転生したけれども…これだった?
目が覚めると、そこは果てしなく広がる草原だった。青くどこまでも続く青空。近くには川のせせらぎも聞こえる。都会の喧騒に囲まれていたあの時代とは全く違う。よく考えたら、変わったのはそこではなく、外になった事だろう。今まで、こんなに自然を胸いっぱいに吸い込むほど外に出ていなかった。思い出せば、前世でも空は青かった。木は緑だったし、川は綺麗に輝いて青空を反射していた。
そんなことに気を取られ、見た目のチェックは後に回った。いや、適当かよ。若干違和感がしなくもない。ただ、視点は変わってないし、特に何も変わってないよな……。いや、ナニコレ?つま先って見えなかったっけ?裸足で草を感じているはずなのに、その足が見えない。あ、見えた……つま先だけ。
せっかく来たナーロッパだから、お決まりのワードを口にする。勝手に名付けただけだし、どうせそんな感じだろうという偏見でしかないけど。
「ステータスオープン」
あ、出るんだ。結構、ダメもとで言ったのに。水晶とかスキルの鑑定式とかで見るものかと思っていたから、拍子抜けした。簡単なんだなぁ、と感嘆した後、視線を戻すとこんな感じだった。
サオリ=カグヤ 女 21
レベル1
種族 人族
HP 90
MP 95
STR 140
AGI 145
DEX 30
INT 100
『物理攻撃強化Ⅰ』『物理魔法Ⅰ』『回復魔法Ⅰ』『手指消毒』『アイテムボックス』
装備:ヒノキの6尺棒
「消毒ーー!!!?てか、性別変わってるのかよ。知ってたけど。違うな。さっき知ったけど」
合わせろとは言ったがそっちが変わるのね。俺はかっこよくてイケメンの筋肉がある男性に変わるものだと思っていた。
「てか、AGIとSTRってことは物理側?殴れと。それにしては器用さなくない?DEXって結構活かしどころ多いんだけど。まぁ、俺、不器用だし、間違ってないか。そうだったな。生産系のジョブは目指せないことが分かった。さて、スキル試すか。パッシブしかなさそうだけど」
パッシブスキルとは、常に発動されているスキルであり、任意で発動する魔法とは根本的に異なっている。俺が読んでいた異世界物だとエーテルだったり魔素だったりが世界を満たしていてそこに働きかけて発動するのが多い気がする。他だと、精霊とか体内を魔力が循環しているとかあるね。どれだろうか。それは後で誰かに聞こう。町がどこにあるかわからないし、地図もないから、色々してから行こう。
そういえば、装備おかしいな。こういうのってヒノキの棒じゃない?まぁ、ヒノキの棒なんだけど、長くない?何なら剣が良かった気もする。切れないし。とりあえず、スキルの説明でも読むか。その前にゲームとかでよく見るものと同じ解釈でいいのか見ておかないとな。
STR:物理攻撃力と置き換えてもよい。STRが高い程、与えるダメージが大きい。AGI:素早さ。これもゲームの解釈と同じでいいみたいだ。DEX:器用さ。魔法の詠唱速度の増加、魔法の攻撃力微増、剣での攻撃力上昇、生産職には必須のステータス。INT:魔法攻撃力増加。
ちょっと待てーい。DEXだけでほぼ解決するやないか。寄りにもよって1番大事そうなのショックなんだが。これってこの世界としてはどうなの?これ、よくあるパターンで不器用な人間はいらないとか言われない?生産職いると便利だし、金も節約できる。例えば、パッとファイアーボール的サムシングを発動して肉焼いて食べるとかができるわけで、あと火を起こして魔物除けとか、あの、ほら、あれよ、おーん。
まぁ、ステータスは解釈通りらしい。で、物理魔法とかいう変なものもあるし、スキルを見て行こう。
まずは、『物理攻撃強化Ⅰ』だな。これは物理攻撃が10%強くなるらしい。STR×1.1でいいようだ。
