隠せない事
次の街に着いたのは2日後の真昼時のことだった。その街は前の場所より賑やかで華やかだった。人も多く皆楽しそうだった。
「この街は伝統行事を大切にする風潮があるんだ。今はちょうど祭りらしいな。あと3日は続くと思う。」
「祭り……なんだか皆楽しそうですね。」
「そうだな…せっかくだし、出店で昼食を調達しよう。きっと気に入る。」
私達は人混みの間を移動して出店を見ていた。食べ物や記念品、アクセサリーなど色々あった。私は1つ、白い宝石のついたネックレスがあったからそれを眺めていた。旅人さんはそれを察したのか私に買ってくれた。無言でネックレスを渡してくれた。だから私は受け取ったけど1つわがままを言ってみた。
「旅人さん、今私につけてみてください。」
旅人さんは少し悩んでからつけてくれた。
「ありがとうございます…!!一生大切にしますね!」
私は満面の笑みになった。旅人さんはまた何か少し考えてから
「…似合っていると思う。なくしてもまた他に買ってあげるから安心してくれ。」
旅人さんは目をそらしながら言ってくれた。私はそんな事言われると思っていなかったから顔が熱くなった。多分とても顔が赤くなっていたと思う。またしばらく出店を見ながらまわっていた。するとお店の人が旅人さんに話しかけた。
「あれ、もしかしてアズさんか?やっぱりそうだ!!久しぶりだなぁ、全然変わってねぇな兄ちゃん!何年ぶりだ?8年ぐらい経ってるよなぁ?相変わらず色男だな!」
「あなたは…確か飴細工屋の…」
「そうそう!よく覚えてたな!」
すると旅人さんと出店の人は楽しげに話し始めた。アズという言葉に少し引っかかった。旅人さんの初めて見る表情だった。少し悔しかった気がした。私の知らない旅人さんはまだ多いと思ったから。10分程話し込んでやっと終わった。旅人さんはすぐに私のところに駆け寄ってくれた。
「悪い、少し捕まっていた。待たせてしまったな。」
「…」
「…どうかしたか?」
「旅人さん、アズって…偽名…ですか?」
「あぁ…そうだよ。」
「……旅人さん。私、負けません!」
旅人さんは少し驚きながらよくわからないという表情をしていた。当たり前だ。でも私は絶対に旅人さんの事を誰よりも理解したいと思っているから、負けない宣言をした。この悔しさは絶対に忘れないと思う。
その後も旅人さんは何人から話しかけられていた。そのたびにアズ、クノリなど色々な名前があがった。日が暮れてきてもうそろそろ宿に向かおうとしていた時、後ろから小走りで近づいてくる人がいた。するとその人は怒った顔をしながら旅人さんの肩を強く掴み大きな声で話し始めた。
「テメェ…今までどこにいやがった!!!」
周辺に声が響いた。私が驚いていると旅人さんはとても驚いた表情だった。それから怯えているようにも見えた。旅人さんは慌てて人混みをかき分けて走って逃げていった。正直驚いた、旅人さんがこんな表情をする事ももちろんだけれど…この男の人が旅人さんをここまでにするほどの存在だと言うことに一番衝撃を、受けた。男は旅人さんを追いかけようとしていたけれど私が腕をつかんでそれを阻止した。
「あ"ぁ!?何だテメェ……離せよ」
「いやだ!」
「いいから離せよっ!」
やっぱり力では劣っていて簡単に振り解かれてしまった。男はすぐ走って行った。私が腰を抜かしていると後ろから旅人さんが声をかけてきた。
「悪い、置いていくつもりじゃなかった。」
「旅人さん……」
私は安堵して数粒だけ涙が流れた。旅人さんは私を連れて近くの宿屋に避難した。部屋をとり中に入った。
「旅人さん…さっきの人は何なんですか…?」
「…知り合いだ。昔のな。」
「え…じゃあなんで逃げたんですか?」
「…友人がいなくなってから少しの間俺はあいつ…ガーノに世話になってた。でも、俺は少し1人になりたくて黙って離れていったんだ。それで…怒っているんだろうな。」
「…それは旅人さんが悪いですね。黙ってるのは良くないです」
「やっぱ、そうだよなぁ…カズノ?俺に一言言ぁ良かった事だよなぁ?」
