5話 新しい仲間、オラオラヤンキー座敷童
ギルドでの受付嬢の提案から一日後。
俺は現実逃避もできず、結局あの口裂け女。
いや、登録名を咲として探索者デビューすることになった。
「はいこちら、探索者登録証になります。御陵園奏多さん。そして咲さん」
「よろしくお願いしまーす」
満面の笑みを浮かべる咲。いや、笑顔がエグいんだって。裂けた口が耳まで開いてんだぞ。
それでもテキパキ嬢はにこやかに手続きを終えてくれた。どんだけメンタル強いんだよ。
かくして俺たちは、探索者としてダンジョンに挑むことになった。
もちろん準備も必要だ。
「武器とか防具、持ってないでしょ?」
「持ってたら苦労してねぇよ」
「じゃあレンタルね。ギルド内の装備屋で借りられるわ」
ということで俺の装備はレンタル一式。なんでそんなこと知ってるのか?テキパキ嬢に聞いた?仕事はぇー。
現実に戻る、鉄製の剣と、やたら重い胸当て。正直、ゲームの初期装備ってやつのほうがマシじゃねぇかってレベル。
一方の咲。
「私はこれで充分よ」
彼女はジャケットのポケットから、小さなハサミを取り出して見せた。
……いやいやいや。どう見ても工作用のハサミだろ。武器じゃねぇよ。
「これ、切れ味抜群なのよ。昨日のお兄さんのスキルも、スパッといけたし」
「……いや、あれ折ったの木刀だろ!?」
「奏多くん、細かいこと気にしすぎ」
どの口が言うか。裂けてるけど。
俺と咲は、ダンジョンの一階層へと足を踏み入れた。
地面はざらついた石畳、天井からは青白い苔がぼんやりと光を放っている。涼しい空気が漂い、湿った匂いが鼻にまとわりついた。
足音が響くたびに、心臓が跳ねる。
やっぱり怖い。いざ実際に来てみると、現実味が違いすぎる。
「緊張してるの?大丈夫よ、私がいるから」
「いや、そうなんだが‥」
そんな会話をしていたとき――。
カサッ。
耳に小さな音が届く。
目を凝らすと、暗がりから茶色い小柄な影が飛び出してきた。
牙をむき出しにして走ってくる、ネズミとコウモリを掛け合わせたような化け物。
「ギャアッ!」
「でたぁあああああ!?」
咄嗟に剣を構えたけど、足がすくむ。いや怖い!ゲームと違って現物だと怖さ倍増だぞ!
「落ち着いて。右から来るわよ!」
咲の声に反応して、思い切って剣を振る。
ガキィン!と乾いた音。幸運にも化けネズミの首をかすめ、血しぶきが飛んだ。
ぐらりと崩れる魔物。
その身体は淡い光に包まれ、石ころのような物を残して消滅した。
「ひ、ひい……今の、俺が倒したのか……?」
「うん、よくやったわね!」
咲がポンポンと肩を叩く。……いや、その口で褒められても全然癒されねぇよ!
地面には拳大の青い石と、小さな袋が落ちていた。
「これが魔石とドロップアイテムね。換金できるわよ」
「おお……マジでゲームみたいだ……」
その後も二、三体の魔物と遭遇したが、咲のサポートのおかげでなんとか撃退できた。
いや、正直サポートというか、ほぼ彼女の指示通りに動いただけだけど。
一階層の探索を終え、俺たちは引き返すことにした。
ダンジョン出口に戻る頃には、俺の足は棒のようになり、全身汗でぐっしょり。
「はぁ……疲れた……もう二度と行きたくねぇ……」
「そんなこと言って。楽しかったでしょ?」
「どこがだよ!怖すぎて漏らすかと思ったわ!」
「安心して。もし漏らしたら、内緒にしてあげる」
「余計怖いわ!!」
そんな言い合いをしながら家に戻る。
玄関の奥から、不機嫌そうな声が響いた。
「おっせぇぞテメェら!」
「うわっ、誰!?」
リビングの中央に、見知らぬ少女が仁王立ちしていた。背丈は小学生くらい。けど髪は真っ白で、古風な着物姿。
顔は幼いが、目つきが完全にヤンキー。
「おい、召喚主。アタシは座敷わらしだ。今日から世話になるからな!」
「えっ……ちょ、なんで勝手に召喚されてんの!?
またこれかよ!」
「知らねぇよ。呼ばれたから来ただけだ。文句あんのかコラ」
ちょっと待て。なんだこのオラオラ系座敷わらし。
俺が絶句していると、彼女は机をドン!と叩いた。
「まあいいや。アタシ、装備作んの得意だからよ。剣でも鎧でも任せろ。すぐ量産してやっから!」
「え、装備作れるの!?」
「おうよ!そのショボいレンタル武器、ダセェから捨てちまえ!」
俺は頭を抱えた。
スキル『怪異召喚』、マジで生活をぶっ壊しにきてる。