まあ、それはいい。良くはないけど、まぁいい。で、気になるのが、このスキル。
『物理魔法Ⅰ』
全ての魔法を物理攻撃として放つことができる。回復魔法もこれに含まれる。STRの高さによって威力が上がる。属性の適正は別途水晶などで鑑定の必要あり。MP消費は普通の魔法より上がる。魔法スキルを高めることによって使用可能魔法が増える。見るなど学習することによっての習得も可。
ちょっと待てーい。こういうのってもっと違うんじゃないかな?物理攻撃力で魔法放つのって無くない?欲張りで優柔不断だった俺向けのスキルではあるけど。ゼウスのじっちゃんも決められなかった経験が沢山あったのだろうな。モテる男は大変だぜぇ。
とか言いながら、俺は自問自答していた。モテたことない……いや、アレは解釈によってはモテたのか、ハーレムの中にいたと言えなくもないし、ただの友達だけど。あー、葬式。呼べなかったなぁ。出たいほど友達と思ってくれた奴いたか?いたなぁ。心配してくれる先輩も、慕ってくれる後輩は……いた…と思いたい。
まぁ。これも良いとして。次だな。『回復魔法Ⅰ』。これもいい。ヒール系が強くなる。うん。普通。1人で全部してるのはおかしいけど、まぁ、いい。あ、聖女とかいたら怒られるのかな。まぁ、仕組み違うだろうし、いいや。
で、このスキルだよなぁ。
『手指消毒』
「何これーーー!!」
魂から湧き出た残響が大自然に響き渡る。てか、声可愛すぎん?世が世なら王子が公爵令嬢と婚約破棄して嫁に迎えようと浮気するレベルだな。そんな最低野郎こっちから願い下げだし、柵に自ら飛び込むような愚策を冒す気はない。柵だけに。漢字違ったら、それこそ愚策か。
落ち着いて効果を見てみよう。
『手指消毒』
手に触れたものを浄化する。レベルに応じて範囲が広がる。現在範囲:身体のみ
つまり、どういうことだってばよ。案ずるより産むが易し。よし、やるか。川に向かって歩く。
川に映る顔を見て驚いた。美少女とかいう既存の言葉で形容できるほど生優しいレベルではなかった。この世に存在する誰よりも美少女だろう。さっき考えた王子の浮気女になれそうだ。守りたくなる可愛らしい見た目だ。
太陽を身に宿したようなライトブラウンの髪にサファイアのように輝くブルーの目、童顔。可愛すぎる。俺が前の肉体の俺なら今の私に恋をしただろう。
今は存在しない器官が屹立した気がした。これはだめだわ。しかも、それなりに胸がある。それなりである。巨乳ってほどではない。動きやすい範囲の綺麗な感じ。
そういえば、これ今全裸じゃね?装備の欄6尺棒のみだったし。道理で変な感じすると思った。かと言って、金もなければ、装備を作れる素材もない。スキルもない。こんな時、スキルがあればなぁ。あったらあったで人と繋がる意味がなくなるから、それはそれで困るんだけど。
さて、どうしようか。こういう時はダメ元で。
「アイテムボックス」
やっぱり出るのか。いやまぁ俺のスキルだし、発動できるのは知ってた気もするけど、便利だな。コンビニみたいにHow convienient!なんて便利な。感嘆するほど簡単だ。感嘆文だけに。
そういえば、今若い世代にネオ親父ギャグが来ていると聞いた気がする。きっと最先端は4年ぐらい先を走るものなのだろう。早すぎるけど。
一瞬何も入って無いかと思ったけど、あった。フリフリ過ぎてちょっと恥ずかしいけど。
水色のワンポイントTシャツに白のカーディガン、デニム地のスカートと黒のタイツ。普通に可愛いけど、俺が男だったことわからなかったのかな?見てなかったんだろうね。
下着もあるし、とりあえず水浴びしてからタオルで拭いて、それからにしよう。その前に『手指消毒』っと。
