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活動報告を更新したのでよかったら覗いてみてくださいな

 空が青い。フワフワと浮かぶ雲になりたい。こんな現実逃避をしてばかりの毎日だ。


「……では、ここをWR00000231番。答えてみなさい」


 彼女は何も持っていない。異常な彼女は生まれたときからただの観察動物として育てられてきた。クラスメイトも同じだ。同じ使徒の姿をした観察対象(別のモノ)を、自分たちと同じように接することはありえない。

 答えようと答えなかろうと、馬鹿にされるのはいつものことだ。


「WR00000231番! 聞いていますか!」

「……はーい?」


 これ以上無視すると後で職員室に呼び出されるのを知っているため、仕方なく返事をする。前を向くと案の定、先生も含めてみんな軽蔑の目を彼女に向けていた。これで熾天使の使徒だというのだから、笑わせてくれる。


「新暦0年に起こった、これまでの常識と生活が一変した出来事は?」

「大崩壊です」


 ここまでは、幼稚園生でも知っていることだ。


「では、大崩壊が起こった原因は?」

「悪魔王の仕業です」


 これも正解。どうやら答えるのはここまででいいようだ。彼女が席につくと、先生は話を始めた。


「みなさんも知ってるとは思いますが、今から564年前、人間と呼ばれる種族が地球を支配していた時代が終わりました。原因はトウキョウから発生した強大な負のエネルギーで、世界のあらゆる法則を書き換えたといわれています。現在トウキョウは大崩壊の影響で未知数の魔物の巣窟と化していますが、どの悪魔王が大崩壊を起こしたのかは未だに分かっていません。何故ですか? GP30046798番」

「はい。どの悪魔王たちも自らが大崩壊を起こしたことを否定しているからで、実際に調査したところ、トウキョウから発せられるエネルギーはどの悪魔王のエネルギーとも違う波長だったからです」


 先生が正解と言うと、GP30046798番はWR00000231番のほうを向きながら座った。「どうだ、お前とは出来が違うんだよ」とでも言いたげな顔をしている。

 彼女が一瞥して再び空を見上げ始めると、彼は一瞬無視されて頭にきたが、現実から逃げたいんだろうと自己解釈してさっきと同じように侮蔑表情を向けて前を向いた。







 青年とベルフェゴールが法則を破壊して564年。地球は11の大陸と6つの大海に分かれ、それぞれの大陸を自らの領地とする熾天使と悪魔王たちのとの間で激しい争いが続いていた。



 『傲慢』のルシファー。

 『憤怒』のサタン。

 『強欲』のマモン。

 『嫉妬』のレヴィアタン。

 『暴食』のベルゼブブ。

 『色欲』のアスモデウス。

 『治癒』のラファエル

 『正義』のミカエル。

 『守護』のウリエル。

 『全知』のガブリエル。

 『全能』のルシフェル。



 人と呼ばれた脆弱種族はすでにいない。天使とそれに仕える使徒。悪魔とその眷属。そしてどちらにも属しない異形の魔物。

 数で勝る悪魔たちが天使領に攻め込み、質で勝る天使たちが押し返しては逆に悪魔領に攻め込んでは悪魔が押し返すという押し問答を延々と繰り返している。

 作戦を練る事もあったが、結局は数対質の乱戦になるのだ。対極の存在であるがために、互いを滅しようとしてそれどころではなくなってしまう。魔物が戦場に入ってこようとも、それに構うことなく戦い、魔物は巻き込まれていつの間にか死んでいることも珍しくない。


 そして、ここは『治癒』のラファエルが治める街の1つ。戦地とは程遠い大陸の中央に位置し、魔物もほとんど出現しない平和な街である。そのため教育に適しており、学校がいくつもあり、彼女が通う学校もその1つだ。

 使徒の能力で学校は割り振られており、最低値なはずの彼女はどういうわけか最も偏差値が高い学校に入学させられていた。そのためか、周囲に友達と呼べる学生はおらず、いつも独りでいるのが当たり前になっていた。今日も学校が終わり、軽蔑と疑問を含んだ視線に晒されて帰るところだ。


――これが熾天使の使徒か――


 彼女の心の中はいつもそればかりだ。

 熾天使に仕える者として正しい振る舞いをしなさいと散々大人からを酸っぱくして言われてきた、それ以前に使徒として当然のことなのだが、その大人でさえ彼女を蔑む。正しい振る舞いとは何なのか。幼い頃、まだ彼女が自分は使徒であると一縷の希望を持っていた頃に先生に問いただしたら『あなたのような出来損ないに教えることはありません』と言われたものだ。

 当然彼女は反論した。『誰にでも平等に神の導きを説くのが使徒の使命ではないのか。私に教えてくれないのは不平等ではないのか』と。


 そしたらどうだ。激昂した先生に幾度も殴られ、何時間も説教され、挙句の果てには通常では1週間かけてやっと終わる量の宿題を出され、それを1日で済ませろと命令された。その日から、彼女は使徒であることをやめた。否、悪魔になりたい(堕天したい)とすら願望した。

 ちなみにその先生は上から使徒として相応しくないとのことで、追放されたと風の噂で耳にしていた。


 そもそも、使徒とは何なのか? 一般的には先程解説したように使徒に仕える者が使徒であり、悪魔の軍門に下っている者たちが眷属と云われている。

 では、使徒と眷属の違いは何か? 上位存在に従っているという意味では、どちらも同じである。決定的に違うのは、その特性だろう。


 天使は理性に忠実な、悪魔は欲望に忠実な集団だ。故にいつまでも停戦や和平といった穏便な方法で済ませようとか、彼らに言わせれば甘い考えは起こさない。

 もう1つ違うのは、その姿だ。


 例えば服装。天使が全員トーガを着るのに対して、悪魔はこれといって統一した服装を持っていない。それは体形に理由がある。

 天使は白い翼に頭上に浮かぶ輪。身長や体型、翼の枚数は微妙に違えど、基本は同じである。


 天使に対して、悪魔は千差万別だ。身長1つ取っても、10mを超す者もいれば30cmととても小さい者までいる。

 他にも、腕が3対あったり異様な角が生えていたり、中には決まった形をとらない者までいる。そうなれば服装を揃えるというのも馬鹿らしくなるというものだ。


 ともかく、天使と悪魔は色々と違いすぎるということだ。


 要するに。


「……んあ?」


 空から人が降ってきたら、まず一斉攻撃をくらうということである。




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