ガーノは音もなく部屋の中に入ってきていた。私は驚きすぎて思わず椅子から落ちてしまった。ガーノは一歩ずつ近づいてきた。
「俺ぁな、お前に今怒ること以外思いつかねぇんだよ。なんで、俺が怒ってるか自分の口で言ってみろや」
「……悪い、勝手に…」
「俺がいいたいのはそっちじゃねぇよ。わかってんだろ?テメェがやった事をよぉ」
私には話の内容はあまり理解できなかった。でも旅人さんはとても困った様子だった。ガーノという人は旅人さんに呆れながら私に一旦部屋を出ていくように促した。そして少しのお金をくれた。多分晩ごはんも食べてこいって事だと思う。
その日に寝たのは夜遅くだった。
朝目が覚めると部屋の端の方に旅人さんが下を向きながら座っていた。
「旅人さん…?」
「…昨日は悪かった。まだ眠ってくれていい。少しの間…ここに滞在する。」
「…旅人さん、大丈夫ですか?」
自然と言葉が出た。旅人さんは疲れたような声をしていた。とにかく私は心配だった。
「…ユイ、今日の夜、ちゃんと話すよ。ガーノについてと…俺の…過去についてを」
「そんな無理に話さないでも…」
「いいや、これは話さなければいけないんだ。また俺の過去話に付き合ってくれ。」
「…わかりました。大丈夫です。私は例え旅人さんが様々な事をしていたとしても私は旅人さんにずっとついていきますから。旅人さんと、ずっと一緒にいると決めましたから。」
「…ありがとう。とりあえずもう一度ガーノのところに行ってくる。」
旅人さんはその場から立ち上がった。そして部屋を出ようと扉に手をかけた。
「あんまり…頑張りすぎないでくださいね…!
………カズノさん!」
旅人さんはそのまま黙って部屋を出た。カズノというのは多分…ガーノという人が言っていることが本当なら本名なんだと思う。今言うべきかは分からなかったけど、本名ということがわかって口走ってしまった。
少し反省をした。
夜まで部屋に1人でいるのはさすがに退屈だから街をみて回った。昨日とはまた違う出店があった。時間を忘れて店を見ながらずっと歩き回っていた。特に何も考えずに足が痛いことにも気づかずに歩いていた。気づいたら裏路地を歩いていた。するとそこには1人の男と血まみれでピクリとも動かない人がいた。男は少し大きめの刃物を持っていた。男が私の存在に気づくと話しかけてきた。
「おいそこの嬢ちゃん。見たな?」
私は呼吸をするので精一杯だった。怖かった。体が震えているのがわかった。よく見るとその男は返り血で汚らしかった。逃げようとしたけど腰が抜けてどうしようもなく、男が私に刃物を振りかざそうとした時、誰かが私の目の前に立ち、庇ってくれた。私は返り血を浴びた。その人は、旅人さんだった。旅人さんは急所を刺されたらしく、どんどん血があふれて、倒れた。
「…旅人…さん?」
恐怖のせいで涙が溢れた。男、刃物、旅人さんの血、すべてが怖くなった。旅人さんの呼吸音が聞こえなくなった。
「なんだ?こいつぅ…まあいい。次は嬢ちゃんだ!」
今度こそ刺されると思って恐怖で目を瞑った。でもしばらくしても痛みを感じなかった。勇気を出して目を開けると、男が倒れ、旅人さんが立っていた。状況の理解ができなかった。旅人さんは私に優しい声で話しかけた。
「…1人にさせるべきではなかったな。俺の責任だ。不安にさせて悪かった。」
「旅人さん……?怪我は…さっき呼吸してなかった……」
「…一度宿に戻ろう。体を洗ったあとに、話すから。とりあえず、落ち着いてほしい。」
私は旅人さんに手を差し伸べられたからその手を掴んだ。そしてそのまま宿に戻ってお風呂に入った。混乱が解けないまま部屋に戻ると、旅人さんが椅子に座っていた。そしてその隣にガーノさんが立っていた。私は旅人さんの向かいにある椅子に座った。旅人さんはゆっくり話し始めた。
「…今日呼んだのは俺の方なのにどう話し始めたらいいのか…」
「最初から話せ。それが一番わかりやすいだろうが。」
「…」
旅人さんはガーノさんに促されて話し始めた。