本当に綺麗だった水が一段と綺麗に変わった。そのまま、ちゃぽんと浸かる。冷たい。外が熱いからちょうどいい。これ、粘膜って『手指消毒』の範囲なのだろうか。身体の範囲って多分この肉体ってことだろうからいけるんだろうな。
アレルギー性の鼻炎と皮膚炎があった私にはとても嬉しいところだ。
「っくしゅん」
あ、体が冷えた時は、くしゃみ出るのね。猫も転生するのかな?『吾輩は猫である』の登場人物に偏屈で胃痛持ちのクシャミ先生なる人が出ていたことを思い出した。あの猫が転生していたとして喋らないし、名前ないし、探しようがないよにゃぁ。
ちなみに読者、俺としては読みたい。趣味で書き始めた小説家としての癖が出始めている気がする。
んで、何しようとしたんだっけ?最近こういうの多い。まだ、若いのに。あ、そう。タオル。
まずは全体にしっかり触れてタオルを消毒する。そして体を拭いて髪を拭く。逆だな。髪を拭いてから体を拭いた。ただ、長い髪だからなかなか乾かない。
昔だったらテレビでも見ながら乾かしていたのだろうか。あ、男だったじゃん、俺。妹居たからよくテレビ見ながら髪乾かすのを見ていた。てか、俺は鳥かよ。3歩以上歩いてるから忘れたのか。なら、しょうがない。今、ショウガ持ってないし。そういうギャグいらないから。
で、服が良く濡れることを俺は知っている。だから、こここそアレだろ?ほら、あの、あれよ、あの、ほら。
「あれ」
口に出してみたけど思い出せなかった。魔法系のほら、あれ。
「あ、そう。あれよ。『物理魔法I』今使えるのは何?」
『物理魔法I』
「効果範囲、違う」
「条件指定範囲構文」
「こう、簡単にさっさと出てほしいんだけど」
「これでもない」
十数行のスクロールの果てに出てきた。
使用可能魔法:乾燥トルネード、洗濯トルネード
とりあえず、乾燥トルネード。……なんだけど、範囲がわからんし、探すのが大変なので、1回自分の方ではなく人がいなさそうな森の方に放ってみる。
どうか、やりすぎないでね私のSTR。まぁ、目測で100メートル以上あるし、大丈夫だよな。フラグだった。風で木が何本か倒れた。これ食らったら俺死ぬ。とりあえず、200分の1を目指してMP消費を減らす。強め、熱めのドライヤーが好きだからちょっと強くしたらこれだもんな。
「そうそう。こんな感じ」
下の草が5束ぐらい揺れてる。束が正解かわからないけど、葉っぱがやや揺れる程度の強さ、いわゆるドライヤーのHighぐらい。ちょうどいい。
「アッツ」
思ったより熱かった、まぁ火傷する程ではなかったんやけど。しれっとギャグ挟む俺の頭、バカ野郎。
髪を乾かし終わった時にふと誰かと目が合った気がした。水でも汲みに来たのかな?早く服を着よう。若干濡れてるし、櫛もないし、ヘアゴムもヘアピンもない。髪結ぶの難しいし、DEX低いからとりあえず下ろしておく。
「あ、水、浴びたの?ここ、川、神いた。あなた、来る、村」
思春期ぐらいに見える少年が話しかけてきた。言語理解、そういうタイプなの?単語しか訳してくれないの?神様頑張ってよ。
「私は、今日ここに来た。身を清めたかったから、ここにいるの。寝る場所ないから助かる」
「来る、村、あなた、便利、か?」
「便利、行く、村」
頑張って返したけど、ムズカシイ。アップグレードお願いしまーす。
そういえば、土産物とかなくない?ま、いっか。一応戦うために棒出しておくか。そういえば謎の丸いものが2つ胸にあって、棒を装備したから数変わってないだろう的なことだったのだろうか。神様も変態なんだなぁ。あと、6尺もねーよ。あ、縁はあるからかな。棒術で使っていた棒だし。妙に手に馴染むと思ったらそういうことだったのか。
さて、どれほど歩かされるのかねぇ。




