冒険者登録
おはよう、私。最悪の目覚めでございやす。頭が痛い。絶対飲み過ぎた。楽しかったけど、今後お酒は控えよう。お酒の飲み方わかってない若者みたいになってしまった。間違ってないか。正解だな。とりあえず、冒険者登録しに行かないとね。
「おう、起きたか」
「おはよう、ザルー。アルバートとマーカスは?」
「酒場で朝食食ってるよ」
「そっか。じゃあ早く行かないとね。着替えるから、部屋出てもらっていい?ごめんね」
「そうだよな。すまん。先に降りて待ってるからな」
「わかった」
なんて言ったはいいものの着替えあった?肌に密着してる下着は『手指消毒』で清潔に保たれているけど、そういう話じゃないし、お金ないし、価値わからないし、どうやって登録するかもわからない。とりあえず、案ずるより産むがやすしと言うし、降りて臭かったら考えよう。あ、触れてみたらいいんじゃね?
なんか、綺麗になった気がする。聖女より便利かもしれない。そんなことを言ったら聖女が怒るだろうが。さて、朝飯は何にしようかな。
「お待たせ。ごめんね。お金持ってないから、また奢ってもらうことになっちゃうんだけど、いい?冒険のお手伝いならできると思うんだけど、登録もしなくちゃね」
「おう。気にすんな。これでも結構、名が売れて金持ってるんだぜ。ザルー様のおごりだ。たんと食えよ、細身のお嬢さん」
「まぁ、ザルーの言う通りだ。気にせず、食べて下さい。登録費用もウチで持ちますし、何にします?」
「ありがとう、ザルーにアルバート。マーカスもありがとう」
「べ、別にお前の為ではなくて、ザルーとアルバートが拾ってきたんだ。しょうがないからな」
照れているマーカスが少し可愛く思えた。さて、何にしよう。メニュー表を見ても悩む。ドラゴンのハンバーグって美味しそうだけど、そんなにドラゴンいるの?あと、たまに知性あるドラゴンいるストーリーもあるじゃん。なんか食べにくいよね。
よし、オークカレーにしよう。
「すみません。オークカレー1つお願いします」
「良い食べっぷりだな、お嬢さん」
「茶化すのやめてよ、ザルーさん」
「すまん。あまりにも可愛すぎた」
「え?もしかして結構量あるの?食べきれなかったらどうしよう」
「心配いりませんよ。ザルーはこういう冗談が好きなだけですから」
アルバートの言葉に少し安心した。さっきからマーカスのイチャイチャするなという視線が痛い。ごめん。違うから。そんなつもりは毛頭ない。ただ、頼りがいがあって、リーダーっぽいから話してるだけのはず。
「食べきれなかったら、俺が食べてやる。違うからな、食材がもったいないというだけでお前の為ではないからな」
マーカスってもしかしてツンデレ?
思ったことが口から滑り出してたようで「違うからな」との指摘をもらった。でも、残りの2人が微笑ましいものを見るような視線でマーカスを見ていた。たしかに僅かだけど頬が赤かった。
こんなイチャイチャをしていると、オークカレーが来た。思ったより、多くない。オークはあるけどね。だから、しょうもない親父ギャグいらんのよ。数多の作品読んだ気がするけど、こんなに親父ギャグ言う無双ストーリー見たことないのよ。もし、この世界を誰かが作ったのだとしたら、俺をこんな風にプログラミングした奴を殴りたい。
「わー。美味しそう。このオークどこ産なんだろう。この辺にいたオークって私が倒れてたダンジョンの近くかな」
「さすがに違うんじゃないか?こんだけ冒険者いるからな」
「だよね。さて、いただきます」
手を合わせて命に感謝をしながら口に運ぶ。思った通りポークだった。オークがポークっぽい味なのはファンタジーあるあるだと思う。
「食べる前、手を合わせてたけど、どういう意味があるんだ?」とザルーに聞かれて「え?しないの?」と返すと「しませんね。東方のハポンという国ではするとも聞いた気がしますが」とアルバートが解説してくれた。
「そうだな。ハポンではそうする。食材への感謝の意味だな。冥福を祈るときも手を合わせるけどな」とうつむきながらも得意げにマーカスが言っていた。これもしかして、大航海時代のスペインだったり、ポルトガルだったりする?
