村も消毒じゃーい
さっき、どれほど歩かされるのかと懸念した自分を殴りたい。少年と歩幅を合わせようとすると、ものすごく遅く感じる。多くの場合、逆じゃないだろうか。
「歩くの早いよ、待って」
そう言うのは女の子の方だろう。道案内してくれてるのに、遅く感じる罪悪感が酷い。
「そういえば、名前は?」
「僕、名前、ティム。村、長、孫。神、名前、何?」
「村長の孫なの?私はサオリ=カグヤ」
「サオリ、道、さっき、出来た。そっち、もっと、早い」
「なら、そっちで行こうか」
まさか自分の乾燥トルネードでぶち抜いた森を歩くことになるとは思わなかった。危なかった。もう少しで村までぶち抜くところだった。ちょっと木々が残ってるから、良かった。良くないけど。
強くなりたいからSTR上げたいけど、強くなるとぶち抜く範囲上がるという変なジレンマを感じてしまう。
「村、着いた。神、ここで、待つ」
そう言ってティムが走り出した。ものすごく、遅い。明日、草原まで走ってみよう。多分5秒とかで着くだろうな。嘘だけど。流石にそこまでではないだろう。AGIが1万超えたら、そうかもしれないけど、さすがにそんなこと起こるはずないし。知らんけど。そういえば、ステータスポイントとかないのかな?今度、どこかで聞こう。
体感2分経過。まだかな?とりあえず、何かしたいと思い、棒を持って村に背を向けて振り回してみる。手慰みに大学時代やっていた持ち替えをしてみる。本当に手に馴染む。何分しようかな。とりあえず暇だから無意識で続けるか。
体感15分経過、まだティムは来ない。他の多くの話だったら、もう村に入っているだろうが。俺は一体いつまで待てばよいのだろう。そういえば、靴入ってなかったのかな?もう一回アイテムボックス見ておこう。さっき、見た時は服しか見てなかったし。
「アイテムボックス」
何回やっても慣れない。こんなに手軽でいいのだろうか?そういえば、足の裏若干痛いな。なんて思い出して、座って足の裏に手を触れながら「ヒール」と言ってみた。本当に回復したし、ケガしてないように見える。消毒もできてる気がするし。今度、ヒールの靴買いに行こう。面白そうだから。
ほんで、アイテムボックスの中身を見ようとしたのね。靴は……っと。あった。普通のスニーカーだったけどいいや。白のオーソドックスなひもで結ぶタイプの靴だった。マジックテープでもいいんだよ。
体感1時間経過。
暇を持て余してきたので、次はジャグラー棒だ。これも楽しい。何気に1番好きな練習だった。何をしてるんだろう。そういえば、俺のしてたゲームだと、攻撃速度とか上がったよな?もしかして、なんかやっちまったかな?
そう思って、もう一度よく見てみる。道、広くない?来た時はたしか人が2人並んで歩けるくらいだったのが2倍ぐらいに広がっている気がする。
なんか綺麗に整備された広い道が草原に続いてるけど、もしかして手慰みのせい?
