四話 不幸
「痛ってぇ~。サクンっていった首がまで痛てぇな、チキョウ」
中庭にある大きな木の影に腰を下ろして弁当をつつきながら一人ボヤいた。七野瀬の魔聖具で見事に肉を抉られた首は、同じ新入生の回復系の奴が元通りにくっつけてくれたが、首が抜けたような奇妙な感覚が続きさっきから首のあたりばかり触っていた。気持ち悪ぃなチクショウ…。
「あ、いた!魁斗そんな所にいたのか」
「発見」
「instruere!!」
恐怖心からか思わず魔聖具を展開した。いや、いくら美人でも命の危機にさらされたら警戒するし。コイツら二人揃うとヤンデレ化する謎の物質だしな。どこの<ふたりは○リキュア>だよ。絶対俺の護衛とか要らねぇだろコイツ…。
「どうしたのだ魁斗?魔聖具の特訓でもするのか?」
「望むところ」
「「instru「悪りぃ、悪りぃ、間違えた。いつものクセで魔聖具出しちまった」
「なんだ、そうなのか。おかしなクセを持つんだな魁斗は」
「でも、カッコイイ/////」
危ねぇ、コイツらに魔聖具を出させると碌な事になりそうにない。展開していた魅劫不滅之神鬼刄丸をすぐに解除して武装解除しなけりゃ、熱血の薫里が襲い掛かってくる。あと、なんで顔を赤くしてんだ七野瀬?
「そういえば、麗佳が魁斗の魔聖具を見るのは初めてだったな」
「うん。あんなに大きくてカッコイイなんて知らなかった」
「そんなにカッコイイか?まあ、使い勝手は良いが七野瀬の氷結系の刀だって結構綺麗だったじゃねぇか」
「蒼冰丸国重の事?あれは綺麗なんかじゃない。だって私の起源は魁斗さんや薫里ほど、きっと綺麗じゃないから…」
悲しげに俯く七野瀬。起源か……。起源を知り得なければ魔聖具を取り出す事が出来ないが、それはつまり自分の生まれた意味や根本を知るのと同じだ。それが明るいものならいい。むしろその方が多いだろう。だが中には辛い、認めたくないようなものだって存在する。逃げたくても逃げきれない。魂に彫り込まれた事実…。
「馬鹿言ってんじゃねぇよ。あんな透き通ったシアンのオーラ出しといて、綺麗じゃないわけないじゃねぇか。俺が言ってんだ、間違いねぇよ」
何も言えない薫里の代わりに歩みよって頭を撫でてやる。絹みたいな腰まである黒髪は手触りがよく、撫でてる手が止まりそうにない。しばらく何の抵抗もなく、されるがままだった七野瀬は顔を上げ少し充血した瞳で見上げてきた。
「ありがとうございます、魁斗さん。おかげでスッキリしました」
「そりゃ、よかった」
「はい………My lord(我が主よ)……」
「?なんか言ったか」
「いいえ、何も言ってませんよ。魁斗さん」
「……(イラッ)、instruere!!!!!!デレデレしおって。この浮気者、歯を食いしばれ!!焔乃大巫女犹守」
怒りと共にスカーレットのオーラを噴き出した薫里。鬼刄丸よりも一回り小さい大きさの火焔系の両手剣を展開すると、炎を纏わせ振り下ろした。加減もなにもなく怒りのまま振るった剣先は炎によって引き伸ばされ真っ直ぐ魁斗の命を刈りに行く。
「!?ッチ、麗佳!instruere!!」
左手で七野瀬を引き寄せ、頭を抱えるように抱くと魔聖具を展開。魔力を込め地面に叩きつける。
「偉大なる大地よ(グランドアース)」
叩きつけた地面から岩盤がせり上がり盾の様に炎を防ぐが、それはあくまで俺と七野瀬の周囲約1mだけであって、青々と茂っていた草花は見事に灰に変わっていた。唯一座っていた木だけは幹が焦げる程度で済んでいるが、薫里の前方10mにあるものは全て消えていた。
「薫里、やり過ぎ」
「いきなり魔聖具だしてんじゃねぇよ。見てみろ、どうするんだコレ。どうやって直すんだよ…おい」
「うるさい、うるさい、うるさ~い!!いつまで抱き合ってるのだ!!」
「!?ご、ごめんなさい魁斗さん」
「ん?悪りぃ、咄嗟の事で抱き締めちまった。わるかったな」
「い、いえ!むしろ役得といいますか/////いつでもウェルカムです!」
「ウェルカムされても困るんだが。……で、何しに来たんだお前ら?中庭を破壊しにきたわけじゃねぇだろう」
「そうだった、魁斗!昼にするぞ」
思い出したかの様に焔乃大巫女犹守を解除すると、どこからともなく大きな弁当箱を取り出した。軽く五人前は有りそうな三段重ねの重箱をどうやって持ち歩いてきたのか気になるところだが、七野瀬はもっとおかしい。先まで手ぶらのハズが、少し薫里に視線がいった間に花柄の巾着袋を装備してるとかご都合主義甚だしい。そういやぁ、俺の弁当……。置いていたハズの木の根本には変な臭いのする黒い塊しか見当たらなかった。おい、まさか…
「俺の牛タン塩弁当~!!!(購買価格680円)おい嘘だろ!!今月の金もうねんだぞ!!あと2週間は塩と水しか喰えねぇだろうからと、最後の喰い納めで奮発した俺の昼メシがああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
もうだめだ。生きていく気力がない。もうガリ○リ君どころかう○い棒を買うことすらできないんだぞこっちは。いや、金はあるし、別にメシ喰わなくても大丈夫なんだけれども!!そういう問題じゃねぇんだよ。吸わなくても問題ないハズのタバコを吸ってしまうアレと同じ仕組みだよチクショウ!
