アリスを追い掛けて・・・
パタパタパタ
森の細い道を白うさぎが走っている。けれども、いつもと様子が違っていました。
「アリスさん!待って下さい!」
今日の白うさぎは追い掛け「られている」のではなく・・・アリスを追い掛けて「いる」のでした。
パタパタ、パタ・・・パタ・・・
「はぁ、はぁ・・・あぁ、もうあんなところに・・・」
ずっと、走って追い掛けていた、白うさぎは少々疲れたのか、立ち止まりました。
白うさぎが息を整えていると・・・
先を行くアリスも立ち止まります・・・。
離れたところで、アリスは白うさぎの方を振り返っているのでした。
「アリスさ〜ん!お願いですから、僕の大事な時計を返してくださぁーい!」
そうアリスに向かって、白うさぎは叫びました。
アリスは、白うさぎに向かって、にっこりと花のような笑顔を向けて・・・また、走り始めてしまったのでした。
「あっ、待って下さい!」
白うさぎも、あわてて、再び、アリスを追い掛け始めます・・・。
このアリスと白うさぎの追いかけっこが始まったのは数十分前。
白うさぎはアリスに、時計を見せて欲しいと頼まれて、大切な懐中時計を手渡して、アリスに見せたのです。
アリスは、懐中時計を眺めていたが、白うさぎにいたずらっ子のような笑顔で笑いかけ・・・
「私を捕まえたら、時計を返すね。じゃあ、よーい・・・どん♪」
と、いきなり追いかけっこが始まったという訳でした。
「アリスさ〜ん!」
その後も一生懸命、白うさぎはアリスを追いかけたが、なかなかアリスに追い付けなかった。
そればかりか、森を抜けたところで、白うさぎは、アリスを見失ってしまったのでした。
「アリスさん?どこにいらっしゃいますか?アリスさ〜ん?」
白うさぎは、辺りを見回して・・・木の影やら、草むらや、岩の間などをよたよたしながら、探し回りました。
けれども、アリスの姿は見つかりませんでした・・・
白うさぎは、急にぺたりと座り込んでしまいました。「あぁ、あの時計がないと、いつもの調子が出ないです・・・困りました。」
いつもは、てきぱきと働く白うさぎですが、懐中時計がないと、調子が悪くなるのでした。
白うさぎが座り込んで、休憩していると・・・
「おやおや、白うさぎじゃないか。こんなところで何をしているんだい?」
上の方から、声が聞こえてきました。
白うさぎは立ち上がり、声のする方を見上げると、そこにいたのは・・・
「チェシャ猫さん。あっあの、アリスさんを探しているんです。アリスさんを見かけませんでした?」
木の枝に寝ころんでいるチェシャ猫でした。
「ん〜?アリスをかい?後ろは見たかい?アリスなら、いつもあんたを追いかけてるじゃないか。」
チェシャ猫は、ニヤニヤと笑いながら、そう白うさぎをからかう。
「いえ、その・・・ちょっと事情があって、僕がアリスさんを追いかけているんです。」
それを聞いたチェシャ猫は、これ以上おかしいことはないと言わんばかりに、大笑いしはじめた。
「あっはっはっ!あんたがアリスを?ひぃ〜あっはっはっ!」
しかも、器用なことに枝の上をコロコロと転がりながら、チェシャ猫は笑い続ける。
「あの〜、チェシャ猫さん?」
ひとしきりチェシャ猫は涙目になりながら、白うさぎを見る。
「あぁ〜、可笑しかった。おっと、悪い悪い。アリスがどこにいるか、だったっけ。えーと、たしか・・・」
チェシャ猫は考え込み始める。
「えーと、どこへ向かってたっけ?・・・おぉ、そうだ、庭園へ・・・」
「庭園ですか!ありがとうございます。行ってみ・・・」
「では、なかったなぁ。バラ園だったような・・・いや、違う・・・」
チェシャ猫はさえぎるように、そう言った。白うさぎは、その言葉に、固まってしまった。
「おぉ、そうだった!悪い悪い、白うさぎ。お城へ向かってだんだった。」
「本当です?」
恐る恐る聞く、白うさぎにチェシャ猫はにこやかに笑って、
「あぁ、今度は、間違いない。お城だ。」
それを聞いた白うさぎは、嬉しそうに
「ありがとうございます!チェシャ猫さん!お城に行ってみます。」
そうお礼を言って、走り去った。
「ん?おいおい、白うさぎ。そっちは・・・まぁいいか。これはこれで、面白いことになりそうだし・・・。」
白うさぎを見送っていたチェシャ猫は、そう言うとにたりと笑って、姿を消したのでした・・・