出会い
はじめての投稿になります。
まだ拙いところもあるかと思いますが、
あたたかく見守っていただけたら嬉しいです。
荒れ果てた街を見下ろしながら、モイラは静かに呟いた。
「世界は、壊れてしまった」
崩れた建物。焼け焦げた地面。遠くで上がる煙。かつて人が暮らしていたとは思えないその光景は、今では当たり前になっていた。国と国は争い続けている。特殊能力が使える者は皆、前線に立ち、戦っている。
モイラの両親も、その中の一人だった。
モイラが暮らす施設は、清潔な床、整えられたベッド、規則正しい生活。けれど、それは“守るため”ではない。ここにいる者たちは皆、同じ目的を持っている。
「俺、次は前線行く」「いいな。俺も早く出たい」
同じ年頃の子どもたちが、当たり前のようにそんな会話をしている。強くなること。戦えるようになること。それが、この場所にいる理由。
「……みんなは?」
モイラは、少しだけ視線を落とした。窓の外では、遠くで小さな爆発が起きている。
国と国が争っている。それは遠い話ではない。
すぐそこにある現実だった。
そして――
モイラは、自分の手を見つめる。わずかに震えている指先を、ぎゅっと握りしめた。
「私の両親も、前線にいる」
小さく、誰にも聞こえない声で呟く。怖くないわけがない。不安じゃないわけがない。
それでも、「……だから」モイラは顔を上げる。
「守れるようになりたい」
それが、モイラがここにいる理由だった。
◇
その日、警報が鳴った。
「能力が使える者は準備しろ!」
施設内が一気に慌ただしくなる。子どもたちは迷いなく動き出し、次々と整列していく。
モイラもその列に加わった。胸の奥がざわつく。
(守られるだけじゃ、生き残れない)
自分に言い聞かせるように、息を整える。
連れてこられたのは、すでに戦場となっている場所だった。
崩れた建物の影。
空気は重く、張り詰めている。
「来るぞ!」
誰かの声と同時に、気配が近づく。
――敵だ。
その存在を感じた瞬間、モイラの体は固まった。
(こわい)
足が動かない。呼吸が浅くなる。視界の端で、仲間たちが前に出る。
「押されてるぞ!」
「くそっ――」
状況は一気に悪くなっていく。
そして――
その時だった。
音もなく、そこに“いた”。
ひとりの少年が、静かに立っていた。
銀と黒が混ざったような髪。感情の読めない瞳。何も言わない。ただ、そこにいるだけなのに、空気が変わった。
次の瞬間。一撃だった。
無駄のない動き。圧倒的な速さ。気づいた時には、敵はすでに倒れていた。
戦いは、終わっていた。
「……助かったけど」
仲間たちのざわめきが広がる。
「お前、どこの隊だよ」
問いかける声。
けれど少年は、何も答えない。
「聞いてんのかよ」
それでも、沈黙。
「……気味悪いな」
「関わらない方がいい」
距離を取るように、周囲が引いていく。
その中で、モイラだけが彼を見ていた。他の誰とも違う何かを感じていた。
その時――
「……っ」
少年が突然、頭を押さえた。
苦しそうに、わずかに顔を歪める。
(断片が、流れ込む)
玉座。跪く人影。戦い。遠くから響く声。
『……シャマシュ様』
――
「……誰だ」
少年は、低く呟いた。
モイラは迷った。関わらない方がいい。
さっき、そう言われたばかりだ。
それでも、一歩、踏み出す。
「……痛いの?」
少女の声に、少年がわずかに顔を上げる。
「……平気」
短い返事。
モイラは、はっきりと言った。
「……うそ」
少年が、初めてモイラを見る。その目は、どこか空っぽで、それでいて、深く沈んでいるようにも見えた。
このとき、モイラはまだ知らなかった。この出会いが、何を意味するのか。
そして――
この少年が、何なのかを。
ここまで読んでくださって、本当にありがとうございます。
また次のお話でお会いできたら幸せです。




