一限目 入学
……僕は、すこしだけ運がすごい。
いきなり何を? って思った人も多いだろうけれどとりあえずは僕の話を聞いてほしい。
「運がすごい」っていうのは、単純に幸運ってのとはまた違う。
上手い表現がないから難しいんだけれども、あえて言うなら「運」が過剰なのだ。
まあ結局よくわからない表現になってしまっているわけだが、僕程度の語彙力だとこの程度の説明が限界だ。
あ、そういえば中学のころのクラスメイトに相談したことがある。
よくわからないんだけど、妙に運が良すぎたり悪すぎたりするんだと。
まあこれも僕の説明が下手だから、「当たり前じゃないか? 誰だって運がいい時もあれば悪い時もある」と答えられるのかな? って思っていた。
だけど予想に反して、友達は「余剰「運」エネルギーが僕の体を常に駆け巡っているのだ」と僕以上に意味が分からないことを言っていたっけ。
まあたいていの人はなんじゃそりゃ? 状態だと思う。
てか、僕自身意味が分かっていない。
けどソイツの言っていることは、実感としては僕も理解できてしまうのだ。
僕は、運がすごい。
さて、僕は今どこにいるかというと「天樹院私立高等学園」の体育館である。
ちなみに中では今、ぼくらの入学式が行われていて、つまるところ僕は今日この学校に入学したのだ。
さあて始まる高校生活。
「バラ色」といっていいのかどうかは個人差があるだろうが、そうはいってもやはりなんだか過剰な期待をしてしまうものだろう。
昔の友達には「人間は『今』以外がいつでも最高なんだ」なんてひねくれたことを言っていたけれど……。
ま、たしかに。
僕が小学生のころ期待していた中学生の生活というものは実際におくってみるとこれっぽっちも大したことはなかった。
まったくもってつまらないというのなら、いっそ「最悪だった!」みたいな悪態が付けるけれど、そこそこ楽しかった記憶がある分だけ始末が負えない。
かつてのクラスメイト達も、変人ぞろいだったが今思えばいいやつらだった。……と思う。
そろそろ、話を元に戻そう。
僕は今入学式に出席していて、そして僕は運がすごい。
ここまで抑えてくれていたら大体おーけーだ。
細かいことを描写すれば、この学園が僕がそうぞうしていたよりはるかに大きいことや、「体育館ってこんなサイズで作って構造的に大丈夫なのか?」とか。いろいろ突っ込みたいことがでてきたり、詳しく聞きなおしたいことも出てくるだろうけれど……今はとりあえず割愛する。
たぶん、それらは全部今壇上にて理解不能なことをペラペラしゃべってくれちゃってる校長の話を聞けば、それですべて解決するはずだから。
「……えーというわけでですね。みなさん。これからの三年間、研鑽をつみ親交を深めそして! 立派な魔術師になってください。校長の私からは以上です」
「あー校長先生。ありがとうございました。それでは……」
うん。
まあ、つまりそういうことだ。
僕の周りにいる院乳清たちは皆、感極まった表情で何気なく先ほどの違和感ありまくる言葉を受け止めている。
校長の代わりに壇上に上がった教師は、どう見ても小学生くらいの女の子。
よくよく来賓席を見てみると、この国の総理大臣と呼ばれる人が出席していたりもする。
……僕は、もう一度今朝起きたことからゆっくりと整理することに決めた。