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第1話 召喚から始まる探索者稼業

二十歳。

 普通なら成人式とか仲間と酒飲んだり、そんなことを考える年頃。

 けど俺、御陵園奏多ごりょうぞ かなたにはもっと強制的で逃げられない行事が待っていた。


「はぁ……またスキル検査かよ。めんどくせ」


 十年前、突如として最初のダンジョンが日本に現れた。それに伴い、各地で指先から炎を出したり、空が飛べるようになったりと不思議な力を持つ人々が出現したのだ。そして国は早急にダンジョンと特殊能力『スキル』発現者の管理を急ぎ、16歳以上の全員にスキル検査を義務づけた…らしい。


 俺はこれまで『適性なし』だった。でも16歳になれば何かしら発現するため、適正なしの俺は毎年来てるのだ。市内のスキル検査センターに。


 白い壁と機械音、待合室の空気は病院そのものだ、俺にとっては見慣れたものだ。

 番号を呼ばれて検査室に入ると、白い窓のない部屋、真ん中に椅子が1つだけ。椅子の横に立つ白衣姿の職員がにこやかに迎えてた。


「では御陵園さん、検査を始めますね。椅子に座って目を閉じてください」


「はい」


「私が鑑定しますと、鑑定スキル情報が脳に自然にインストールされますね」


 いつも通り今日も何事も終わるだろうと、目を閉じた。


 次の瞬間――。


 頭に響くようなノイズが走った。熱い、痛い、ざわつく。誰かの声が直接流れ込んでくる。


《……呼べ……呼べ……》


「うわ!? なんだこれ!?」


 思わず飛び上がった俺に、職員はタブレットを確認しながら落ち着いた声を出す。


「おめでとうございます。御陵園さんのスキルは『怪異召喚』です」


「頭めちゃくちゃ痛かったし。怪異召喚って?スキルが発現したってこと?」


 発現したら、みんなそう言いますね!と職員は楽しそうに話す。

「はい。伝承や妖怪を呼び出す能力のようですね。非常に珍しいです。実は海外に一例しかなく、日本では前例がありませんよ!」



怪異ってなんだよ!妖怪ってことか?



「……えーと、危険性は報告されていませんね。それではスキルの使用準備をいたしますので、少々お待ちを」


 職員は淡々と告げ、白い壁から扉が現れ入っていく。すると職員の声が響いた。

「ではスキル使用の準備が整いましたので、使用お願いします。ちなみにこの空間は頑丈ですので、お気になさらず」


 俺はスキル発現から思考がストップしてるんですけど!なんで淡々とウキウキで、準備しちゃってるの?鼻歌歌ってたよね?


「心の声、聞こえてますよ」

 くそ、やってやるか。目を閉じ、叫ぶ。


「こい!」


 何か起きたような雰囲気はない。失敗か?と目を開ける。

 眼前に唇が耳元まで裂け、長い前髪から睨むよう視線が突き刺さっていた。


「うわっ!」

 思わず後ろに転ぶように倒れた。

そして職員の声が響く。


「はい。問題なくスキル使用の確認できましたので、スキル検査完了になります。お疲れ様です」

 今は何もなかったように消えている。


「いや無理無理無理!今、おっきな口開けてるやついましたよね!?めっちゃ怖かったんですけど!」


 俺の悲鳴を完全にスルーして、職員は笑顔のまま書類を差し出す。


「はい、いましたね。でも今は消えてるので、御陵園さんがしっかりコントロール出来てる証拠ですね!いいもの見せてもらいました。

あとこちらが冒険者ギルドの入会資料です。登録はそちらでお願いします」


「ちょっ、俺まだ入会するなんて」


「これも国の決まりですよ。お疲れさまでした」


 検査終了。追い出されるように部屋を出され、俺は紙束を持って呆然とした。



 その日の夕方。

 アパートに帰り、玄関を開ける。


「こんばんは」


 女が立っていた。赤いコートに長い黒髪。マスクを外すと、耳まで裂けた口がにぃ、と笑った。


「ひっ……さっきの‼︎で、出たぁあああああ!!」


「あなたが呼んだの。だから来たのよ」

 女は変わらずににぃっと楽しそうに笑っている。俺にはその笑顔が獲物狙う顔にしか見えないよ!


「いやいやいや、呼んでない!帰ってよぉ!」


「こいって呼んだでしょうに。いいわ、私は口裂け女。よろしくね、奏多くん」


「よ、よろしくじゃねえええ!!」


 俺は玄関で尻もちをついた。心臓が爆発しそうだ。


「……で、あの、本当に帰ってもらえませんか?」


「無理よ」


「え、なんで?」


 口裂け女はさらりと言った。


「召喚された怪異はね。寿命を終えるか、殺されるまで消えないの」


「……は?」


 検査センターではそんな話しされてないぞ。


「ってことは、お前……ずっと家にいるの?」


「そうね。あ、初召喚記念に冷蔵庫のプリン頂いてるわ」


「勝手に開けんなああああ!!それ俺のプリン!!」


 叫んでも、裂けた口の女は楽しそうに笑っていた。


 こうして俺の人生は、静かに狂い始めた。

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