43 終戦
私が気がつき、最初に見たのはさく姉が結界のようなものに閉じ込められ足に土の槍が突き刺さっている所だった。
すぐ立ち上がろうとしたが、お腹が痛く倒れこむ。回復薬をポーチから出そうとするが、開けたらただのポーチになっていた。何でこんな時にこんなことになるんだろう。
私はどこかで、さく姉ならどんな事でも乗り越えて、また明日からは普通の日常が来るんだと思ってた。だけど、逃げてる時も魔術が全然うまく使えなくて、それなのに私を逃がす事だけを考えてくれてたのに。私はさく姉ならなんとかなる、夜うなされているのもすぐに良くなると、願うばかりで結局何も出来なかった。私は大きな声で、さく姉の名前を叫んでた、いなくならないって約束したのに、嘘だ。
そんな状況なのに、さく姉は私の方を見て笑顔だった。
空気が変わったのは、レイが私を殺すと言った時だ。元々そのつもりだったはずなのに、白々しい。でもその言葉を発端にさく姉の左手から黒い蛇みたいなのが出てきてる。ギルド長が早く殺せと叫んでいるが、レイはつまらなさそうにさく姉に止めをさす。お腹や顔に槍が刺さる。私は目を瞑った。
涙がどんどん出てくる、あいつが憎い、少しでも戦ってやる、そう思い立ち上がると、さく姉の異常な光景が目に入る。
左手から出ていた黒い蛇は、今は全身から這い出て結界の中で暴れ狂っていて、結界を中から喰い破ろうとしている。ギルド長が、慌てて結界を強化しているが喰べる速度のが速い。さく姉が無事で本当なら嬉しいはずなのに、嫌な予感しかしない。結界が喰い破られ黒い蛇が、外に溢れ出した。中から出てきたのは、真っ黒の髪の毛になってる、さく姉だ。でも雰囲気はおかしい。
「やれー!」
ギルド長が叫ぶと、建物の陰から次々と男が飛び出しさく姉に襲いかかる。きっとあれは私たちをずっと監視していた奴らだ。索敵にもひっかからない実力は、きっととても強いはずだ。
なのに、さく姉は、手で髪をかきあげただけの動きなのに、飛び出し襲いかかった男達は空中で爆ぜた。辺りに血の臭いが充満する。
「ふぅ〜ようやく出てこれた。種で繋がってたはずなのに、思いの外抵抗されたなぁ、うん?なんだこれどうなってるんだ、あれ?お前確か。」
大きい声を出してないのに、遠くにいる私にもはっきり聞こえる。こえはさく姉の声なのに全然違う。誰?みんなが注目してる中、さく姉は空中で物をつかむ動作をすると見えない腕がギルド長を掴み自分の方へ近づけた。
「お前神の使いか。最初からこうして神殺しをしとけば、めんどくさいことにならなかったのに。」
「ひいいぃ、やめろぉ。」
さく姉の形をしたなにかは、ギルド長の首を力任せに引きちぎり、体から出ている白い光を吸い込んでいる。すると、なぜか私の左の足首が光、力が入ってくる。これ、結界魔法の使い方がわかる。
「おい、そこのお前ちょっと俺に魔法撃ってみろよ。」
「この、Cランク風情の死に損ないの冒険者が!」
レイは、激昂しながらも、魔法を撃つ。どう考えてもあれは、さく姉じゃないのに。私はその隙に、ニコルさんの元へ駆け寄るが、もう手遅れだった。さく姉の形をしたなにかは、レイの魔法を直撃してる。
「ん?確か神を喰らうと力が使えるんじゃなかったけ、しかし弱い魔法だ。」
「何言ってやがる!俺はSS冒…… 」
レイが言葉を言い終わるまえに、あいつが掌を握るとスラム街が一瞬のうちに消滅した。文字通りなにかの空間に吸い込まれるように無くなった。残ったのは大きな穴だけだ。
「ひぃ、Cランク風情の冒険者のくせに!」
「俺から言わせば、人間風情が馴れ馴れしい。」
レイは一目散に逃げようとしているが、なぜかさく姉がされたように、体中に土で出来た槍に串刺しになり死んだ。もうここで生きている人間は、私とあいつだけだ。
「さく姉の中から出て行け!」
私は震える声で叫ぶ。あいつは無造作に、魔力の塊を私に向かってぶつけてくる。私もこれで死んじゃうな、そう思って覚悟を決める。最後はさく姉の魔力で死ぬんだ。本望だ。魔力は私に直撃するが、痛みは何も襲ってこない、むしろさく姉に頭を撫でられてる時のような安心感に包まれる。その時アイテムポーチが、光ってる気がして手を入れる。
「あれ?なんでお前死なないの?」
あいつは、私のそばに一瞬で移動して、体を引っ張りあげる、左足首の痣をじっと見つめている。
アイテムポーチの中に感じる何かがあるが、取り出せない。
「これは、キャハハ、神の奴隷の聖紋かよ。オークキングの時あったガキが、憎しみ捨ててそんな風になるなんて、いったいこいつはお前に何したんだよ。」
さく姉の顔で下品に笑うな。それでも私は怒れる心を鎮める努力をする。
さく姉が魔法は集中力よといつも自慢げに言っていたことを思い浮かべる。
さく姉に集中力なんかあるんですかと、じゃれついては笑い合ってたあのころの楽しかった思い出はもう来ないかもしれない。それでも私は戦う。
あ~これが魔力の流れか。イメージする。さく姉とこいつ?いやきっと無理だ、私との力の差がありすぎる、せめて今こいつが持ってる手を拒絶する。バチンと音が鳴り、あいつが私の手を放している。
「おぃ!お前が何で結界魔法使えるんだよ?」
そんなこと聞かれてもわかるわけない。声を無視して、ポーチから光ってるものを取り出す。
さく姉が全財産を払い購入した訳の分からない石だ。
なんだかよくわかんないけど手ほ離すと、光の粒が集まり人型になる。
神様?
「…… アポネシアなんでここにいる?」
「お前が何で桜の体に入ってる?出ていけ。」
あの石から、封印されてたアポネシア様が出てきたの?さく姉に入ってたやつも少し動揺をしている…… 本物なのかな?
「お前も神殺しで神が減るのは都合がいいはずだろ!それにこうやって人が死ぬのも!」
「それ以上お前の存在で桜を汚すな。」
静かにしゃべっているだけなのにすごい威圧感。さく姉の頭に手をのせるとさく姉の体から、あいつの気配もなくなり、黒かった髪も半分は金色に戻っていた。
「マメリコルか?」
「はぃ、そうです、あのさく姉は?」
「大丈夫だ、それより私はもうすぐ消えてしまう。お前と桜はここで見つかったらひどいことになるだろうから、安全のところへ飛ばす。その結界を解いてくれないか?」
私は結界を張っていたことを忘れていたので慌てて解く。よかった、さく姉は生きてる。
「それじゃあ、桜の事を頼んだよ。」
私が目を開けると、森の中だった。
この日を境に一人を残して、結界魔法を使える人はいなくなった。




