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軽自動車に跳ねられて異世界に転生したようだが俺の能力は……

作者: 大地 球

テレビを点けると特に印象にも残らないニュースをやっていた。

自分のタイプではないが、一般的には美人と呼ばれる部類のアナウンサーが真面目な顔でありふれたニュースの原稿を読み上げている。

「……国の特殊詐欺グループに、日本人含む大勢の外国人が拉致されていることが判明しました。この特殊詐欺グループは、他にも拠点を構えていると見られ……」

違う、俺はこんな面白くないニュースが見たくてテレビを点けたわけではない。

チャンネルを次々と変える。そんなにテンションが好きではない料理番組、明らかに低年齢向けのバラエティー……ついぞ面白い番組をみつけられず、俺はいつものようにマンガを漁りにBOOKOFFへでも行くことにした。


次の角を曲がればBOOKOFFの看板が見えてくる、というあたりの誰もいない細い路地で、

「キキーッ ドン」

軽自動車が突っ込んで来たのだ。

まるで軽自動車がこちらに吸い寄せられるように俺に突っ込んで来たのだ。

俺はそのまま意識を失った。




目を開けると見知らぬ場所だった。

起き上がると身体中が痛かった。床を見ると、石の上に直接寝ていたことに気がついた。そりゃあ身体中痛いわけだ。

車に跳ねられたはずだが不思議なくらいにピンピンしている。

というか、見知らぬ場所、というレベルではない。なんだこれは。見知らぬ世界だ。

周りの人の話している言葉が分からない。

人々の着ている服も個性的だ。どこかの国の先住民族のような衣装を着た人や、全身に布を巻いたような人。ボロキレをまとわされた人。彼らは奴隷だろうか。

現代ではないように思えた。




――もしや、これって流行りの異世界転生か?

もしや、俺は死んだのか?

いやいや普通、異世界転生の主人公は2トントラックとかダンプに跳ね飛ばされて死んでるだろ。いやでも軽自動車でも跳ね飛ばされれば死ぬか。

俺は交差点を渡っていたわけでもなく、歩道を歩いていたのだ。明らかにあの軽自動車に非があるだろうが。なのに俺が死んだのか。


しかも、異世界へ転生したが、俺の着ている服は

高校時代から使っている、ズボンの見える位置に小さく名前の入ったジャージのままだった。

浮いてしかたがない。


とりあえず、冷静になって自分のいる大きな部屋を見回して見ることにした。

よくあるケースだと、自分が死ぬ直前に読んでいた小説の世界に転生するとかだろうか。

クソッ、俺はこれから面白いマンガを探しにBOOKOFFへ行くところだったのに。

石の床の、何かの遺跡のような部屋には、20人程度の人間がいるようだ。

そして悪いことに、異世界転生特典の「その世界の言葉が自由自在に操れる」というやつはついていないようだ。現地の人間の言っていることがさっぱり理解できない。俺は落胆した。

英語の授業も頻繁に2をとっていた俺に現地の言葉を身につけられるとは思えない。


――せめてこいつらの言葉が分かるようになれ!


そう強く祈った瞬間、外で雷のような音が鳴った。

何人かから小さく悲鳴が上がる。


悲鳴が収まってしばらくした時、


隣の男が話しかけてきた。

「はじめまして。気がつかれたようですね。私の名前はザハと申します。仕事は料理人をしておりまして。あなたのお名前は?」


唐突に、他の人間の言葉が理解出来るようになった。

先程の雷の影響だろうか?

もしかして、この世界では何かを強く願うことで魔法が作用するのだろうか。


「もしお名前を仰られるのがお嫌なようでしたら、ご職業をお伺いしても?」


俺が言葉が分かるようになったことに驚いて言葉に詰まっていたところ、名前を名乗るのが嫌だと勘違いされたようだ。


俺は元々いた世界ではインフラエンジニアをやっていたが、魔法が存在するような世界で「ITが」「インフラエンジニアが」と言ったところで変な顔をされるだろう。なんと答えようか。


「あ、すみません。俺の名前はヒロキ。職業はサモナーです」


咄嗟にMMORPGをやる時によく使う職業の名前が口をついて出るが、


ザハは変な顔をしていた。

しまった。サモナーはこの世界ではコモンな職業じゃなかっただろうか。

いや違うな、おかしかったのは名前の方か。偶然ですね、俺もザハです、とか言っとけばよかったか。


「なんにせよ、ヒロキさんは今気がつかれたばかりで何がなんだか分からなくて困惑されていることでしょう。私達は、あそこに立っている全身に布を纏った人間達にここに連れてこられ、囚われているようです。あそこにいるボロボロの服の人を見て下さい。逆らったり反抗すると酷い暴力を受けるのです。何名かずつ、別の場所に移動させられているようです」


その時、俺達が話しているのを聞きつけた入り口に立っていた男が、棒を持ってこちらにやって来た。


まずい。私語がまずかったのか?というか、殴られるのか?

