キラキラ
「で、どうだったの?」
バラエティー番組を見ている最中に、徹也がいきなり問いかけた。
「え、何が?」
葉奈は、何を聞かれているのかわからず一瞬戸惑ったが、丁度番組がいいところだったし、徹也もテレビを見たままだったので、再びテレビに視線を戻して笑い始めた。
徹也はそんな葉奈をチラッと見て一瞬不機嫌そうな顔をしたが、同じようにテレビに視線を戻した。
番組が終了し、葉奈はようやく徹也の方に顔を向けた。徹也はテレビのリモコンを持って、チャンネルをカチャカチャと変えている。
「さっき言ってた『どうだったの』って、何のこと?」
「別に。」
「別に…って。なによ、気になるじゃない。」
そう言って、チャンネルを変え続けている徹也の腕を揺する。
「ねえ、なに?」
「何でもないよ。」
「気になるから言ってよ。」
「…。」
「ねえってば!」
葉奈にせがまれ続けて観念したのか、しばらくすると徹也はしぶしぶ口をひらいた。
「…同級会。行って来たんだろ。」
葉奈の実家は、ここから新幹線で二時間程かかる、お世辞にも都会とは言えない場所にある。
正月休みを利用して開催された同級会。それが行われたのは、もう一週間も前の話だ。それを何故今ごろになって…。
「…昔の男に会ったんだろ。」
実家から帰って来て話そうとした時は、興味なさそうにしていたのに…。
「もしかして、ずっと気にしてた?」
葉奈は少し嬉しそうに、徹也を覗き込んだ。
「ばかじゃねーの?そんなわけないだろ。」
普段やきもきなどめったに焼かない徹也。ぶっきらぼうに言い放ったが、その顔は少し赤くなっているように見えた。
葉奈は嬉しくて、徹也をもっとかまいたくなったが、怒りだしたら面倒なのでやめた。その代わり
「そんなに聞きたいなら話してあげるよ。」
と、とびきりの笑顔で言った。
「別に聞きたいわけじゃ…」
「そんなこと言わないで聞けばいいよ。」
「…じゃあ、勝手に話せば?」
徹也はまだリモコンをいじり続けているが話が気になっていることを、葉奈はわかっていた。
「まず言っておくけど、『昔の男』っていうのは誤解だからね。そうじゃなくて、私が一方的に好きだったひとなの…。」
彼を初めて見たのは、高校受験を間近に控えた予備校の冬期講習会だった。同じ中学校の友達であろう男の子のグループの中に彼はいた。真面目に勉強している姿と、友達と話しているときに見せる笑顔が、とても印象的だった。
高校の入学式で彼を見つけた時は、本当に嬉しかった。しかもクラスまで一緒だった。
彼は明るくて真面目でスポーツもできて友達も沢山いた。地味で目立たないタイプだった葉奈は、そんな彼に自分から話し掛けることがほとんどできなかった。
思い切って告白したのは、確か高校二年の終わり頃だった。
緊張のあまり、自分が何を言ったか、彼になんて言われたのか良く覚えていない。ただ記憶にあるのは、
『彼女いるから』
その一言だけだ。
あんなにいつも見ていたのに、何故気付かなかったのか…。悲しさと恥ずかしさとで泣きじゃくった。
「その彼女っていうのが、クラスで一番明るくてかわいいこだったの。」
「ふうん…。」
葉奈の話に徹也は、興味がなさそうに相づちをうった。
「ふうんって…なにそれ。聞きたいっていうから話してあげたのに。」
「別に聞きたいなんて言ってねーよ。それに、過去のこととかどうでもいいし。」
徹也の言葉に、葉奈は唇を尖らせた。確かに徹也にとってはどうでもいい話かもしれないが、葉奈にとっては大切な思い出だ。
「…それで?」
「え?」
「それで、久々にそいつと会ってどうだった訳?」
「ああ…。結婚してたよ。その時付き合ってた彼女と。」
徹也はニヤリと笑い、葉奈の髪をグシャグシャにし始めた。
「それは残念だったな。」
「もう、やめてよ。」
葉奈は徹也の手を払いのけ、
「別に残念じゃないよっ。私には徹也がいるもん。」
と、徹也の腕にしがみ付いた。
そんな葉奈の頭を、徹也はさっきとは違い、優しく撫でた。
彼を好きだったあの頃から五年が経った今も、あの笑顔は変わらなかった。
そんな彼にあの頃と同じようにドキドキしたことは、徹也には秘密にしておこう。
何年たっても、彼を見ればあの頃のキラキラした気持ちは甦ってくるだろう。きっと色褪せないまま。
例えお互いに他に大切な人がいたとしても。
―幸せでいてほしいな。そして私も。負けないように幸せになろう―
葉奈は心からそう思った。