「魁斗さん。あの、よかったら一緒に食べませんか?少し作り過ぎて多すぎる位なんです」
「約束だからな。私のも少し分けてやるぞ」
「薫里、元を辿ればお前のせいだからな。後で直しとけよ、コレ」
「な!?あれは魁斗が悪いのだ。麗佳とデレデレしおって」
「してねぇだろうが!なあ、七野瀬」
「…………………」
「七野瀬?」
「……麗佳…」
「?」
「麗佳って呼んでくれないと返事しない」
「おい七野瀬、なに言って…」
「………(イラッ)」
「……麗佳…」
「なんですか?」
「何でもない。疲れた…」
「また麗佳と…」
「今のがそう見えるなら眼科に行け。大体、そんな事いってたら俺とお前なんて結婚してるレベルだろ。朝のとか」
呆れ顔で言うと何故か薫里は理解不明な言語を呟きながら顔を真っ赤にし、麗佳はこの世の終わりのような顔を浮かべ「私との関係は遊びだったの。私、妊娠してるんだよ」的な言葉をハイライトの消えた瞳で見つめながら訴えてきた。怖えぇ、なまじ二人とも顔がいいせいで怪しさが増して恐怖心を煽りにくる。
薫里はなんか呪いの呪文呟いているみたいだし、麗佳は今にも<貴方を殺して、私も死ぬ!!>とかいって刺してきそうだ。
「ね、ねぇ魁斗/////」
「なんだ?」
「こ、子供は何人欲しいのだ?わ、私は一姫二太郎がいいのだが。それよりも両親に会うのが先だったな」
「?まあ、生まれて来てくれた子供は何人だろと大切にするのは当たり前だ。それにお前の両親か……あってみたいな」
どうせ結婚=将来誰かと結婚した時には何人ぐらい子供が生まれて来てほしいとかそんなんだろう。なぜそこで薫里の両親に会う話に飛んだかは良くわからんが、もしかしたらクソジジイから何か言われて家族全員と相談してから何かしらの対策を取るのかも知れない。
「………ねぇ、魁斗……」
「な、なんだ麗佳!」
「お腹の子、産んでもいいかなぁ。子供には父親は死んだっていうし、きっと分かってくれるから…」
「ま、まあ個人の意見を尊重するべきだと俺は思うぞ。学生出産は大変だと思うが…」
「大丈夫。この子の為なら何でも耐えられる。ねぇ戒人、お母さん頑張るよ。お父さんには捨てられちゃったけど、貴方は私の宝物。何があっても一人前に育てるからね」
自分のお腹を撫でながらそこにいる(?)のであろう子供に話し掛けている麗佳。言っていることは逞しいのだが、チラチラとこっちを見ながら言うのはやめろ。俺達はそんな関係どころか今日会ったばかりなんだからな。
「あなたは立派な父親の血と名前を受け継いでいるのだから、強く生きるのよ」
日本のどこかにいるであろう、麗佳の旦那さんのカイトさん。アンタの元嫁さん何とかしてくれよ。さっきから名前が同じだけで俺の方をメッチャ危ない目で見てるんだけど…。子供がいるみたいだし、いい機会だから復縁しろよ。300円あげるから!!
「ほら、あなた。最後に一言ぐらいこの子に何か言ってあげてください」
「おお、そうだな。戒人、そばにいてやれないがお前は母さんの言うこと聞いて俺みたいな男になるんじゃねぇぞ……って、んなわけあるかぁ~~~!!!!!!やっぱりそうか、お前の想像妊娠か!!!」
「酷い!あんなに私を求めておいて今更言い訳するつもりなの!!無理やり私の初めてを奪っておいて、この子まで否定するつもりなの!!」
「魁斗!!どういう事だ!?キチンと説明しろ!!」
「事実無根に決ってんだうが!!あって初日の女襲う程、欲求不満なわけねぇだろうが!!大体、すぐにすぐ子供なんぞできてたまるか!!!!!」
「嘘!!あの日から三ヵ月経ってお腹が大きくなってるもん!」
「魁斗!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「お前ら少しは人の話を聞けぇぇぇぇえええ!!!」
☆★☆★
「もう兄貴のバカ!なんであんなところで貧血起こすのよ!!」
「仕方ないだろう。ケガした猫がいたんだから」
「それで自分の生命力流し込んどいて倒れたんじゃ世話無いよ全く。場所取られてるよ、きっと」
「まあ、そん時はご一緒さしてもらって新たな友情を育むさ」
「友情ね。確かに育めそうよ」
「マジか!女子か女子」
「姫宮さんと七野瀬さん、あと斬島くん」
「よし、Uターン。教室で喰うぞ」
「あ、又斬島くんが首切られて死に掛けてる」
「あの野郎、人が助けてやったのにまたか。目の前で死なれると目覚めが悪い。助けるぞ」
「全く、兄貴は他人に甘すぎるんだから」
「斬島の奴が自業自得で死に掛けてるんなら見捨てるんだが、アイツの場合は女難の相どころじゃない程女の一方的な暴力のせいでああなってるからな。特別だ」
「それが甘いっていってるの」
「無駄口はここまでだ。オペの時間だ」
「ハイハイ」
「「instruere」」
「治療具霊芝」
「破滅拷問具切切鮫」