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転生

「モテないなら転生してやり直して―」

男、輝夜咲桜李(かぐやさおり)の魂の叫びだった。


高校時代から「さおりん」と呼ばれたモブ男である。俺はこの名前が微妙に嫌いだ。いつも女子みたいだと弄られる。しかも、身長も158センチで60キロ。微妙にぽっちゃりな体型。イケメンでも女顔でもないしニキビとかアレルギーとか大変だった。


女性に囲まれても彼女はできない。モテていたのだろうか。俺の性格のせいだろうか。縁もない人からすると恵まれてはいるのだろう。親も愛してくれただろうし、高い私立大にも入れてもらえたのだから。


だが、今日も外に出られない。


そんな日々が続いて何日、何か月経ったことだろう。不要不急の外出を避けるように。それが国の政策だった。それ以前に外に出てないお前は何なんだと言われそうだけど。 


マスクが配られ、誰も彼もがマスク付きの顔しか晒さない。誰も顔を知らない、そんな世の中ってどうなのだろう。


普通の男子大学3年生、俺もその1人だった。ついこの間だと思っていた修学旅行は皆マスクなしで楽しくおしゃべりをしていたのに。違うやん。俺、3年か。一昨年入った棒術サークルの新歓は先輩たちがマスクしているし、例年は飲み会が開催されていたのに、それも行われなくなっていた。


サークルでの活動もマスクをして行うことになっていた。サークルにほぼ顔を出さず、単位も取れていない先輩、俺。飲み会だけ出る馬鹿。元々高校でもやってたわけではない。完全な初心者。


1年の頃、天才だともてはやされた。柔軟性が凄かったらしい。まぁ、脱力を活かして体全体での力を活かす武術だしな。1学期の終わりごろから大学に行けなくなった。何が起こったのか俺にもわからなかった。


休みが終わり、1年の第2学期には2週間ぐらいで行けなくなった。治るだろうと思って暫く様子を見ていたが、何も変わらなかった。酷いときには下宿の下の階の食堂に降りることすら億劫になっていた。


そこからは転がり落ちるように外に出ない日々が増えてきた。テレビもないからSNSの情報しかないけど。で、カラオケが趣味だから、カラオケと蕎麦屋とラーメン屋ぐらいにしか出かけない。たまに出れる時に池袋で某モンスターのグッズを見るだけ見る。何をしてるんだろう。


授業も遠隔で運動不足を感じながらも動けない日々が続いていた。そんな時に久しぶりに思い立ってカラオケに行った。どうせ1人だし、下宿も1人だし、迷惑は掛からないだろう。そんな見立てが甘い俺に罰が当たったのだろうか。


カラオケから1週間ほど経って、熱に浮かされた私は飲み物を買いに行こうとマスクをして、すぐ近くのコンビニに向かっていた。買うものも決めて。


そんな折、横断歩道を渡ろうとした瞬間、何かにはねられた。どうせトラックだろうなとか知ってる転生するんでしょ?と思いながら、意識を手放した。


白い。


「あー。また転生ですね。最近多いんですよね。転生部はあちらです。手続きするので、死因と年齢、名前を書いて、すぐ向こうの33番に向かってください」


そう言って書類を渡された俺は33番に向かった。向かいながらこれまでを振り返る。親父と喧嘩したあの日、言えなかった「ありがとう」、素直になれなかった母親への態度、残された妹への心配。色々なものが頭を駆け巡る。もうすぐ転生するのだろうから。


「あー、トラックにはねられたと。それなら事故関連なので、21番ですね。突き当りを左です」

「あー、ハイ。向かいます」


そう返すと、21番に向かう。2回目だな。もう良いんだけど。振り返るもの無くなるよ。えーっと、中学の時脱がされたパンツ、いじめられるのを楽しんでしまった俺、考えすぎて死にたくなったあの日。


あ、そうだ。就職考えなくていいから、楽だなぁ。まぁ、これって終わりなんだけどね。終わったから前の世界で始まるものは何もない。葬式ぐらいか。もっと早くから葬式考えておけばよかったなぁ。まだ、21だから若いな。他の転生だと10代なんだよなぁ。年だなぁ。


そう考えて歩いて居るとやっと着いた。長い。ここまで、転生特典の話しないんだけど、こんなもんなのか?もっとスムーズに案内されてなかった?他の人たち。こんな世界受けないぜ。誰が求めてるんだよ、たらい回し。


「最近の流行り病の熱で出かけたところトラックに撥ねられたとのことなので、こちらでもできますが、こちらではご案内が2万5000件ほど入っているため、かなりお時間が掛かります。また、課を跨いでいるため、最高神判断が1番早くできると思います。お繋ぎいたしますので、88番にお願いします。果てしなく続く白いこの廊下を突きあたって頂きまして、右にまた果てしなく続く白い廊下があるので突き当たって頂いて左側になります」


「あ、はい。頑張ります」


俺、死んだよね?他のお話に出てきた人たちはもっとスムーズにトラック事故から死んで直で神様に会ってスキル貰って転生とかなのに、どうしてこんなに長いのだろう。俺の読んでた話が早すぎただけなのか、そもそも実在しないから実際にやってみたらこんなものだったのだろうか。


振り返るものが無くなるとよく聞いていた曲が浮かんだり、古いギャグが浮かんだり、おやじギャグが浮かんだりするようだ。


果てしなく続くイノセントワールドって感じが凄くする。無垢な白い世界でたらい回しにされている私って一体何なのだろう。またどこかで会えるといいなと思える人には出会えたけれども短かったな。走馬灯とかって短いけど、この時間があれば全然全部振り返れると思う。


ここにきて何時間経ったよ。死んだことより、手続きが長いことに少し苛立って来ていた。それでも、親への感謝とかは忘れていない。あと、どれほど歩けば着くだろうか。早く転生したいんだけど。


「長時間お疲れ様でした。余が最高神と俗に呼ばれておるゼウスである。まぁ、日本じゃからのう。他の地域のところだと崇めてもらえるんじゃが、アマテラスさんが強いからのう。で、なんじゃったかのう?」

やっと、終わった。長い道のりだった。話している最高神はゼウスだった。あー、あの浮気じいさんか。ヘラさんとかに殺されそうになったり、ヤンデレに病んだりしないのだろうか。


モテたことの無い俺には関係ないけど、浮気は大変だと思う。全部覚えてるとしたら大変だろうなぁ。前世を振り返ろうぜ、俺。


「転生ですよ。早くしてくださいよ。もう歩き疲れたわ」 


結局出た言葉は歩き疲れただった。ほんとはやり直したいとか、もっとなんかあんな感じのそれとかあのアレとかあるやん。なんも出てこんかったけど。あ、感謝とか、謝罪とか。


歩いてる間にできたからもういいしなぁ。


「そうじゃった。トラックと流行り病のアンハッピーセットだったな。で、ノリでいいならすぐスキルとか転生特典を付けれるんじゃが、オプションとかいるかのう」


「オプションってなんだ?もはや、この名前と身長で男でいるのもなぁって思ったことはあるんだけど、それぐらいかな。魔法とか物理とか両方欲しいけど、回復無いと困るしなぁ」


「わかった。それじゃ、それらを全部できるスキルと転生特典つけておくわい。次目覚めたら、次の世じゃ。楽しんで来るんじゃぞ。1度しかない2度目の人生じゃからな」


1回しかないと言ってるけど、転生してる時点で2回目あるんだよなぁ。あ、でも、同じ世界で生きられるのは確かに1回しかない。そう考えると、割と真面目に生きなければと思う。


ゼウスが指を鳴らした音と共に俺は眠りに落ちた。

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