18時 革命
12月22日、17時47分。
極夜をつんざく、一発の巡洋艦砲撃。その轟音を合図に、革命はついに始まった。
白い吐息が真夜中のように空を漂い、冬宮の門を越えて広場を埋め尽くす。
重厚な扉は破られ、赤い旗がはためいた。
雪と血の匂いが交じり合い、民衆の叫びが燃え盛る標語をかき消す。
――「自然は真空を嫌う」
*
18時38分。保安省本部。
積年の怨嗟は、支配の象徴であったその建物に一斉に叩きつけられた。
能力者排斥を叫んでいた派閥の人間たちも、民衆と薔薇の団の尖兵によって広場で処刑される。
その光景を見ていた市民が、ふと呟いた。
「あの人たち、能力者を排除していた側だったのでは?」
その刹那、後輩――薔薇の団トップの瞳が冷ややかにその市民を捉える。
彼女は何の感情もなく記憶を改竄した。
人々の心には、革命の正しさだけが刻まれていった。すぐに群衆の叫びと暴力と熱狂が、真実を呑みこんでいく。
「お前らには何もできない!」
一人の男が引き摺り出された。たぬきのような……保安省の上官であった。
「ケチをつけるだけで、何も成し遂げたことがないくせに! 保安省というだけで拒絶して!」
叫びは誰にも届いていないように見えたが、後輩が一歩進み出る。上官はなおも叫び続けた。
「思い出せ! 誰が平和を守った? 誰が血を流した? 財閥から協力を引き出したのは誰だ?」
「お前が思い出せ」
後輩は上官の額に指を当て、消された記憶を呼び戻した。
その瞬間、蒼白だった顔はさらに血の気を失い、死人のように硬直する。
「先輩に、謝罪しながら死んでください」
冷ややかに言い放ち、後輩は背を向けた。
記憶を取り戻した上官は、最後の伝言を吐き出すように声を絞る。
「教えてやる……あの男は、本物の悪魔だ」
その言葉に、後輩の足がぴたりと止まる。
「悪魔にだって心はある。だが、あれは違う。……あれこそが、“本物”だ」
知らなかった頃には戻れない――そう告げるような、《《最期の呪い》》だった。
上官は静かに目を閉じる。
「私はいつから未来を見るのをやめたのだろう。
私の心の隙間は、あの美しい過去でしか、もう埋められなくなってしまった」
後輩は彼を振り返らなかった。
上官の心には、自分が妻子を撃った日の感触が残っているのだろう。
そうしてまで守った国家も、全てのものは移ろいゆくのに、過去には戻れないのに。手に入らないものを追いかけて。
せめてもの情けのように、後輩は呟いた。
「最後の仕事です。
全てを失った権力者の務めは、ただ一つ。速やかに死ぬことでしょう」
上官が断頭台に載せられた。
「今まで貴方がしてきたように、順番が回ってきたんです」
後輩は空を仰いだ。極夜の、闇しかない空に、かつての陽光を思い浮かべながら。
「もうすぐ私の番も来る」
断頭台の下、雪の上に赤が転がった。
「この世で最も恐ろしい悪魔が、私を殺しに来るでしょう」




