13時 鼠
首都郊外の国立研究所では、超能力の解析と模倣が続けられている。最近の成果は超能力を強制的に使えるようになる装置の開発であった。それを薔薇の団に横流しした鼠がいるわけだ。
「これが横流しされたものと同種の、新型の出力装置です。能力の再現は多少成功しましたが……」
研究員は震えながらも差し出した。必死にある点を見ないようにしている。
「……使えば確実に死亡します」
神宮は無言でその装置を受け取った。装置は鈍い光を放つ鉄の塊に見えたが、手に取ると拍子抜けするほど軽かった。重い代償に対しても人気は高いそうだ。例えば死んだ娘の声が聞きたいとか。人の知りたいという本能は侮れない。
「ぐっ……ぁぁあぁぁああ! 知らない! しら、ないから!」
脇では一人の裏切り者が頭を抑えてのたうち回っていた。
絶叫に混じって、どこからかカタカタとパソコンを叩く音が聞こえる。
この研究所は、漣くんの遺伝子から超能力者を生み出す研究もしているはずだ。なにか手がかりがあるかもしれない。
「ひっ……」
「漣くんの処刑の時刻に、揺らぎが観測されたと言ってたけど。あれに進捗はある?」
神宮が指を少し動かす度に、鼠がもがいて跳ねる。
「ほんとに知らな……あっっああっっ!!!」
「時を操る能力が存在しているのでは、という仮説が出ました……例の一分があれば、確実にわかるはずです」
薔薇の団があの一分を奪ったのは、漣くんのデータをもとに能力の解析を進めるためなのだろうか。
神宮は鼠に視線を落とした。
彼は息も絶え絶えで、なおも呻いている。
しぶといな。この状況で吐かないとなると、改竄能力で記憶を消されて本当に知らないのか。
「装置はいくつ薔薇の団に横流しされた?」
「二つです。幻影の悪魔の能力と、読心能力の装置が紛失していました」
神宮は鼠に触れ、サイコメトリーを発動した。装置は、直接会って引き渡したわけではないらしい。どこかに置くわけでもなく、川に投げ捨てるようにして渡したか。これじゃ読めないな。
一つ分かったのは、こいつが薔薇の団に協力した理由だ。
「君たち。気づいたんだね」
知りたいという本能には抗えなかったのだろう。彼らは研究の中で悪魔の正体に気がついた。
悪魔の正体は超能力者の成れ果てだと。
それで超能力は消えるべきだという思想に共感した。
まぁこいつは利用されてるだけだ。薔薇の団のトップが超能力者だと知らない。そもそもこいつに期待はしていなかった。
本命は……
「君か」
先ほどから、自分の拷問にも関わらずカタカタとパソコン作業をし続けている白衣の男。
「入れ替わり能力?」
彼はカチリとマウスで”ハードウェアの安全な取り出し”を押し、USBを抜き取った。
「被験体と入れ替わり、命を代償に装置で能力を使う。そして体が死ぬ前に元に戻ることで実験を進めた」
「その通りです。しかし正確には私は能力者ではありません。この肉体がその能力者のものであるだけです」
「既に入れ替わってるのは知ってる。朝、読心能力者が映像を見ても能力者だと反応しなかったんだからな」
気づいてなお一ノ瀬にわざわざ聞いたのは、彼女の忠誠心を確かめるためだ。
分からないと嘘をつくのか。また、両方の心が読めるのだから、二人裏切り者がいることに気づいた後、どちらなら"死んでかまわない"と判断するのか。
一人は自分の利益のために、もう一人は未来のためだと信じてテロ組織に兵器を横流しした。
一ノ瀬は前者なら死んでもいいと思ったから、主席研究員、そこで伸びてるクズを指さしたのだろう。
「その一ノ瀬さんですよ。入れ替わった能力者。つまり僕の体で狙ってるのは」
一ノ瀬は保安省の本部にいる。その位置に体があると言うことは
「君、保安省の職員なのか?」
「さぁ?」
「薔薇の団は反超能力を掲げて国民を煽っているが、実は超能力者で構成されているテロ組織。そして保安省も一枚噛んでいる。お前らの狙いは?」
「能力者を差別してきた世界への復讐に加えて、団のトップは読心能力を探しています。だから一ノ瀬さんを狙っていて。彼女を守りに行かなくてよろしいので?」
「僕も入れ替わり能力は使える。自分と誰かを入れ替えるだけでなく、他人同士もね」
監視塔を出る前に、トリックを仕掛けておいた。
「……一ノ瀬さんを既に誰かと入れ替えていると?」
「そう。体が誰であろうと中に一ノ瀬が入っている状態で敵を観れば、全て確かめられる」




