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Armor Knight  作者: 夢暮 求
第一章 -Encounter-
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ペアマッチ

「あれが、ラクシュミか。男のくせに、女性素体のKnightを使うんだな」

 機体のカラーリングは白銀を基調としており、関節部位の色を黒に塗ることで一種のメリハリを感じさせる。


 エネルギーライフルが一挺、ランチャー系は無し。頭部パーツは人型。遠距離からの攻撃はあまりしないタイプか? でも、近接武器は……ここからじゃ確認できないか。それにしても、どのパーツも装甲の薄いものを選んでいるな。だからスマートでスリムなフォルムがよけいに際立つんだろうけど、あれじゃ耐久力に問題がありそうだな。


 男がわざわざ、機体に女性らしさを求めるとか、イケメンじゃなかったら痛い人だ。ラクシュミという機体名に合わせて武装を選んだのか、はたまた、男のくせに機体に可愛らしさを追究しているのか。


「ルールはペアマッチサドンデス。マップは『イージス艦上空』です!」


 主催者がルールを告げると騒がしい観客の内、「主催者の言っていたお遊びルールが一発目かー」という声が特に耳に入った。

 開いていたコンソールから主催者のブログにアクセスし、該当記事を読む。


 フレンドを互いに一人ずつ交えての2vs2ルール。ただし、フレンドはArmor限定。また、そのフレンドが撃墜された方が負けになる。いわゆるミッションでよくある護衛任務を対人戦向けにシフトしたものだ。

 面白そうではあるけど、これは事前にフレンドに了解を得ていないと、試合に出てもらうというのはなかなか難しいんじゃないだろうか。


「『イージス艦上空』ってどんなところ?」

 景観が変化し始めた直後にルーティが訊ねて来る。

「『海上を進むイージス艦より、彼方に敵機体を捕捉。パイロットは即座に出撃して下さい』っていうアナウンスが入る。空中戦はオブジェクトが少なめだけど、このマップの場合はイージス艦からランダムにミサイルによる迎撃が入る。敵味方の区別無く撃って来るものだからアナウンスとは合わないって意見もあるけど、どちらか一方に有利なマップってのもなんだかおかしいし、僕は面白いマップだと思ってるよ」


 ただミサイルを処理していると敵機体に無防備な一面を晒してしまうことが多く、このマップを嫌う人は多いと言えば多い。

 1vs1での対人戦マップと言えば、一切のオブジェクトやギミックが入らない『山岳部上空』が選ばれる。むしろここを選ばないと常識知らずとまで言われる。だが、ペアマッチというルールならば形だけでも2vs2だ。1vs1よりはあのミサイルの対処に()く時間も減るだろう。


「じゃぁ、ミサイル迎撃が入ったときが攻撃のタイミングになる?」

「同時に狙われるタイミングでもある。放置したいけど、あのミサイルはホーミング性能があるからね。いつかは撃ち落とさなきゃならない。そのタイミングをいかに速く、或いは遅くするかがポイントになるのかな」

「やっぱ、経験者は言うことが違うねぇ」

 幼馴染み特有の茶々の入れ方である。

「横に無駄解説を入れる無駄な幼馴染みが居て悪いね」

 ならば僕も、幼馴染み特有の返しをしておこう。

「一人で見ていたら全然分かんないし、こういうのって解説が無きゃ分かんないよ。サッカーだってルールを知らなきゃ分からないし、解説があった方が面白くない?」

 サッカーがどうかは分からないけど、確かに試合中継の番組は解説あり気で成り立っている気もする。


 だけど、ゲームをプレイしている最中に横から色々と言われると腹が立つので、やっぱりスポーツとゲームを同列に語るのは間違っているんじゃないかな。


「できる限り、ルーティにも分かるよう喋って行くよ」

 しかし、ルーティがその方が良いと言うのならば、僕は知識をひけらかしても構わないのだろう。

「ありがと」

 今更、幼馴染みにありがとうと言われても歯痒さはない。


 あれ?