好きだなー。俺が読んだことのない、熱に浮かされ舵を取る系の王道海賊ファンタジーの舞台も多分大航海時代だしな。俺の大後悔時代は昨日の俺だけどな。絶対加減を覚えよう。ルネッサーンス。なんちゃって。
「ごちそうさまでした。美味しかったですね」
オークカレーを食べ終えると、ザルーさんが「そうだな。そろそろ、冒険者登録に行くか?」と声をかけてきた。
「はい。冒険楽しみ」
「楽しそうだな」
「本当にそうですね。初心者さんのこの表情は何回見ても良いものですね」
「そ、そうだな」
何でマーカスは目を逸らしているんだろう。あー、思春期かな?そんなにぴょんぴょんしてないと思うけど。
「こちらが、登録窓口です。さあ、どうぞ」
アルバートに案内された場所に着くと、本当にそれっぽかった。同じ建物の中にあるから外観は一緒だろうが、酒場とは違った趣きの外観だ。
「うわ~。なんか本当に"それ"っぽい」
思わず口にすると、ザルーさんに「それって、何だよ。だが、わかるぞ。初めて見ると圧倒されるよな」と茶化された。
「初めての登録ですか?」
そう聞いてくるギルドのお姉さんは本当に可愛かった。亜麻色の栗毛は馬だなぁ。転生道中膝栗毛では無いんだよなぁ。
やや、明るめのブラウンヘアーに髪色と同じ色の目をしていた。声も可愛いし、前世の俺なら恋に落ちただろう。今の俺からすると、同性だしなぁである。
前世では、女性もしてみたいと思ったけど、両方してみて思う。これ、両方やると全部自分で完結してしまうのでは?
男性の時にした事あることは覚えてるし、これから女性を一人称で知っていくわけだから。駄目くね?
「あー、えっと、初めてです。優しくお願いします」
緊張し過ぎて、声が上擦った。なんか発言も所謂"初めて"みたいで、傍から聞いてると変かもしれない。
あの村のクソガキ、いや、使命に燃えていた少年だったら、「俺がリードするんで、身を任せてください」とか言いそうだ。
「大丈夫ですよ。皆、初めての登録は緊張しますから」
「そうなんですね」
ここでうまい返しができないところが不器用なんだよぁ。たぶんコレ、間としては返さないほうが良い間なんだよなぁ。
「ええ。では、まず、簡単な魔力診断からしますね。この水晶に手をかざしてください」
「はい」
言われた通り水晶に手をかざすと、青と緑と赤、そして、金色の光がどんどん強くなりながら、グルグル回っていた。やばい、これ以上やっていけるかな?
なんとなく水晶の限界かもしれないと思い、徐々に魔力の蛇口を絞っていく。それでも遅かったのか閃光が迸り、耳を裂くような破裂音が響く。
「光属性の強い適性と、水、自然、火にもそれぞれ適性があります。また、MP、いわゆる魔力もたくさんあるんじゃないでしょうか。とりあえず、水晶直さないと、ギルマース」
お姉さんの言葉に興奮が抑えきれなくなって「俺つええ。最強ーー」と跳ね回ると、マーカスに「嬉しいのはわかるが、うるさい。あと、口調気を付けたほうがいいぞ。見た目と合ってない」と忠告された。
ごめんて。
「光属性だとー!!そんなもん聖女以外で出るのは初めてだぞ」
「魔力最後絞ってたよな。魔力もエグいんじゃね?」
「てか、割れてね?ギルマース」
「ハーイ、呼ばれて飛び出てギルマスさん。何が起きちゃったのーん?」
キャラが濃い人だなぁ。動きがいちいちうるさいし、オネエ口調の屈強な髭面のおじさん。これってキャラの過積載だろ。
ギルマスが水晶を見て、「あら、割っちゃったのね〜。コレ高かったのよ〜。でも、割っちゃうくらい強い魔力なんて私惚れちゃう」とクネクネしてた。
見ててキツかった。俺が光属性だった上で、魔力強すぎて水晶割れたという事実が霞むほど、ギルマスのキャラが濃かった。強いのだろうが、傍から見てるとだいぶキツイ。
で、仲間の方を振り返ると、ザルーは呆気に取られてるし、アルバートも呆気に取られてる。マーカスだけ頰を染めながら、物凄く目を逸らしてた。
どうしよう。魔力強いのは良いんだけど、濃すぎるギルマスのせいで何をしていいか分からなくなった。あと、物凄く見られてる。ギルド全ての注目を集めてしまった気がする。物凄く緊張する。
