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第4話 もしかして俺、ぼっち?

「いやぁ、あの男の顔ったら!パックリ斬ったら蒼白になってたわね!」

口裂け女は俺のアパートで冷蔵庫を開けながらケラケラ笑っていた。


「笑ってんじゃねぇよ!俺は体はいてぇーし、最悪だよ」


今日の模擬戦。

大山相手に俺は何もできずに一方的に叩きのめされた。スキルを使用するか迷い、あの見えない腕にボコボコにされた。


 結局最後は、口裂け女が割り込んで俺を救った。

彼女は男を一閃し、場を収めたときの周囲の視線。あれは笑いと少しの恐れが混じっていた。


俺はそれから逃げるようにギルドを出て帰宅していた。


「よかったじゃない、私がきたんだから」


 口裂け女は勝手に冷蔵庫を物色し、なにもないなぁとつぶやく。すると俺の財布をひょいと抜き取る彼女。今日の晩ご飯は豪華にしましょう!なんて宣言するその姿に、俺は頭を抱えた。


 思い出す。

彼女の服代、食費。俺のバイト代より遥かに高くつく。今はギリギリ貯金があるから大丈夫だが。こいつはお金に頓着しなさすぎ、飯をめっちゃ食うし。だからこそ、探索者として稼がなきゃいけないのに。


「……いや、ほんとに破産するぞ俺」

「破産する前にもっと働いてよ。私も手伝うわ」

「お前が言うなぁぁぁ!」

そんなやり取りを、昨夜も延々繰り返していた。



次の日。

探索者ギルドのロビーに立った俺は、昨日とは違う空気を感じていた。


 壁際にはパーティ募集の張り紙が並び、各カウンターではパーティ毎に探索者たちが真剣な顔で打ち合わせをしている。初心者講習で見かけた人たちもいるが、他の探索者に声をかけられている。


俺はため息をつく。

それはソロでダンジョンに入ることは禁じられているからだ。命が軽く飛ぶこのダンジョンで仲間は大切だ。だから俺はパーティに入らなきゃ、稼ぐことすらできない。


でも俺を誰にも声をかけれない。

いや、それどころか視線を逸らされているのを痛いほど感じる。


 理由は分かっている。

昨日の決闘を見ていた者たちの目には、俺はスキルを制御できず、怪異に頼る奴と映っている。

しかも、その怪異が口裂け女。見た目は怖いし、俺に本当に従っているのか疑わしい。


そんな危険物を抱えた俺と、一緒に潜ろうと思う物好きはいない。


「お前、パーティを探してるのか?」


不意に声をかけられ、振り向く。

そこには昨日の初心者講習で教官役をしていた、あの女性が立っていた。

天音は冷静な瞳で俺を見据え、腕を組んでいる。


「天音だ。昨日の決闘は見ていた。あれでは誰も組まないだろうな」


「あー、はい」


「だがあのスキルは強力だ。制御さえできれお前の力になるだろう。鍛えてやる。私のパーティに──」


 その言葉に、俺の胸がぐらりと揺れた。

喉の奥でお願いしますと言いかけて、しかし飲み込む。


 頭の中で昨日の映像がリピート再生される。

俺が必死に木刀を振っても何も通じず、口裂け女がいなければどうなっていたか。

そして、彼女を制御できなければ周囲を危険に晒すかもしれないという恐怖。


「すみません。やめておきます」

「なぜだ?」

「俺と組んだら、きっと迷惑をかけるので」


口にした瞬間、胸の奥がひどく冷たくなる。

でも、仕方ない。これが俺の現実だ。


彼女は一瞬だけ寂しそうに目を伏せたが、すぐに表情を戻した。


「そうか。ならせめて、自分のスキルから逃げないことだ」


 それだけ言って、彼女は背を向けて去っていった。


 ロビーに取り残された俺は、深く息を吐く。

このままじゃ、どうにもならない。

どうやって生活を。いや、どうやってこの状況を打開するか。


そんな時だった。


「ねえ、奏多さん」

 カウンターから声をかけてきたのは、ギルド受付嬢の一人。昨日のテキパキお嬢。

柔らかな笑顔を浮かべ、こちらを見ている。


「もしパーティが見つからないなら、彼女を探索者として登録してみてはどうでしょう?」

「彼女って?」

「ほら、昨日の模擬戦で助けてくれた。あの口裂けの女性です」


俺は思わず絶句した。


「いやいやいや! あいつは怪異ですよ?探索者って、人間がやるもんじゃ」


「怪異とはいえ、実力は確かですし。規約上、登録できない決まりはありません」


受付嬢は涼しい顔で言い切る。


その横顔を見ながら、俺は頭を抱えた。


口裂け女を探索者として登録?

そんな馬鹿なこと、考えたこともなかった。


だが昨日の一閃を思い出せば、彼女の戦力が桁外れなのは明らかだ。


「マジかよ」

俺は額に手を当て、呟いた

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