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0時1分の欠落  作者: リョーシリキガク
午後編 愛

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14/24

14時 問いから目を背けないで

 保安省本部。豪奢な控室で眠る一ノ瀬の頭に、男の掌がそっと触れた。

 ピリッ――小さな火花が指先を走る。


「これは……読心能力者さんが、今もこっちを覗いてるのか?」


「そう。全部見たわ。あなたが薔薇の団のトップで、漣さんの後輩ってところまで」


 天井スピーカーから男の声が響く。上官の声であったが、その中に入っているのは一ノ瀬である。

 彼女の声は僅かに上擦っていた。

 入れ替わり能力は知らされていたが、その能力者…つまり研究所の男が来ると思っていた。三人による入れ替わりで、薔薇の団のトップが来るとは想定外だ。


「直接話をしたかった。幼馴染の一ノ瀬さん。貴方が彼に足る相手か確かめるために」


 後輩は、静かに口を開いた。何の話をしているのか、一ノ瀬にはさっぱりだが、後輩はそのまま続けた。


「貴方の愛は本物?」


「何の話?」


「人は、自分が持たないものを愛する。まるで、それを手に入れれば完全になれるかのように」


 後輩は言葉を続ける。


「貴方が神宮という化け物に惹かれたのは、心のどこかで強さを求めていたからでは?両親を奪い、能力者を差別する世界への復讐。理由は十分だ」


「違う。単に顔がタイプだったから。内面は好きじゃない」


「では貴方が神宮を嫌うのは、彼が貴方と違うから?それとも、彼が貴方と同じだから?」


「そんなことをなぜ考える必要があるの?」


 後輩はふっと笑った。

 なぜ彼、もしくは彼女はこの本部から逃げないのだろう。


「"貴方たち"に問いから目を背けないでほしいから。例えば神宮はきっと今頃研究所で他人を傷つけている。貴方は彼が酷い人だと思う」


「思うわ」


「でも、貴方にも欠けを埋める欲求はない? 貴方はあの悪魔とは違うと言い切れる?」


 さぁ考えて、とでも言うように後輩はこちらを指さした。


「違う……私は違う」


「違わないかもよ? その否定したい衝動は何?」


 後輩の声色が変わる。


「あら、入れ替わりの能力者が殺されたわ。もうさよならね」


 そう言い残すと、後輩――実は女だったらしい――の意識はふっと消えた。


 まもなく、一ノ瀬自身の意識も遠ざかっていく。入れ替わっていた体から無理やり引き剥がされ、宙に浮かぶような感覚に捕らわれた。

 その虚ろな空間で――誰かの、誰かの声が、絶え間なく反響していた。



『んー?』


 呼びかけに応えるような声。


「読心能力使えばいいって……違うもん! あなたの口から聞きたいの!」


 どんな答えが返ってきたのか、思い出せない。場面が変わる。


「大好き。ずっと私を忘れないで」


 話しているのは私だろうか、幼い頃が響いた。


『忘れないよ。忘れたらもう俺じゃない』


 また場面が変わる。相手の顔も姿も、何もかも朧げだったが、()()()()()だけは、はっきり覚えていた。


『生まれ変わっても探しに行く。お前を守るよ』

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