あれ?倒れた木が沢山できたはずなのになぁ。おかしいなぁ。そう思っていると、かまどが見えた。あー、焼いてたのね。向きを間違えてたら巻き込んでたじゃねぇか。あぶねぇな。綱渡りマッチポンプ侍しそうになっていた。謎ワード、綱渡りマッチポンプ侍。
これ、俺、歓迎されていいのかな?やったこと、川に浸かって、森の一部を吹き飛ばし、村まで貫通させて、道になっただけだもんな。
何をしてるんだろう。てか、生物巻き込んでなかったよな?急に不安に駆られて小声で「ステータスオープン」と呟く。とりあえず、確認しておこう。巻き込んでたら、経験値とかステータスとか変わるだろうし。変わってないことを祈る。
サオリ=カグヤ 女 21
レベル 5
種族 人族
HP 115
MP 100
STR 180
AGI 200
DEX 30
INT 115
『物理攻撃強化Ⅰ』『物理魔法Ⅰ』『回復魔法Ⅰ』『手指消毒』『アイテムボックス』『巻き込み事故』
装備:ヒノキの6尺棒、水色のワンポイントTシャツ、白のカーディガン、デニム地のスカート、黒のタイツ、白のスニーカー
装備効果とかは無いだろうけど、とりあえず今の現状やらかしてしかいないから、今は要らないな。
てか、『巻き込み事故』って何だよ。トラックか?トラックの巻き込みで死んだからか?そんなフラグ踏みたくなかった。てか、どんな効果だよ。
『巻き込み事故』
レベルに応じて、やらかす範囲が増える。生態系を変えてまでも開発をしたい時以外使わないことをオススメする。
「おーいー!!事故ってんじゃねーかよ。チックショー」
思わず、叫んでしまった。それが呼び寄せたのは大量のゴブリンだった。
てか、待つ間に色々起きすぎだろ。何でこうなるの?大体、村に入って、村長か村人治癒して、感謝されて、宴だろうがよ。
草原まで村から森ぶち抜いて道を作って、手慰みに遊んでたらゴブリンの集落襲撃しちゃってゴブリンに囲まれ、なんて事は起きないはず、なんだよなぁ。
さて、どうしようか。
ヤケクソになってきた俺は「もうええわ。食らいやがれ、乾燥トルネードーー!!」と大音声を上げながら棒を縦に持ってジャグラー棒で振り回す。
何百といるように見えたゴブリンが吹き飛んでいた。モンスターだから、別にいいんじゃないかなって思うけど、ゴブリンからすると、ただ普通に暮らしてたらいきなり森が吹き飛んで、巣を荒らされただけになるもんな。
少し、心が痛い。
傍から見たら、ただのマッチポンプだよなぁ。さて、どうしようか。冒険者とかいなかったよね?巻き込み事故してないよね?もうないよね?絶対ないはずだ。
とりあえず、見ておくか。まだ、来ないみたいだし。そもそもなんでこんなに遅いんだろう。素早さ考えても遅くない?一体何をしているんだろうか。いや、こっちが色々し過ぎただけか。
そんなことを思い始めたころ、やっとティムが帰って来た。遅い。あと、間が悪い。タイミング微妙過ぎるだろうよ。さて、これやっと村に入れるのかな。
「村長、神、違う、言う。私、神、思う。村長、違う、怒る。説明、サオリ」
「村長に説明すればいいのね」
そう言ったはいいものの、神ではないし、村壊しかけてるし、森破壊したし、考えれば考えるほど、歓迎されるべきではない気がしてきた。どこか遠くに逃げよう。追いつかれないし。
「パパ、病気、治す?神」
「わからない。案内して」
なんとなく『消毒』と『回復魔法』で救えてしまいそうな気がする。ただ、マッチポンプしただけに歓迎されたくないから、物凄く逃げたい。でも、目の前にいるこの子のために救わないといけないんだろうな。救うと英雄扱いされたり、崇拝されたりするんだろうな。
それってこの村を拠点に動くことになるよなぁ。いいんだけど、違うんだよなぁ。あと、マッチポンプだしなぁ。
「案内して」なんて言わなければよかった。あんなに遅く感じるティムの移動さえ早く感じるほど、鉛の足になって行く。いっそ、この森の樹木になって自然でも復興しようかな。もはや、土になりたい。豊かな土壌をどうじょ(どうぞ)なんてね。
着いてしまった。帰りたい。物凄く帰りたい。でも、テントもなければ寝床もない。とりあえず、今日はここで過ごすしかないと腹を括った。明日は絶対早起きしてさっさと逃げ帰ろう。物凄く自分のせいだけど、帰ったところで、あの草原だとすぐばれる。地図もないから逃げられないし、適当に歩くと絶対迷う。どうしよう。
