表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/9

八話  最悪

「やあ、君が斬島魁斗かい?」


「誰だ、お前?」


全身ズタボロ、切り傷だらけで制服の破けまくっている俺に顔を引き攣らせながなら近づいてくる男。180程の長身で細身の体をしているが、普通にしているようで特殊な歩き方や体捌きしている辺り、”裏には関わっていないが、多少の修羅場はくぐってきた”って所か。


「おっと、済まない。まずは自分の名を名乗るのが礼儀だな。俺は藤戸晃ふじとあきら、君と同じSクラスだ、よろしく」


手を差し出してくる。……握手か?取り敢えず握ると満更でもないような顔をするから合っていたのだろう。後ろから刺さる3つの視線が痛いが……


「別に握手をする必要はないと思うケド?後ろ方たちが物凄く睨んでるのだし」


丁度藤戸の陰になって見えなかったが、随分と綺麗な女が藤戸よりも一歩下がった所に立っていた。麗佳に負けず劣らずの黒長髪は下ろしただけの麗佳と違いM字分けにして両脇を桜を模した髪飾りで止めていた。


「ハハハ、悪い悪い。それもそうだな」


「全く、アナタはいつもそうなんだから……。いつもそうやって無意識に相手を惚れさせておいて、こっちのアプローチには全く気付かないクセに」


「ん?何か言ったか菜華さいか


「な、何でもないわよ!!」


「?そうか。それにしてもどうして斬島程の男がそこまでボロボロになっているのだ?お前ならそこら辺の奴になら上級生でも負けないだろう」


「あれだ。いくら俺でも、バーサーク化した奴4人を相手にするのには限界があった」


いつの悪い目付きにプラスしてジト目で後ろにいる4人を見るとピクッ、と反応する


「い、いや、あれはだな」


「不可抗力」


「そんな怒んないでよ~魁ッチ」


「やはりお前の生存はまちがっている!!」


取り敢えず飛びかかってきた凱をワンパンで黙らせる。少し肋骨が折れたような音が響いたが気にする必要はねぇだろう。回復系だし、先に仕掛けたのはアイツだし…


「何だか苦労してるようだな。それにしても凄いな斬島わ!遠くから測定を見たときは驚いたよ。てっきり178を出した俺がトップかと思ったんだが、まさか上に2人も居るなんて。しかも斬島は測定不能なんてあり得ない数値を叩き出すし、七野瀬さんは学園7位のGの持ち主なんだ。鼻を折られた気分だよ」


「それで、お礼参りに来たってか?」


「まさか、寧ろその逆。これからいちクラスメイトとして……いや、好敵手としてよろしく頼む。勝手だが俺の目標になってもらうよ」


キザッたらしく言う藤戸。ダメだ、コイツと俺は合いそうにない。なんと言うか、熱血臭?と言えばいいかのか、基本ちゃらんぽらんな俺とは絶対に合わない。むしろ反発して当たり前、水と油、混ぜるな危険レベルの完全不適合だ。


「まあ、よろしく。とは言っても、俺には向上心ってもんがねぇんだ。目標とすんなら麗佳か薫里にしとけ」


「麗佳って七野瀬さんの事ですよね。カオリさんと、いうのはどなたなのですか?少なくとも私の知らべた成績上位者の中には名前が有りませんが……もしかして、外部の方ですか?どちらにしろ、貴方ほどの魔導士が認めるのなら相当な腕の持ち主だと予想できますが」


「いや、むしろ低い。中の上か上の下の辺りのGしか持ってねぇ奴だ」


「誰なのだ?魁斗。私以外にカオリという名の者が居るとはな、ぜひ会ってみたいものだ」


「何言ってやがる。お前の事だぞ?」


訳の分からんことを言い出した薫里に呆れた声で言うと、最初はポカンと首を傾げたがすぐに慌て始めた


「な、なにを言うのだ急に!!私はそんな、魁斗に認められるほど強くは…」


「お前こそ何を言っていってんだ。いつ俺がお前の事を強いなんて言った。俺はただ単純に、馬鹿みたいに前しか見てないバカなお前みたいに努力することを忘れるな的な意味で言ったんだぞ」


「あっ、成る程。………アレ?なぜだろう、褒められたのにバカにされてる気がするのだが」


「薫里、魁斗は別に褒めてない。ただ単純で努力しているバカとしか言ってない」


「か、魁斗~~~!!」


麗佳に指摘されようやく気付いたようだ。おお、怒ってる怒ってる。


「まさかと思うけど、そこにいる姫宮家の出来損ないの事じゃないだろう」


「あ!?今なんつった」


空気が死んだ。さも当たり前だと言いたいのだろう藤戸の一言に俺だけでなく凱も反応した。本能的にわかる。俺達の大嫌いな連中と同類ということが


「聞こえなかったのかな?その女、姫宮薫里はとんでもない出来損ないなんだよ。まさか、知らなかったのかい?てっきり俺は、姫宮の当主がキミ欲しさに差し出したのだと思っていたが、どうやら違うようだな」


