懺悔宣誓
とある高校で、体育祭の開会式が執り行われていた。
そこに、凛々しい表情で壇上へと上っていく一人の女子生徒がいる。
彼女の名前は桜木マコト(あだ名はまこちゃん)。体育祭の選手宣誓役を自ら進んで引き受けた元気な女子生徒である。
青空から降り注ぐ日光がグラウンド全体を照らし、絶好の体育祭日和を演出する。生徒達は教師による訓示を聞き終え、熱さに身を焦がしながらも壇上にいるマコトに視線を集中させ、年に一度の大イベントの幕開けを待ち続けていた。
もうすぐで、長々とした開会式も終わる。そんな彼らの期待を身に感じながらも、マコトは目の前にいる校長に一礼すると、力強く宣誓した。
「宣誓! 我々、選手一同は! スポーツマンシッぶっ、校長……かつらが微妙にずれて……ぷぷっちょ勘弁して……」
だが、冒頭で響き渡った猛々しい声から一変。
徐々に漏れ出してきたのは笑い。隠し通せなかった窃笑。
周りの雰囲気が凍り付いた事で己の失態に気付いたマコトと校長は、各々その場の改善に努めようとするが、時既に遅し。
その予想外にも程がある光景を後ろから見ていた一部を除いた生徒達は一斉にこう思う。
えええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ
唖然としている教え子達を前にして、気付いてしまったか……っと校長の頭部に潜むトラップの存在を既に熟知していた教師一同は、この色々な意味で深刻な状況を前に、全員同じ事を思いあぐねていた。
この状況、ツッコミずらい……
「さ、桜木さん! ただちにやり直しなさい!」
そんな彼らを見兼ねた一人の勇気ある女性教諭が、マコトの元へと急いで駆け寄り宣誓の仕切り直しを指示したが、その言葉にビクンッと反応を示したのは、面倒な事に校長だった。
「毛根はもう……やり直せない」
「ちょっ、違いますよ校長!(違わないけど)」
デリケートな頭事情を突かれ、ついにはスネ出した校長と、それをフォローするハメになった女性教諭。しかし、なんとかしなければ、っと慌てふためいているのは教師達だけではなく、事の原因であるマコトも壇上であわあわと困惑していた。
(やばいよ! 本当にやばい! 何がやばいのかもうよくわからないけどなんかやばい気がするっ!)
大きく微妙な混乱に包まれた会場を前に、マコトは何とかこの場を収めようと奮える手でマイクを持ち、頬を引きつらせながらも何か言葉を発しようする。この場を先生達に任せる、という選択肢は自責の念を募らせた彼女の頭の中から消え去り、自らがバカであるという重大な事も忘れ、開会式の締めを飾る文言を辺り一帯に響かせた。
(えっとあのぉ……その……校長先生も、頑張りましょうっ!よしっ!)
ヨシジャネェヨ。
会場の殆ど人間は壇上でガッツポーズを決めている女子生徒にツッコミを入れ、校長は涙を流し、頭部に乗っていたかつらを地面に叩き付けたのだった。
こうして、年に一度の大イベントが幕を開けたのである。
★
「うわぁーん! かむらんどうしよう! 失敗しちゃったよー!」
「やっぱりやらかしたわね。 流石にあれは予想外だったわ」
開会式が終わった後、マコトは親友である嘉村蘭(あだ名はかむらん)に泣きついていた。
事あるごとに何かやらかすマコトと長い付き合いである嘉村でも、流石に校長を巻き込む大事故にまで発展するとは思っていなかったようだ。それでも、殆どの生徒が唖然としていた中、嘉村だけは一人で爆笑していたのだが。
「だってねぇ! 校長の頭がズリィーっって! こうズリィーッってパンゲアが大陸移動してたんだよ!」
「うんうんわかるわかる! それは吹いても仕方がないよねぇー! アッハッハッハッハ!」
「というか私悪くないよね!? 悪いのは校長のかつらだよーっ! 全く、接着剤でつけとけっての! なんで選手宣誓でにらめっこみたいな事しなきゃなんないの!」
「本当にマコト可哀そうー!あ校長だ」
突然、嘉村が不吉な事を口走ったかと思うと、マコトの後方へと指をさした。無論、そこには誰もいないのだが……マコトはビッターン!と勢いよく頭を地面につけたかと思うと
「スッイマッッッッセンデシタァァァァァァァァァァァ!」
渾身の懺悔を繰り出したのだった。