お茶を飲みませんか
写真を見ながら昔撮った枯山水を見ていて何時の間にか書いていました
お茶を、飲みませんか?そう話しかけられて我に返った。そうだ、私は気が付いたらここにいて、綺麗な庭に見とれて…
「ふふ、先程から熱心に見られておいででしたので邪魔するのは気が引けたのですけれど…」
勝手に入り込んで、挙句には居座り庭を眺めている不審者にそんな言葉を掛けることが出来るなんて…。凄くいい人なんだろうな、と思いながら謝り倒して家の中にお邪魔させてもらうことになった
案内されたのは小さな茶室で隅までとても綺麗に掃除されているのが良くわかった。お床にも綺麗な花と掛軸が飾られていた。まるで誰かが来るのを待っていたかのように感じたけれど、私が庭に見入っている間に用意してくれたのだろう
「…え?懐紙も何も無いのですか?ふふ、そうだろうと思い用意させてもらっています」
懐紙も菓子切りも何も持っていない事を伝えると笑顔で返された。女の人はそっと手渡してきたそれらは素人目に見ても明らかに高い物だった。懐紙には模様があしらわれていて、菓子切りも手触りが良い木を使っているらしく少し触っただけでも細かい細工がされていた。…こんなもの使っても良いのだろうか
「ええ、大丈夫ですよ。この子達も使う人が居た方が嬉しいでしょうから」
この子達と表現したのに少し疑問を持ったけれど特に気にせずに座らせてもらう。女の人の名前を聞いてなかったと思い聞くとお茶を飲みながら話しましょうと流されてしまった。まあそういう遊びもあるし、今は私も名乗らないでおこう
目の前にお茶が置かれて私の向かいに女の人が座った。そして話し始めた
「私はずっと昔からここに住んでいまして、その時から一人だったんです」
「それである日蔵の中を整理していると、ある箱が出てきたんです。それが貴女を連れてきてくれたんですよ。私がいつも一人は寂しいって悲しむから」
連れてきた?可笑しなことを言う人だ、箱が人を連れてくるなんて出来ないのに。女の人はニコニコしながらこう言った
「少し、お願いがあるんです。私とここに住んで頂けませんか?」
別に良いですよ、と返すと頼んできた本人が吃驚していた。まあそりゃあ、そんな簡単に頷いたのが吃驚したのだろう。女の人は本当、本当に!?と何回も聞き返して来た。実はここに入ってから出ていくのが勿体無いなぁという気持ちが心に残っていて住むのも良いかと思ったのだ
「っ…!なんて素敵な日なんでしょう!さあ、皆を呼んで宴会をしましょう!」
先程まで大人しい、いわゆる大和撫子だったのに急にガバッと立ち上がったと思ったら外に向かって叫んだ。…あれ?一人で暮らしてるんじゃ?すると一気に何かの気配が増えた。気配とかが分かるわけでは無いけれど今のは分かった。先程までは人気のない屋敷だったのに、声がする、歩く音がする、笑っている声がする
「ふふ、また家族が増えましたね。用意が終わるまで遊びましょう!」
そう言って女の人は何時の間に持ってきたのか綺麗な箱から紙風船やすごろく、お手玉や貝合せの貝を取り出してきた。女の人の言った家族という言葉に揺らいでしまったけれど、一度言った言葉を覆してはいけないと思い飲み込んだ。女の人も凄く楽しそうで部屋だけでなく屋敷、いやこの土地が喜んでいるのが分かった
ああ、私もここに取り込まれたんだなぁ
閲覧ありがとうございます
このお話、今までの作品のタイトルが入っているんですよ。書いている途中で気が付いてビックリしました…
一回消そうかと思ったんですけれどやっぱり入れた方がしっくり来たので入れときました。自分の好きな文を書くのはとても楽しいです…
でも暗いのばかりなのでそろそろ恋愛物語書いてみましょうかね?