「えっと、で、次は何をすれば?」
「えっと、水晶で本来ならスキルとステータスが出てくるはずなんですよ。割っちゃったので、持って来ないといけないんですよね。しばらく、お待ちください」
「あー、待ち時間かぁ」と落胆しているとギルマスが、「あ~ら、実力測定用の水晶割れちゃうくらい強いのよ。予備ぐらい持ってないと完璧とは言えないわね、ルーシャ」と予備だと思しき水晶を持ってきていた。
「いつの間に出したんですか?ギルマス。また、無詠唱で魔法使ってるんですか?王家にやめろと言われてるの知らないんですか?」
「あ~ら、わかってるわ。バレなきゃいいのよ。空気中の魔力少し拝借しただけよ」
「また、規格外な事をしてますね」
そんな夫婦漫才を見ながら、いつまで待たされるのかと少しずつ不満が溜まってきていた。
「お客様をお待たせしちゃ駄目よ、ルーシャ。割れた時は、割れた水晶のかけらを予備の水晶にかざして、これで、魔力測定が終わった後の状態にできるわ」
「なんで、知ってるんですか?」
「ひ、み、つ」
おじさんが「ひ、み、つ」とか言うのを見るのキツイ。周りを見てみると、ギルマスよりもまだ私の話題で盛り上がってそうだった。
えっ?この濃いギルマスより濃いの?私。
「では、水晶に手をかざしてください。これで、いけるはずです」
言われた通り、水晶に手をかざした。何か起こった?ルーシャさんも「なんで出ないんですかねぇ」と不思議そうな顔してるし。
「え?もしかしてですけど、冒険者登録した後にステータスウィンドウを自分で見られるようになる、とか、あります?」
聞き方下手か?
「あ~ら、やっぱり先見ちゃった?そうよね。強いもの。あるあるだわ」とのギルマスの言葉に「逆に、冒険者登録前に見ることってあります?」と返すルーシャさんがいた。
「えっ?やっぱり無いんですか?」
「無いですね」
えー?ないの?俺は項垂れた。えっ?あれ、見えちゃいけなかったの?来た瞬間から見えたけど。転生の時のじっちゃん調整ちゃんとしてからにしろよ。目立つの嫌いじゃないけど。
ふと、周りを見渡してみると、「光属性とか滅多にお目にかかれないのにな」とか「ステータス見えないって何事?」とか、その場にいる冒険者が口々に言い合っていた。まだ、盛り上がれるのかよ。
そんなこと聞かれても多分じっちゃんのせいなんだよな。わかってる。きっと、天界のこの世界の神の格がじっちゃんより下だから権限が足りなくて見えないとか、そういうあれじゃないかな。どないもできんのよなぁ。
「え?てことは、自分ではステータス見えるんですか」
「はい。見えますよ」
出して見て、後悔した。また、レベル上がってるし、それに伴ってステータスも強い。ずっと俺強えするだけだと飽きるんだよなぁ。底に落ちる展開欲しいよ。どこだ?それ。
まあ、人生長いし、そのうち来るだろう。共感が大事だからな。それは良いんだけど、ギルマス濃いなぁ。
「ステータスオープン」
サオリ=カグヤ 女 21
レベル 10
種族 人族
HP 130
MP 200
STR 240
AGI 250
DEX 30
INT 180
『物理攻撃強化Ⅱ』『物理魔法Ⅱ』『回復魔法Ⅱ』『手指消毒』『アイテムボックス』『巻き込み事故』『汚物消毒』
装備:ヒノキの6尺棒、水色のワンポイントTシャツ、白のカーディガン、デニム地のスカート、黒のタイツ、白のスニーカー
レベル5も上がってる。しかも、新スキルも手に入ってるし、スキルレベルも上がってた。
「まだ、レベル10だったのか。もっとレベル高いのかと思ってた。ステータスおかしいし」とマーカスに言われて、私は「えっ?やっぱりおかしいの?」と首をかしげる。
「3ケタの数字が並ぶのは、レベル30超えてからじゃないか?」
「そうなの?」とマーカスに聞き返すと「少なくとも、俺はそう」と返ってきた。あー、そうなのね。
「やっぱり、強いわねぇ。これなら、水晶弁証できるわのねぇ」
「いや、あの。それとこれとは別では?」
「あら、そうかしら。とりあえず、ギルマスの部屋に来てもらうわよ」
こうして、俺と『クレナイの羽』は仲良くギルマスの部屋に連行されるのだった。
解せぬ。