「ティム、お帰り。そこのお嬢さんは?」
「嫁、女神。結婚式、父、治る、後」
「そうか、別嬪さんを連れて帰って来たもんだ」
自慢げに微笑むティムを見て、物凄く帰りたくなった。加速度的に帰りたい。還るでもいいかも。このまま、土に還る。結婚なんてまだしたくないし。あとティムは普通にタイプじゃない。あと、忘れかけていたけど、中身なら同性だしな。
まぁ、でも任された仕事はまっとうしたいから、「手を握ってもいいですか?」とティムの父親の手を握る。これ、見た目的に美少女がパパ活してるみたいに見えそう。違うけど、恋人繋ぎなんてしてないし。
それよりも、このおっさんの手がでけぇ。あのおっさんが楓なら俺の手が紅葉に思えるほどのデカさだ。
「ヒー……の前に、『手指消毒』って口に出さなくてもできるんだった。そうそう。ヒール」
「独り言の多い嬢ちゃんだな。少し楽になったよ。ありがとな」
「ありがとう、神、嫁、結婚」
「はは、そう焦るな、ティム。嬢ちゃん、宿がないと聞いた。ここでゆるりと泊まって行ってくだされ。あいにく何もない村じゃが、木もあるし、豊かな自然の恵みもある。近場で、オークが取れたし、程よく焼けたキノコもあった。鍋にでもさせるとしよう」
豪快に笑うおっさんの言葉に口では「ありがとうございます」と返すが、さらに帰りたくなった。絶対、俺がやっちまった奴だ。こんな美少女が心の中では男口調で話し、森を破壊し、ゴブリンの集落を壊滅させ、ただの乾燥トルネードで程よくキノコを焼いて、オークを狩っているのはどうなんだろう。
自分のやらかしの詰め合わせをご馳走される気分を想像してみてほしい。自分の黒歴史を詰め込んだ小説が世の中で大バズりして、映画になって全米で受けて、賞と言う賞を総なめにしたみたいな変な気分だ。
自分の失敗作がこんなに受けるなんて、みたいな。吐きそうだ。気持ち悪い。緊張か?あぁ緊張か。緊張だよな。物凄く胃が痛い。あと、他人を信頼しきれないから物凄く食あたりしそうで怖い。
針の上に座っているようなチクチク痛む胸を抱えながら、無限にも思えるような時間を過ごす。長老、違う、村長が「良い嫁を貰ったな、ティム」なんて言っているのも聞こえてくるし、まんざらでもなさそうなティムの様子も胃痛を加速させる。
今こそ、『吾輩は猫である』のクシャミ先生が服用していた胃薬が欲しい。タカジアスターゼみたいな名前だった気がする。違ったら、過去の私のせいなので、私は知らない。
で、胃痛を和らげようと、あまり食べずに酒を飲んで物凄く酔った。頭が痛いし、吐き気もする。流石にダメな気がしてきた。お休み、私。
そう思って目を閉じて幾分経っただろうか。男の気配がした。ティムだろうか。ティムだろう。ティムなんだよなぁ。
「寝てる、嫁、可愛い、やる、ツトメ」
そう言いながら、私の肌に触れようとしてくる。まだ、今じゃない。逃げる準備をしておかないと。寝返りを打ち、うつぶせに変わる。次の一撃を完璧に決めるために。
背中をなぞられた気がした。私は空気を壊すのを躊躇って黙ってたけど、身の危険ならさすがに逃げるしかない。恩は……ないし、謝らなければいけないと思ったことは……これでチャラだろうし、よし、逃げよう。帰ろう。
身の危険を感じさせた罰として一発だけ入れよう。殴るのは嫌だから、デコピンで。
ちょっ、なんか出てきた、気持ち悪い。白いし、浮いてるし、黒い煙を吐いてそうなんだけど。これは、殴っておくか。
「『汚物消毒』お疲れさん」
あれ?スキル名こんなんだったっけ?なんか違うかも。まぁ、倒せたし、いいや。とりあえず、走るか。そう思って駆け出すと、後ろから微かに「ありがとう。僕の女神様。感謝は忘れません」と聞こえた気がした。ごめん、多分違うぞ。さようなら。
走りながら、考えていた。あれ?そういえば、爺さんの言葉も聞き取れたし、おっさんの言葉も理解できたけど、もしかして、翻訳はできてたの?
真相は本物の神と、今は未だその思いの形を知らない少年のみぞ、知る。
「それも知らずに文句言ってきたのは誰じゃあ」という声が空から聞こえたかもしれない。
すまんな、じっちゃん。




