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Armor Knight  作者: 夢暮 求
第一章 -Encounter-
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喧嘩腰

「準備時間は……二分か、短いなぁ」

 テオドラさんが機体に乗り込まずに三分ほど絶望していたせいだろう。しかし、そこに文句を言うつもりは無い。ついでに自機はオールラウンダーな武装に整えてある。あとは、このルールに合ったように少し変えるだけで良い。


 スラスター、バーニア、装甲の順で現在、装着しているものを調べて行く。Armor護衛ルールであるならば、さすがに紙耐久ではテオドラさんに申し訳が立たない。なので、防御力はいつもより高めに、そして耐久力も総合して数値が上昇するものを選択する。


 武装は……いつも通りで良いか。エネルギーライフルにエネルギーランチャー、あとは近接戦闘用のソード。一応、脚部格納にダガーナイフを数本、入れておこう。


『スズさんの機体名は?』

「オルナです」

『テトラの魔剣から?』

「え、あ、ええと、なんでしょう。語感が良かったので」

 テトラの魔剣ってなんだ? あるのか、そんなの。あとで調べよう。

『スズさんはこのゲームを始めてどのくらいですか?』


「離れていた時期も踏まえると一年と十ヶ月ぐらい」


『え?』

「はい?」

 ……あ、反射的にファーストキャラの頃も換算してしまったのか僕は。

「冗談です」

『冗談?』

「はい。始めてまだ二ヶ月ぐらいです。大体、一年もやっていてまだこのランクなわけ無いじゃないですかぁ」


 嫌だなぁ、あははははー……みたいな。


『ですよね、驚きました』

「そう、一種のサプライズですよ。気にしないで下さいね」

 墓穴を掘ったのは僕であるが、ひょっとすると、こんな誤魔化し方で納得してしまうテオドラさんは馬鹿かも知れない。イケメンでも容姿が女の子ならば、ちょっと発言がおかしな痛い()で許してくれるらしい。多分、ドン引きされたけど。


『対戦相手のパッチペッカーさんについて、少し教えておきましょうか?』

「結構です」

『え?』

「あ、いえ、その、少しだけなら教えて頂けると助かります」


 こっちは防御力は上がるが耐久力が少し下がる装甲と、それとも耐久力は上がっても現在の防御力が少し下がってしまう装甲で悩んでいるんだよ。

 悩んでいる最中に質問はやめてもらいたい。意識しないと女の子プレイはできないんだ。こんな時に質問されたら素が出るんだよ。


 半ば逆ギレのような気持ちを抱きつつ、最終的に装甲を前者のものに決める。決め手は着脱可能か否かという点だった。さすがに、パージを使う勇気は無い。なのになんでこっちを選んだのか、自身の勘を小一時間問い詰めたい。しかし、選んでしまったものは仕方が無い。ここでまた悩むと、準備時間ギリギリまで装甲に気を遣ってしまう。だから、これで良いのだ。そう決める。優柔不断さが出る前に、心の中で決める。


『パッチペッカーさんは、ブラックリスト推奨プレイヤーなのはご存知ですか?』

 「はい、知っています」とは言えない。

「いいえ、知りませんでした」

『女性への粘着、初心者狩り、不正なModの使用。あとはRMTにも手を出しているんじゃないかという噂まであります』

 「はい、どれもこれも耳に入っています」とも言えない

「そうなんですかぁ、怖いですね」

『なので、気を付けて下さい。ひょっとしたら、試合中にとんでもない嫌がらせを受けるかも知れません』

 試合中に口説いて来た男なら何人か知っているけど、どれもこれもブラックリストに入れたなぁ。

「はい、気を付けます」


 ……もう逆のことを言わなくて良い? もう終わり? 知っていることをさも知らないようなフリをするのは、苦手だし物凄い疲れるんだけど。


『ルールがArmor護衛のため、なにかと狙われるかも知れませんが、僕に任せて、スズさんは出来る限り逃げ回って下さい』

「分かりました」

 なんだか、テオドラさんが『僕』という一人称を遣うたびに違和感を覚えてしまう。方言の違いかな。イントネーションが少し、異なる気がする。

 ところで、もう少し作戦っぽいことは話さないんだろうか。今のところ、僕のやることはひたすら逃げることだけなんだけど。


 大会サーバーとのアクセスが完了し、コクピット内のモニターには果てしなく広がる雲一つ無い空が映し出される。その奥に敵機が二体。そして、左側にはテオドラさんの乗るラクシュミが見える。


 試合開始までのカウントダウンが始まる。


『あの有名なテオドラと対戦できるなんて、俺はツいてるな』

『……僕も、別方向で有名なパッチペッカーさんとお相手できるなんて幸せ者ですよ』


 対戦を始める前から喧嘩の売り買いしている場合じゃないと思うんですが、冷静に戦ってくれますよね、テオドラさん?


