペッカーの判断ミスだ。


『コイツ……』

「うわー怖いですー、今のもどうして避けられたのか分かりませーん」

『女?』

「女ですけど、なにか?」

『……この勝負が終わったら、リアルのメルアドを教えろよ!』


 ブーストダッシュ後の硬直が見受けられない奇妙なバックダッシュをしつつ、ウィンムルドがオルナに翻って来た。ある程度は予測していたことなので、振るわれる閃刀をかわす。ソードでの打ち合いはしない。力でゴリ押しされて負けるのが分かっている。そもそも刀の武装は力で押し込むタイプのものではないんだけど、さすがにArmorとKnightの彼我(ひが)の差は大きい。


 にしても、大会中でもナンパするなんて、どれほど女性に飢えているんだ。だからMOやMMOは男女の出会いを推奨するゲームじゃないんだって。


『そんなことを言って!』

「良いですよ」

 僕は作り笑顔を見せつつ、そう答える。

『スズさん?!』

『今の言葉、忘れんなよ!』

「ええ。問題ありません。リアルの“私”は、このキャラと同じで可愛い女の子なので、どうかお手柔らかに頼みます。こっちでも、あっちでも……ね。私、男の人と付き合ったこともないですから」

 合同通信は観戦サーバーにも開かれているので、ルーティに限らず観戦しているプレイヤー全員が聞いているだろう。

 きっと、ルーティは笑い転げているだろうし、女性プレイヤーは「この子、本当にリアルでも女の子か?」と疑問を浮かべているに違いない。


 ちょっとした茶目っ気だ。一緒に試合を観戦するはずだったのに、幼馴染みを独り切りにさせてしまったので、少しでも笑える場を与えてあげようという、僕なりのお詫びである。


 僕は立花 涼という男で、スズを使うリアルの女の子なんて存在しない。メルアドを知られたって着拒すれば良いし、或いはどこかのメルマガにパッチペッカーさんのメルアドを登録しまくるというのも良い。住所ではなくメルアドにしてしまったのが運の尽きだ。僕のリアルにはなんの障害も起こらない。


 そして、負けるつもりも無い。


『さっさと終わらせて、さっきの言葉通り、お前に手取り足取り教えてやるよ!』

 ウィンムルドが肩に載せていたミサイルポッドを起こし、砲口が開かれて一斉に射出される。定期に訪れるマップギミックのミサイルまで放たれた。どうやらまだギミックハックをする余裕が、あのホルンに乗っているプレイヤーにはあるらしい。


 そりゃウィンムルドにオルナのブーストダッシュを止められてしまったし、安全圏であるのは事実だけど、これは僕のせいじゃない。ウィンムルドを抑えられなかったラクシュミのせいだ。だからこうして、ウィンムルドから逃げるようにオルナを動かさなきゃならなくなっているんだ。


《人のせいにするのは良くないよー》

「心を読まないでくれない?」

《スズは顔に出やすいからねー。あとそういう顔をしている時って、頭の中も悪口ばっかりだし、言うことも大抵、相手を(けな)すことばっかりだから気を付けなよ?》


 自分自身が根暗であるため、人を卑下することだけ得意なのだ。つまり、僕のどうしようもない悪癖である。だから友達ができない。


 理解している分、改善の余地があるなんて、テレビじゃよく聞く話だ。でも、僕自身が改善しようと思っていないんだから、これはまだまだ矯正されない。

 だって、なんで僕が変わらなきゃならないんだ? 僕は、僕自身を卑下して馬鹿にして、貶すことはあっても、それで自分自身を嫌いになったことは無い。むしろ今の自分に満足している。

 だったら、周りが合わせるべきだ。むしろ僕を根暗だなんだと勝手にレッテルを貼って、関わらない方が良いと勝手に決め付けた奴らの方が変わるべきだ。そっちから先に決め付けて寄って来ないんなら、そっちから先に変われ。変わったなら僕だって変わってやる。だけど、今のところ誰も変わらない。なら僕は矯正なんかしない。考え方を変えようなんて思わない。


 あー、将来を考えるのが嫌になって来たなー。対戦に集中しようっと。


『なんであんなことを!』

 テオドラさんが怒っている。自分のことじゃないのに、どうしてそうやって怒ることができるのか、僕には不思議でたまらない。

「遊びたかったので」

『女の子なんだからそんなことを言っちゃ……言ってはダメですよ!』


 ……あれ?


 テオドラさんの口調に、違和感を覚えた。が、今はそこに言及している余裕は無さそうだ。


「肩掛けミサイルポッドから放たれるミサイルは一度前方に奔り、ホーミング付きであるのなら、対象に避けられた直後に大きく旋回して戻って来るものがほとんど。空中戦ではホーミング付きのミサイルポッドが好ましい。あのミサイルポッドの形からして、間違いなくミサイルはホーミングする。だから、纏まっている内に、落とす」


 エネルギーランチャーを起こし充電させ、完了直後にビームを発射する。ウィンムルドより放たれたミサイル群に命中し、一つの爆発がやがて全てへ誘爆する。これでウィンムルドからのミサイルは消化した。

『そこだ!』

 肩に起こしたエネルギーランチャーの砲身を閃刀で斬り抜かれた。マウントを外して、すぐさまその場から離脱し、武装の爆発から逃れる。


 ま、ウィンムルドのミサイルは全て落としたから良いけどさ。


 空母から発射されたミサイルをブーストダッシュで逃げながらエネルギーライフルの引き射ちで撃ち落とし、これも凌ぎ切る。

『…………本当に、初心者、ですか?』

 テオドラさんから僕を訝しむような通信が来た。


「ええー正真正銘の初心者ですよー」


 どうしよう、そろそろ素が出てしまいそうだ。


 大体、操縦と女の子のフリを掛け持ちするのが無理な話なのだ。しかも、テオドラさんは僕に対して、なにかしらのおかしさを感じ始めている。ボロが出ない内にホルンを落として、この試合を終わらせてしまおう。

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