Look Me in the Eye
『だって、かわいかったんだもん』
ここ数日の俺の懊悩を、あいつはあっさりと一言で片づけた。
『すだれ眼鏡』にカレシが出来た。しかも、それが俺。
学校中が驚いた。その週の休みが明けると、『すだれ眼鏡』は姿を消していた。
代わりに、びっくりするぐらい可愛い、小柄な女子がひとり。
あんぐり口を開けて、何度も上から下まで眺めていると、呆れたような顔をしたあいつが、「気が済んだ?」と片眉を上げて見せた。
あの野暮ったい制服姿はどこへやら、『すだれ眼鏡』は黒いハイソックスに包まれた白く伸びやかな足で、トントンと地面を蹴った。
「このローファー、サイズ合わなくて」
一応、22センチだから大丈夫かと思ったけど、大きかったみたい。
膝下まであったはずのスカートは、膝上10センチに。
カーテンのように顔を覆い隠していた髪は、さっぱりと整えられ、品のよさげなボブになっている。
とはいえ、シャツはうちのガッコの女共がやってる、中身まで見えんじゃねえのってぐらいボタン開けてる格好ではなく、少し緩められた衿元にはちゃんとネクタイが締まっている。
俺が嫌いなくさい香水もなければ、茶色くてくるくるしてる髪でもない。
それはうちみたいなバカ学校の制服でなく、どこかええとこのお嬢さんみたいだった。
ああ、くそ。
それはよくない。非常によくない。
何がよくないって、そんな格好してると、どんぴしゃ俺の好みだってことが、一番よくない。
「……なんだそりゃ」
「……第一声がそれ?」
あからさまに不服そうな顔をする。
「なんだってそんな激しいイメチェン……」
「イメチェンっていうか、元々これが素だし。いい加減髪も鬱陶しくて。エージも彼女があんな珍妙な格好だったら嫌でしょ」
「そうだけど…」
「何かご不満でも?」
「ねぇよ。別にねぇけど…」
とりあえずご飯にしない?
『すだれ眼鏡』は無理矢理話を引き上げて、にこっと笑って見せた。
それはもう一分の隙もない完璧さで。
一緒に屋上でたむろっていた俺の悪友たちがどよめく中、俺だけが嫌な予感にぶるりと背中を震わせたのはなぜだろうな、とどんより思った。
***
黒髪の下に美少女の面を隠し持っていた『すだれ眼鏡』に『なぜ俺と付き合うだなんていったのか』という台詞を思い切ってぶつけてみたが、あっけらかんと冒頭の一言が返ってきた。
「今まで気づいてなかったんだけど、私頭が悪くて朴訥な子が好きなの。エージみたいな」
「……悪かったな、馬鹿で。それでわざわざウチのガッコなんかに来たんかよ」
もくもくと焼きそばパンを頬張る『すだれ眼鏡』に今日もなんだか俺は気圧され気味だ。
「それもあるっちゃあるけど。うちから一番近いってのが理由かな。私低血圧だし、朝は限界まで寝ときたいし」
「はあ…お前、よくそんな理由でガッコ選んでいろいろ言われなかったな……」
「別に?担任の先生は残念そうにしてたけど、母は『自分に合ったとこが一番よ』って言ってたし、姉も弟も私の話聞いて納得してたよ?」
「……」
「さっきからなんでなんでって子どもみたいにうるさいから全部まとめて説明してあげるけど、あの妙ちきりんな格好は男除け。いくら断ってもきりないし。エージの友達のなんとか君?…忘れたけど、あの人にはバイト先で顔見られちゃって。エージにはわかんないだろうけど、大変なんだよ?かわいいってさ」
「……はぁ、そースか」
「エージ?もしかして寝ぼけてんの?」
「寝ぼけてねーよ!ばか!あまりにも突飛な話で呆れてんだよ!」
「ふーん。それで?エージの質問タイム終わった?」
「……」
「とりあえず来月にはエージの童貞ちょーだいね」
「ど、どどどど童貞じゃねーよばか!」
「ふーん。じゃあとりあえず来月はお泊りね」
なぜかこれからの俺の日々は爛れた方向に充実しそうな気配ばかり。