「黙れ、今すぐその減らず口を閉じろ。耳障りだ」


「まったく、キミが女見る目が無いなんて気づきもしなかったよ。そんな低俗で野蛮な女狐の子をそばに置くなんて考えられない。別にキミほどの男なら上手く立ちまわればそんな女でなくても名家の人間の仲間入りをできたハズ「黙れって言ってんのが聞こえねぇのか!!」


ムカつきやがる。何も知らねぇコイツが平然と人の地雷を踏み抜くのもそうだが、態度も気に入らねぇ。コイツは自分が選ばれた存在だとでもおもってんのか。人を見下すのは別に構わねぇ、最初にコイツが俺に啖呵切ってきたんなら俺は対してキレもしなかった。喧嘩売って来ようが、暗殺しに来ようが俺はコイツなりの仁義の通し方だと判断して全力で叩き潰しに行ったが、このボンボンは偉そうな事をほざいた所か人に尻尾を振っといてコレか。


「おい、忠告しといてやる。今すぐ俺の前から失せろ!さもないと、思わずぶっ殺しちまいそうだ」


「ハハハ、随分と嫌われたようだ。まあ、いいか。キミがどうゆう人間かよくわかった事だし、俺は一足先に教室に戻らせてもらうよ。ああそれと、姫宮の落としだね。彼に説明しとくんだな、キミがどうゆう存在で何をしてきたか……どれだけ穢れた存在なのかをな」


「失せろって言ってんだろうが!!!instruere!!」


怒りのままに魔聖具を展開し、振り下ろした。轟音と砂煙が巻き上がるが手ごたえしない辺り避けたようだ。もっとも、避けられる速度でもねぇし、その気配もなかったが……


「危ないでしょ。いきなり魔聖具を使うなんて、どうやら見た目通り野蛮な人のようね」


剣先よりも一歩下がった所でこっちを睨み付けている女……確か、菜華だったか?少し短めの直刀を構えていた。口元で刃を上に向け水平に構える独特の姿は、何故か懐かしい友人の姿と重なった。


「7(セブンス)………なわけねぇか。……忍者刀とは随分珍しいもんを持ってんな。ってことは、そいつは隠密系の魔聖具。それなら回避と無言展開の説明がつく」


「あら、意外と詳しいようね。これを見ただけで忍者刀と分かった人も、ましてや系統まで言い当てるなんて何時以来かしら?」


「生憎、こちとら魔聖具は嫌という程見てきたんでな。綺麗な顔しといてエグイもん持ちやがって、どこぞのお嬢様ならレイピアにしとけよ」


「失礼ね。便利なのよ、コレ。特に貴方のような直線的な人には特にね」


「なら、試してみるか。俺の鬼刄丸とやりあえるかどうかな」


「止めておくわ。私の細腕じゃ受け止めれそうにないし、奇襲に暗殺が専門だからわ・た・し。気を付けてね、こう見えて結構怒ってるから」


それでは、とだけ言い残し藤戸に腕を絡ませる。もうここには用はないのだろう。踵を返し、校舎に戻る2人をただ睨みつける事しか俺には出来なかった。ビビったとか、怖気づいたなんてそんな女々しい事ではない。ただ単純に先手を打たれただけだ。あの女は間違いなく殺しに慣れている……それも俺とはまったく別方向の影の殺しに…。アイツは俺達が手を出していれば間違いなく薫里か麗佳、恋の誰かを殺しに来ていた。それだけの技術と精神を揃えた奴だ。………もっとも、あんだけの奴があんな男に付いて行っていることには疑問があるが…


「………魁斗……わたし……ッスマン!!」


琥珀の瞳から数滴、雫を落とすと薫里は自分の弁当箱を抱きかかえ、顔を伏せながら立ち上がると校舎に向け走り去った。


「薫里!!」


「待ってかおりん!!」


「ほっといてやれ。今のアイツに何言っても聞こえねぇよ」


追いかける気でいたのであろう二人に釘を刺すと、制服の内に手を突っ込みまさぐるとポケットからタバコの箱とライターを取り出した。そして、タバコを一本口に咥えて、ライターを先端に近づける。火の灯ったライターに、タバコの先が燃やされた。そのまま息を吸い込み、タバコに火を点ける。


「おい魁斗、ここは学校だぞ」


「知るかよ。こうして溜まったもんを煙に混ぜて吐き出さねぇとやってられるかよ」


肺に送り込まれた紫煙を吐き捨て、煮え切らない気持ちを切り捨てる。昔から変わらないもはや一つの習慣のようなものだ。


「大丈夫かな、かおりん。なんかあの藤戸って人にものすごく言われてたけど……」


「心配。でも、大丈夫。薫里は強い子」


口とは逆に不安を隠しきれいない顔を麗佳。問題ねぇよ、タバコを咥えたまま立ち上がる。


「言ったろうが、馬鹿みたいに前しか見てないってな。アイツみたいな奴は勝手に悩んで勝手に打ち明けて、でもって最後に勝手に立ち直りやがるさ」


ユラユラとタバコの先端から立ち上る煙を眺めながら、ガラにもなく一人で呟いた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