 意気揚々と壇上から消えて行ったパッチペッカーと違い、テオドラは立ち尽くしたまま、コクピット内への転送を行わない。回線トラブルかなにかだろうと思いつつ、手元のコンソール画面で彼を捉え、顔をよく見るために拡大する。

「どうかしましたか、テオドラさん?」

 主催者が壇上からなかなか動かないテオドラに話し掛けている。恐らく、彼がラクシュミに乗り込まなければ、主催者も気掛かりで観戦サーバーへ移動することができないのだろう。


 ……あんなに近くに居て、あの表情からなにも分かんないとか、あの主催者はきっとリア充なんだろうな。ほんっと、リア充のクセにネト充でもあるなんて、滅べば良いのに。数少ない、リアルが充実していない僕らのような居場所すらも侵して来る。

 そんなことをされると、僕みたいな人間は一体どこで平穏に生きて行けば良いのか、分からなくなってしまう。


「あ、やる気だ」

 ルーティは僕の表情を見て、なにかを悟ったらしい。

「私は解説役が隣に居なくても問題無いから。むしろ、スズのやる気が出た時の動きを、よく見ておきたい」

 幼馴染みに後押しされ、僕はコンソールを操作し、観戦サーバーではなく、大会サーバーに居るプレイヤーの一覧を開く。そこから『テオドラ』を選択し、手早くフレンド申請を送った。


 フレンドが居ない。だからテオドラさんは立ち尽くしていたのだ。しかし、テオドラさんはフレンドが居ないことを悟られまいと、表情に出さないようにと努力していた。だから、リアルでも友達の居ない僕のような人間にしか気付けない。ルールがペアマッチになった時の絶望感は、きっと誰にも分からない。

 イケメンで有名なのに、フレンドが居ないっていうのもどうなんだとは思うけど、僕は「ぼっちでもイケメンだから」って理由は見捨てない。そんなのは、ルーティの言っていた本当の意味での「妬み、僻み」になってしまう。


 どうやらフレンド申請が通ったらしい。自身のフレンドリストに新たに『テオドラ』が追加されている。直後に『助かります』というメールも届いた。


 なんでいきなりフレンド申請を送った人にこの人は感謝しているんだ、と思いつつ彼との音声チャットを開く。


「聞こえますか、テオドラさん?」

『はい。あの、どうしてフレンド申請を?』

 正直に「あんた友達居ないだろ」とは言えないので、ここはファンという方向性で行ってみよう。

「私、テオドラさんの大ファンなんですよ! ずっと前から憧れていて! それで今日もテオドラさんが大会に出るって聞いて観戦しようと思っていたんですけど、ペアマッチのルールをテオドラさんが引いたってなったら、もう是非、一緒に戦いたいなって思って!」


 キャピキャピ♪ みたいな。


 隣でルーティが笑いを(こら)えている。そのまま堪えていろよ? 笑い出したら僕もこの演技に耐えられなくなって腹を抱えて笑ってしまうから。

『そんな理由で……』

「やっぱり駄目ですか? もうペアを組むフレンドさんと連絡を取ってしまっていたなら、御免なさい」

『いえ、“僕”もフレンドが誰もインしていなくて困っていたところなんです。ですので、今回だけですが特別に』


 そのフレンドリストを隣から是非とも覗きたいんだけど、それは言い換えれば、隣から僕のスマホの電話帳アプリを覗かれることと同義なので、見る機会があったとしても絶対にやらない。こういったことは大抵、自分に置き換えれば衝動を抑えられる。僕はイジメられっ子気質ではあるが、決してイジメっ子気質では無い。


「わぁ、ほんとですか! ありがとうございます!」

 駄目だ、さっきまでは笑いを堪えていたのに、急に自分のやっていることに吐き気を催して来た。修学旅行でいらない物を買って、家に帰って「どうすんだよ、これ」と改めて見た時のそれと似ている。だってあの時は欲しいと思ったんだよ。


『それではルームの暗証番号をメールであとで送りますので、少し待っていて下さい』


 音声チャットはテオドラさん側から切られた。

「…………なんだよ、その目? さっきまで笑いを堪えていたじゃないか。なんでそんな目を向けて来るんだよ」

「いや、スズとテオドラさんだとこれは男同士の友情なのかな、それとも異性同士の友情なのかな、はたまた恋愛に発展すると、どうなっちゃうんだろうと深く考えちゃっていて」

怖気(おぞけ)が走っただろ、やめろよ」

「え、でもスズは女の子でしょ? イケメンとの恋愛は有りでしょ?」

「無しです」


 中身を考慮して欲しいところなんですが、どうなんでしょうルーティさん。

 僕が頼むからそんな脳内妄想はやめてくれと願う中、テオドラさんからのメールが届く。


「守られる側って僕のプレイングじゃないんだよなぁ」

「なにか言った?」

 観客の声に埋もれてしまったらしい。それぐらい僕の声量なんて大したことが無いのだ。

「動きは参考になる程度に頑張るけど、実際のプレイスタイルとは全然違うから、そこは念頭に入れておいてね」


 メールに載せられていた暗証番号を入力し、注意事項と質問の一番下にある『はい』をタップする。ルーティと居た観戦サーバーから大会サーバーに移動し、今はもう自機のコクピットのシートに座っていた。

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