携帯住宅のここがすごい
僕がタッチパネルの「冬」のボタンを押す。
するとすぐに床が暖かくなり、中央の床が開き
そこから電気ストーブが現れた。
「うわあっ、なんだこれ!?」
「ふふん、この家の中すべてを一気に冬バージョンに
変えたのさ。いちいち冬の準備もしなくていいし
とにかく楽なんだ。ついでだから今度は夏バージョンにしよう」
僕がタブレットを得意気にいじると
中央の床下に電気ストーブがしまいこまれ、
天井の四方の壁から扇風機が現れ、
真上から換気扇のようなものが現れた。
「どうだい?冷房と扇風機がでてきただろう?
これが未来の住宅なのさ」
「ツトム、お前の家ってどんだけ金持ちなんだ?
便利なのはいいけれど月々の利用料がものすごく
高いんじゃないのか?」
「父親が大手電化製品の社長だからその辺は
安くしてもらっているんだよ、まあ生き方上手だからね
うちの家庭は」
その後も僕は祐介にタブレット一つですべての命令に従う携帯住宅に
ついての自慢を延々としていた。
だけど彼は嫌な顔ひとつしないで憧れの眼差しで
僕の話を聞いていたし、僕も彼を傷つける気など全くなかった。
「いいよなツトム、俺んちは父親がうつ病だし、
母親は体が弱いのにラーメン屋とカツ丼屋の掛け持ちで
朝から晩まで働いていてさ、今のボロアパートなんて
とても抜け出せそうにない。マイホームなんて夢のまた夢さ」
「まあ、すべての家庭が僕のような裕福な家庭ではないさ。
四人兄弟のお前んちじゃ、お母さんの仕事の収入だけだと
とてもやっていけないだろう?」
「だから生活保護を受けているんだ。でも俺たちだって
やっぱりたまには裕福に暮らしたいと思っているよ」
「そうかもな、じゃあ今日はおやつに最高級のケーキでも
用意してやるか」
僕はタブレットのタッチパネルの「おやつ・高級」を押す。
それから五分後、玄関の呼び鈴がなった。
「ごめんくださーい!携帯生活食品サービスでーす!」
コックの格好をした中年の女性が現れ、
ケーキと紅茶をテーブルに手際よく用意すると
「ありがとうございましたー!!」といい去っていった。
祐介は目を丸くして唖然とした顔で立ち尽くしていた。