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0時1分の欠落  作者: リョーシリキガク
午前編 本能

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11/24

11時 契約

「処刑は昼の12時だったはず……鐘の音も聞こえない」


 映像の欠けはシステムの不具合ではない。


 装置のバグは日付の切り替わりに起因するもので、深夜12時にしか起こり得ない。何より、この映像は別の録画方式で記録された。


 ……先ほどの襲撃で、完全記憶能力者の記憶を奪われた?


 また、後手後手だ。

 映像越しでも読心が可能だと、早く気づいていれば。


 だが、もう逃さない。


 漣を信奉する薔薇の団。

 その首領は、記憶改竄(かいざん)能力者。


 なぜかこの1分"だけ"奪った。重要な情報を持つ映像なら、削除せず保存しているはずだ。


 失われた1分の映像。

 そこに全ての答えがある。


 奪い返すために、まず――



「どうしたの?」


 背後から、かすかな声がした。


 一ノ瀬が、傷ついた脚を抱えるように座っていた。包帯の内側から赤が滲む。

 スケートへの影響は分からない。だが短い選手生命の中で、それは致命的な欠けだろう。


 神宮は少し間を置いてから、口を開いた。


「僕が本部に連れて来たから、君は襲撃に巻き込まれた。すまない」


 神宮は申し訳なさそうな表情をした。一ノ瀬は、しばらくの沈黙の後に答えた。


「……そうね。でも二度、あなたが "助けて" くれた。

一度はそれで相殺。残ったもう一度、私があなたに協力するべきだと思う」


 神宮は、静かに一ノ瀬の前に膝をついた。真っ直ぐ、彼女の目を見て誓う。


「君の脚を治すよ。もう一度、滑れるようにする」


「……ほんと?」


「ああ。契約だ」


 神宮は彼女の手を握り、そして開いた。

 その掌の上に、ガラスの小さな靴が、そっと生まれていた。

 先ほど地下でみた能力制御用の装置を再現したもの。


 透明な脆い輝きが、薄明かりの中で瞬く。


「君に、僕の心を見つけてほしい。君しかいないんだ」


 一ノ瀬は、涙ぐみながらそのアクセサリーを抱きしめた。


「……うん、約束する。16歳で迎えにくるのは、あなただったのね」


 誠実で真っ直ぐな赤い瞳は、本当に一ノ瀬を見ていたのか。彼の心は読めなかった。



 一ノ瀬に映像を見せれば分かる。


 0時までの君は完璧だった。それでも0時1分の君には、何か伝えたい()()()()()があったのか。


 ――漣くんは僕の心に何を見たのか。


 失われた“0時1分”を探す午後が訪れる。



 欠けたものを求める。

 それが悪魔の本能だ。

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