『初対面の相手に喧嘩を売ってんのか? テオドラってのは、もっと聡明な奴だって聞いたけどなぁ』

『初対面なのはブラリに入れているからだと思います。まぁ、元々、お会いするつもりも最初からありませんでしたし、あなたにはどう思われたって構いません』

 対戦開始を告げるアラートが鳴り響くが、ラクシュミも、パッチペッカーの乗る機体――ウィンムルドもまだ動かない。

 言葉の応酬ばかりが先走っている。これは刹那の勝負とか、どっかの西部劇にある早撃ち勝負なんかじゃないんだから、そろそろ動いてくれないとこっちも合わせられない。


 パッチペッカーに嫌悪感を抱くのも仕方が無いとは思う。ブラリ推奨プレイヤーだし、本来なら彼との会話すら完全にシステムでブロックすることだってできるはずだ。なのにわざとブロックせずに、こうして口論する様というのは面白さの欠片も無い。テオドラさんは正義を振りかざしているつもりなのだろうけど、僕から見ればただの自分よがりだ。観客は大いに盛り上がっても、僕は大いに盛り下がっている。


《そういえば、私も対人戦で会ったことが無いなぁ》

 通信ではなく個人チャットでルーティが割り込んで来る。

「僕がブラックリスト推奨プレイヤーは粗方、登録してあげたから。設定は『強』だから、チャット、メール、会話も全てブロックしているはずだけど、聞こえるの?」

《うん、コンソールにそれぞれのプレイヤーが映し出されているんだけど、それ越しなら聞こえる》

「あーコンソール経由か。って、もしかして僕の姿はともかく声も聞こえるの?」

《んー、声は合同通信だけっぽいね。個人通信と個人チャットも無音っぽい。でないと観戦している側から相手の作戦が筒抜けだもん》

 それなら僕とテオドラのとんちんかんなやり取りは聞こえていなかったってことだな、それなら良しとしよう。

《ねぇ、このまま個人チャットは開いたままで良い?》

「そんなに気にならないから構わないよ」


 むしろ、ルーティの声を聞いていると安心できる。


『――あーダメだ。話していたら、なんか腹が立つだけだなぁ、おい』


 だって今、こんな一触即発な状態なんだもん。

 それでも、ようやく会話の応酬が終わったらしいことに僕は胸を撫で下ろすばかりである。


 ウィンムルドが腰に差していた鞘から刀を引き抜いて構えた。途端、刀身は熱を帯びて輝き、炎を纏う。

「閃刀『ヒヒイロカネ』に炎熱のエンチャントか」

 三属性をエンチャントできる万能性から人気も高い。三本揃える人も居るくらいだ。改造までの道のりも割と難しくなかったはず。

『炎熱の効果は耐久力へのスリップダメージです、気を付けて下さい』

 言われるまでもなく、オルナを操縦し、ラクシュミより後方へと移動させる。


 装甲の薄さに対してスリップダメージ……純粋に防御力は無視して、機体そのものの耐久力を削りに行く戦法のようだ。ラクシュミは見たところ装甲が薄いからそんなスリップダメージに頼らずとも近接戦闘なら、斬り合いにさえ勝てばゴッソリ耐久力を持って行けそうなのに、それでもあの閃刀を使うのはパッチペッカーの一種の拘りだな。


『正々堂々と戦いましょうか。この言葉を、あなたに向けて使うなんて思いませんでした』

 ウィンムルドが構えてスラスターを噴かせて前進して来るので、ラクシュミが動き、球体の物質を上へと放り投げた。


 球体は宙で長方形の剣身に展開し、ラクシュミの右腕が柄を握り、その先端と長方形の剣身が結合されて、一振りの大きな剣と成る。

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