7話 脳内に直接!?
ダンジョンの入口を抜けると、薄暗い通路がうねるように続いていた。石の壁には苔のようなものが生えていて、じっとりとした湿気がまとわりつく。
「うわ……じめじめしてるな。床も滑りそうだ」
俺は新調した剣を片手に、ぎこちなく構えてみせた。軽くて丈夫なはずなのに、腕に変な力が入ってしまう。
「ふふ、緊張してるのね。ほら、肩の力を抜いて」
横で咲が黒いジャケットの袖を軽くまくり、まるで剣術指南の先生みたいに俺の腕を直してくる。ジーンズとブーツ姿も相まって、なんだか頼りになるお姉さん感が増していた。
カキンッ!
俺は盾で壁に軽く打ち付けてみる。……おお、弾かれ方が滑らかだ。胸当てもずれないし、確かに軽いのに頑丈だ。
「お? 意外と悪くないな、これ」
「でしょ? あの子が食べた魔石、なかなか良質だったのよ。おかげ頑丈みたい」
そう言って咲は自分の両手を広げ、手袋に魔力を流し込む。黒い布地がじわっと光を帯びた。
「ほら、手袋がちゃんと魔力を拾ってくれるの。これなら、ちょっとした魔法も撃てるわ」
実演のように手を振ると、周囲の空気がざわりと震えた。
「すげぇ……。俺のは?」
「うーん、君はまず“魔力の流し方”を覚えなきゃね。ちょっと目を閉じて。呼吸に合わせて、体の奥から力を押し出す感じ」
咲の声は妙に色っぽくて、集中どころじゃなかった。だが必死に真似してみると、剣の刃がかすかに青白く輝いた。
「おおっ! 光った!」
「うふふ、初めてにしては上出来よ。ちゃんと君の魔力が剣に宿った証拠」
その時、咲がマスクを指で触れた。
「ところで……ちょっと試してみる?」
そう言って、彼女はガスマスクを外しかけた。瞬間、周囲の魔力が暴風みたいに吸い寄せられてくる。俺の剣もガタガタ震えた。
「や、やばいって!」
「んー、やっぱり全開はまだ危ないわね。ふふ、残念?」
悪戯っぽく笑って、咲は再びマスクを装着した。口裂けを隠すだけでなく、魔力の制御装置としての役割が大きいのだと、身をもって理解した。
「ま、装備はバッチリそうね。これで探索も頑張れるわ」
「ああ……頑張ろう」
気合を入れ直した、そのとき。
『おいコラ! 剣の持ち方が甘ぇぞ!』
「うおっ!? 誰だ!?」
頭の中に声が響いた。俺は慌てて辺りを見回す。
『ここだよここ! オレだよ、装備工房の天才職人、座敷童様だ! クローゼットから直通で脳内通信してっからよ、便利だろ?』
「え、ちょ、頭の中に直接!?」
「ふふふ、気づいた? わたし、前から知ってたのよ。でも面白いから黙ってたの」
咲が口元を押さえてクスクス笑っている。
「おいおいおい! そんな重要なことを“面白いから”で隠すなよ!」
『ハッハー! 驚いてんの最高だな! よし、次は盾に魔力を流し込んでみろ。ちゃんと見ててやっからよ!』
……どうやら俺の冒険は、賑やかな脳内実況付きで進むことになりそうだった。