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0時1分の欠落  作者: リョーシリキガク
午前編 本能

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3/24

3時 ショートプログラム

 意地悪な猫にドレスを破かれ、灰を被ったシンデレラ。舞踏会にはもう行けないと泣いていると、超能力者が現れました。

 超能力者は

薔薇を仮面に

たぬきを金に

蝶をドレスに

かぼちゃを馬車に

ネズミを馬に

カメレオンを従者に

犬を護衛に

深海魚をランプに変え

 白鳥からガラスの靴を受け取りました。


「12時を過ぎれば幻は解けてしまう。12時の鐘が鳴る前に、戻って来なさい」


それが、ただひとつの契約でした。


 舞踏会で、王子は美しいシンデレラに心を奪われます。まるで夢のような夜でした。


 やがて12時の鐘が鳴り、シンデレラはひとつのガラスの靴を残して、姿を消しました。


 王子は、あの舞踏会の夜が忘れられず、彼女を探します。

 しかし国中を探しても、ガラスの靴は誰の足にも合いません。


「そんな女性いなかったのでは?」


 そう誰かがささやきました。


 王子以外、誰も彼女を覚えていないのです。


 確かにいたはずの美しい女性。

 王子は探し続けました。

 もう戻らない夜の形を、誰かの足に押し当てて。


 王子が求めたのは、シンデレラなのでしょうか。欠けた理想の過去なのでしょうか。


 ついにガラスの靴が割れ、答えは永遠にわからなくなりました。


 【検閲により削除】 国家保安省



 フィギュアスケート世界大会の会場は、熱気に包まれていた。連邦と西側諸国の旗がひるがえり、さまざまな言語が入り混じる。


 神宮は読心能力者を探しに、この国際大会へ来ていた。

 今日は目立たぬよう保安省の制服を脱ぎ、私服のままベンチに腰掛け、入口の様子を伺っている。未来予知の能力で、この時間、この場所に現れる“切り口”をすでに知っていた。


 ――今から2分後、とある女性が警備員に呼び止められる。

 理由は「フィギュアスケーター①のスケート靴を届けに来たが、中へ入れてもらえない」というもの。


 保安省の手帳を見せれば、警備員を従わせることなど造作もない。記憶を改竄する術だってあるのだから、行き当たりばったりでも切り抜けられる。そんなことを考えていると、予知の通り一人の女性が警備員と揉め始めた。


 透視で彼女の袋をのぞくと、中には銀のスケート靴。

 ビンゴだ。

 神宮はベンチから立ち上がり、ゆったりと歩き出した。



「①選手は、凍った川で練習するなど、苦難の幼少期を乗り越えた、まさにシンデレラストーリー!」


 レポーターの声が響く。


「一つ失敗したジャンプは、①選手しか飛べない4回転サルコウでしたね。最大の武器で落としたことについて、どうお考えですか?」


「あの時、あのジャンプが成功していれば、そう思うことはあります。でも、一度きりだからこそ、フィギュアは美しいと考えています。明日のFP(フリープログラム)に集中するだけです」


「素晴らしいメンタルですね。SP(ショートプログラム)は惜しくも二位通過でしたが、15歳での最年少優勝への期待も――乗り越えられますか?」


「ガラスのハートじゃ、選手はやれませんから」


 全ては台本通りの回答だ。

 本心では、人の心は皆ガラスだと知っている。ガラスは一度壊れてしまえば、二度と元には戻らない。


「今日の白鳥の湖、開始が少し遅れましたが、何か順番に問題があったのでしょうか?」


 唯一、台本にない質問が飛ぶ。


「……いいえ、何でもありません」


 インタビューを終え、会場を後にする。

 国際大会ともなれば、保安省の連中も監視に来ている。


 薄汚い奴らの“心の声”が聞こえてくる。

 私は舌打ちしそうになるのを堪えた。


 シンデレラストーリー?私の地獄は、お前らが両親を殺したから始まったんだ。


 道中、大柄な男……確か神宮と名乗った男が見え、声をかけた。


「あの、先ほどはスケート靴を届けていただきありがとうございました」


 彼には違和感があった。声が、聞こえない。

 生まれた時から、私は“声”を聴いてきた。人々の欲望や怒り、嫉妬、そして両親が死んだ時の悲痛な声までも。だが、この男からは何も聞こえない。ただの空白。――それが、不思議と心地よかった。


 俳優のように整った容姿。無駄のない筋肉。そして下心すらない空虚。


 ふと、彼が私の肩越しに視線を向けているのに気づいた。誰を見ているのだろう?――まさか、あの振付師……?


 私の不審そうな表情に気づいたのだろう。神宮は短く付け加える。


「そんな能力もあるのかと思って。いや、なんでもありません」



 深夜。ホテルの一室。

 窓の外には、首都レイグラードの夜景が雪と共に煌めいている。

 神宮はベッドの足元に立ち、部屋の片隅に置かれた鏡をじっと見つめていた。


 ゴーン

 12時の鐘が鳴る。


 人々が唯一“本心”を許される一分、神宮もまた、自らの“本性”と向き合わざるを得なかった。

 悪魔は眠る必要がない。

 悪魔の欲求はただ一つだ。


 彼は鏡の前にゆっくりと立つ。

 目を閉じ、ゆるやかに呼吸を整え、今日、いや昨日見た能力を思い起こす。


 ――変身。

 黒い髪が白銀へ、赤い瞳は青へ変わる。


「……はは……全然似てないや」



 国際大会の最中、一つの死体が発見された。手がかりは、現場に残された片方のスケート靴であった。

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