-Prologue-
「女の子がこの世界を好きになるのは難しいよ」
私にそう忠告した男を憶えている。プレイヤーネームが非公開に設定されていたせいで、名前を知ることはできなかったけれど、男性に囲まれて戸惑っていた私を、わざわざ知り合いと偽って救い出してくれた男だ。
「女の人だって、ちらほらと見掛けているんですけど」
「君みたいな初心者の頃に挫折しなかった人だよ。さっきみたいに善意で擦り寄っているようで、実は下心が満載な男を上手く利用して、騙して、あしらって、そして一人立ちした人だ。君はそんな図太い神経を持っているかな?」
会ったばかりだというのに上から目線で、どことなく初心者な私をバカにしているように思えて、助けてくれた人だというのに信用できるような相手ではないことを即座に察した。
「やってみなくちゃ分かりませんよ」
「……なら良いや。次に困るようなことがあっても、助けたりなんかしないから」
「助けなんて、い・り・ま・せ・ん!」
反抗的な態度を向けて、私は踵を返した。もう話なんてしたくない。そういう意思の表れだったし、もう私に話し掛けるなというオーラだって出したつもりだった。
「その道を真っ直ぐ進んだ先に電子掲示板がある。いわゆるBBSだ。そこに初心者入門のスレッドが立っているから、よく読むと良いよ」
「親切にどうもありがとうございます」
イヤミったらしくそう返した。しかし、内心では感謝していた。
「あと、設定で嫌な発言をブロックすることもできるから。やり方、分かる?」
「え……あ……その」
「ほら、まずコンソールを開いて」
振り返ると、その男の人は私の傍に立っていて、わざわざ自身の半透明のコンソールを開いてまで設定の仕方を教えようとしてくれていた。
「あなたも下心を持って接しているんですか?」
「ただの親切心。教え方が淡々としていて初心者には嫌われがちだから、普段はやらない」
「ならなんで……?」
「君は強くなりそうだから。なんとなく、そう思っただけ」
そう言われたって、このゲームを始めたのは今日が初めてだし、いまいちピンと来なかった。
「挫折しなきゃの話だけどね」
そのイヤミを今でも、ハッキリと憶えている。
けど、そのイヤミがあったからこそ、今の私があるのだと思う。