表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
0時1分の欠落  作者: リョーシリキガク
午前編 本能

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/24

9時 神殿図

 保安省本部、白く乾いた室内。中央には監視装置の端末が、無機質な照明に照らされている。


「この装置に触れて」


 装置には読心能力を模倣したシステムが使われ、超能力をより鋭敏に高める機能がある。これで、心の声を完全に読み取れるはずだ。


 神宮は端末の側へ進み、静かに自分の手を装置に置いた。一ノ瀬も、戸惑いながら手を重ねる。神宮の掌の下に、彼女の指先の温度が触れる。

 映像出力モニターが唸り、心電図の波形が浮かび上がった。


 しばらくの沈黙のあと、一ノ瀬が微かに顔を伏せて言った。


「……何も、見えないわ」


 まるで深海に沈むような言葉だった。

 波のひとつすら生まれない。神宮の心の中には、本当に何もない。


「そう……」


 神宮はわずかに目を伏せた。

 装置のモニターには、乱れすらない直線のような記録が、延々と続いている。


「でも見えないだけで、無いってわけじゃ……あなたが私を助けてくれたのは事実で……」


 神宮は答えない。


 漣が死んだ、あの0時。

 それがすべての始まりで、すべての終わりだった。


「彼の処刑を目撃した者で、生きているのは僕だけだ」


 漣の同僚や、学校の後輩も既に死亡している。過去は取り返せない。今や彼の心を読む方法は無かった。


「いつも後手後手だ」


 様々な能力が使えても、うまくできない。やはり自分は、漣のようにはなれない。


「……小さい頃の私ね。16歳になったら、誰かと結婚したかったの。そのために優勝をって思ってた」


 その時、一ノ瀬がポツポツと話し始めた。


「いや、金メダルで水族館デート、16歳でキスだったかな。とにかく、凄く好きだったのに覚えてないの。

今は漣さんが全てでも、色んな人に出会うよ。でもそれは彼を忘れるわけじゃなくて、積み重なるの。だって過去は絶対消えないんだから」


 一ノ瀬の声はほとんど聞こえなかった。


「『生まれ変わっても探しに行く。お前を守るよ』って言われたり。私は今……」


 そのとき、非常ベルが鳴り響いた。

 壁のランプが赤く点滅し、警報が建物の隅々に響き渡る。

 突如として、外から振動と爆音が響く。


「な、なに……? テロ?」


 モニターが切り替わり、監視カメラの映像に映ったのは、大量の悪魔。

 それが映像越しにこちらを見たとき、一ノ瀬はとっさに神宮の手を掴んだ。


 その瞬間――モニターに写る影の中に、誰かの笑顔が見えた。


 柔らかくて、温かくて、どこか懐かしい。記憶の断片が、一ノ瀬の心を揺らした。


「……!」


 そして、爆風が吹き抜けた。


 吹き飛ぶ一ノ瀬を、神宮は何もせず見ていた。


 施設の天井が崩れ、白い煙とともに火の粉が舞う。

 一ノ瀬は血を流して倒れていた。


「……助けて」


 掠れた声。神宮に向かって、手を伸ばしていた。


 だが


(……何も感じないなぁ)


 ”読心能力”はもう必要ないからだ。


 神宮は思う。

 やっぱり自分は壊れている。


(あの時一緒に死ぬべきだった)


 そう立ち尽くしながら、彼は爆風に飲み込まれた。傷口から黒い霧がわずかに上がった。



『……生きて』


 声がした。


 崩れかけた脚に、力が宿る。


 君は最後にそう言った。

 心は読めないが、少なくとも声に出した()()()()()は『生きて』だった。


 『自分を忘れて幸せになって』と。

 君のいない世界で、幸せになれるわけがないのに。君が僕の世界なのに。


 もう一度あの幸せを食べたい。

 ただ、そばにいて欲しかった。それだけだった。

 何を犠牲にしても君を守るべきだった。そう気づいても、過去には戻れない。


 それでも僕は立ち上がり、悪魔の影に指を向ける。指先に赤い光が灯って伸びていく。影は崩れ、音もなく消えた。


「わかった」


 君が全てをくれた代わりに、僕は君のいない0時1分を生きる。

 それが僕たちの契約。

 悪魔は契約を守るものだから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