――殴られたくない!


バシン!


まず、ザハが棒で殴られた。

次は俺だ……と思って待っていたが、男は舌打ちをしながら何かを投げつけてきた。棒が半分に折れている。


そうだ。この世界での俺の能力は願ったことを現実にする力のようだった。

しまったな。だったら「ザハも俺も殴られませんように」と願ったのに。俺は罪悪感を感じた。


その時、部屋の奥にある重そうな鉄の扉が軋む音を立てて開いた。全身に布を纏った男が二人、ゆっくりと入ってきた。彼らの顔は布で隠され、目だけがぎらりと光っている。


男の一人が無言でザハの腕を掴み、扉の方へ引きずっていこうとする。


――まずい、ザハと離れたくない。


そう願うと、もう一人の男がヒロキの腕を掴んだ。よかった、少なくともザハと一緒に行動出来そうだ。半ば引っ張られるように扉を出た。

扉の先は薄暗い廊下で、石の壁には苔が生え、湿った匂いが鼻をついた。

すぐ近くの鉄格子付きの部屋に入れられた。

二人の男の去り際に、魔法をかけておく。


――鍵を手に入れたい。


と、その瞬間、男がポケットに鍵を入れ損ね、鍵が床に滑り落ちたが、男は気が付かずそのまま去っていった。


ザハと目をあわせ、鉄格子の隙間から手を伸ばして必死に鍵を取り寄せる。

鍵を手に入れたところで出ていったら誰かにみつかってしまう可能性がある。かといって、ここで待っていたら鍵がないことに気づいた男が戻ってくるかもしれない。


とりあえず部屋から出ることにした。

みつからないとありがたいが。


と、その矢先に廊下のさっき来た側から男が戻ってくるのが見えた。

しまった。魔法で――みつからないように、と願っておけばよかった。


咄嗟に二人で男とは反対の方向へ走って逃げる。

後ろから男が魔法を撃ってくる。魔法が使えるのはやはり俺だけじゃないのか。

ザハはどんな魔法が使えるのか聞いておけばよかった。いや、料理人と言っていたし、案外調理魔法とかしか使えないからあの部屋に捕まっていたし、俺にもどんな魔法が使えるか言ってこなかったのかもしれない。


ザハがうめき声をあげる。ザハの走るスピードが遅くなる。魔法がザハの足を掠ったようだ。


――ザハの足に回復魔法を!


ザハの走るスピードが元に戻る。


魔法弾が着弾し、目の前の壁に穴が開く。

というか、もしかして俺にも攻撃魔法が使えるんじゃないのか?

攻撃魔法を使うならどんな魔法だ?

山羊座のエレメントは土だ。だから魔法の属性を選べるMMOでは大抵大地の属性を選んでいた。

やはり大地の魔法の方がイメージしやすいだろう。


「大地の精霊よ俺に力を! 隕石よ、落ちろ!」

おっと、声に出てしまった。


その瞬間、轟音と共に俺達は前に吹き飛んだ。

隕石の威力を間違えてしまったらしい。


俺は、また意識を失った。


=======================================


目覚めた俺は、記者会見を受けてることになった。

異世界メディアの魔法記者団、というわけではなく、NHKはじめ、見慣れた大手メディアが手を挙げて質問をしてきた。


そう、異世界からの帰還者として、記者会見を受けている、というわけでもない。


俺は、実は異世界に転生しているのではなかった。ニュースでやっていた、海外の特殊詐欺グループに拉致され、海外まで運ばれていたらしい。

俺を跳ね飛ばした軽自動車も特殊詐欺グループのものだった。適当な人員を拉致し、脅して特殊詐欺に加担させていたそうだ。

この特殊詐欺グループはどこかの古い建物を占拠し、原住民を武力で脅して協力させていたそうだ。


記者会見は、ザハも一緒に受けていた。

ザハはコートジボワール人と日本人のハーフらしい。生まれてからずっと日本に住んでいて、日本語しか喋れず、顔と名前に似合わず日本人だ。俺のジャージに入った名前を見て、日本人と思い、日本語で話しかけてきたそうだ。道理で言葉が理解できたわけだ。


ちなみに、隕石の魔法はどこかの軍の空爆だった。膨れ上がる詐欺グループの被害に業を煮やし、空爆に踏み切ったらしい。危ない。一歩間違ったら俺達も巻き込まれていた。


脱出して以降、ザハは俺によそよそしい。すっかり中二病の気持ちの悪いやつだと思われてしまったようだ。

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