12時 監視塔
十二月二十一日。
私はレイグラードを歩きながら、最後の平穏な景色を見届けた。
午前十時だというのに街は薄暗く、極圏に近いこの都市には極夜の影が迫っていた。
冬宮広場では、抑圧に抗うため一人の男が焼身自殺を遂げた痕跡が、まだ凍りつく空気に残っていた。
そしてそのすべてを覆い尽くすように、都市を見下ろす監視塔が重く聳えている。
塔の前には数百人規模のデモが集まっていたが、太陽が昇るより早く、装甲車の列に踏み潰された。
「自然は真空を嫌う」――能力者を排斥する国民の叫びは、夜明けを拒むこの都市で、歴史の箒【検閲により削除】
――『世界を揺るがした十二日間』第三章:前夜
⸻
監視塔の中、白い照明が眩しささえ帯びる部屋には、大量のモニターが絶え間なく稼働していた。この部屋こそ、心の監視装置の中枢だ。
「……USB……違う。タイプCをくれ」
「はい」
神宮は短く答えると、端子を作り出した。
タイプCからタイプBへ。変換プラグに至るまで、便利な能力である。
「例の0時のバグ、もうじき修正されるらしい。くだらない話だがな。理由は――」
「端子が逆に挿さってた、だとよ」
たったそれだけのことで、国家の支配は1分間、空白を抱えていたのだ。
しかしもうすぐ、欠けのない監視が完成するのだろう。
「一ノ瀬。裏切り者は誰か分かったか?」
神宮は、モニターを眺める一ノ瀬に声をかけた。
能力関連の解析を行なっている国立研究所。その研究者の中に薔薇の団と繋がる裏切り者がいるようで、神宮たちはその鼠を探していた。
「い、いや……」
一ノ瀬は淡く痛んだ声で、瞳に怯えを宿していた。
名前を言えば、その者は間違いなく殺される。そう考えてでもいるのだろう。心を読めなくても分かった。
「薔薇の団が企んでるのは秩序の破滅。テロ組織だよ」
神宮の声は淡々としていた。「穏健なデモとは違う」と、彼は言う。
神宮の目は鋭かった。さて、"どちらなら死んでもいい"と思ったのか。
一ノ瀬は震えながら、それでも名を口にした。
「……この、主席研究員」
「ふーん、そっちなんだね」
神宮はそれを聞くと、立ち上がった。
指を額に当て、研究所の位置を補足する。瞬間移動だ。
その背中に、声が届く。
「……殺さないでほしい。私、自分のことしか考えてないのは分かってる。でも、人殺しに加担したくないの」
神宮はわずかに振り返り、「悪いが嘘はつけない」と答え、消えた。
ネズミは馬に変わる。とあるトリックを残して。




