加速する鼓動
燃えた尽きた村の真ん中に少女が佇む
「杖さん、名前決めたよ」
杖はそこにいた
村が燃える前も今も、私のそばでずっと立ってた
「オリミア」
杖、いやオリミアが今までにない悍ましい顔で私の前に跪く
「喜んで授かりましょう」
「では、オリミアくん最初の課題だが…」
「これから、どうする?」
現在早朝、目の前には昨日のテンションで壊した、灰と化した家や人間。
人って1日でここまで人格が変わるんですねぇ。
「とりあえず、ここから半日歩いた近場に都市がある。そこに行ってみるのは?」
「よし、その案採用!」
今後の方針は決まった。
「とりあえず、今日は荷造りと私の昨日やったこと、それとオリミアの杖としての力とかを理解しておきたい」
「わかったよ。我が主」
「シュナでいいよ。むず痒い」
「じゃあ俺も、ミア?でいいよ」
ミアは笑った。優しく、ねっちょりと
この粘着感は慣れなさそうだ
家に戻り荷造りを始めた。
財布に、本に、予備の服にと、バッグに詰めていたら止められた。森で夜は越さずに都市につくから、必要なものは向こうで揃えるみたい、とりあえず財布と着替えだけでいいらしい。
あと、机の上にあった、腕くらいの大きさの短杖は持ってけと言われた。
魔力の安定とかなんとかで、特別な杖らしい。とりあえずローブのポケットにそれっぽい場所があったので入れといた。
オリミアは村の燃え尽きた家屋からお金を拾ってきた。
まぁ、みんな死んでるし有効活用だと思っておこう。合計が金貨13銀貨20銅貨48となんかいっぱいあった。
お金の価値はよくわかってないのでそこらへんはオリミアに任せようと思う。
荷造りがひと段落終わった。
まだ昼にもなっておらず、外は明るい。
お腹が空いていたのでパン屋だったものから、土汚れたパンを食べていた。あまり美味しくないが、ないよりかは全然マシだ
「で、シュナ。昨日の炎はどうやって出したんだ?」
「...よく覚えていない。心のままに従ったらああなってた」
「そうか、とりあえず俺の紹介をしておく」
「俺は魔女の杖、名前はオリミア」
「…それで?」
「それ以上は、ない...」
・・・
情報整理すらできない
「そういえば、前の持ち主は私の魔力を引き出すようなことをしてた。気がする」
魔力を引き出す?そもそも魔力って何?
「オリミア、魔力ってなに?」
「魔法の行使に必要なもの…みたいな認識」
「試しになんかやってみれば?」
「どんな風に?」
「自分のやりたいことをイメージしてみたら行使できるって言ってた。」
「おっけ、とりあえず炎とか出してみる」
言ってみたが正直よくわかってない、目を瞑り、想像する
イメージ?炎?蝋燭?キャンプファイアー?
いや、村を滅した破滅の炎。繊細に、明確に
もっと自分を内側から満たしてくれる炎
目を開けると自分を中心に炎が渦を巻いている。
邪魔者から自分を守る。昨日見た炎。
ローブの内側のポケットから、短杖を取り出し。目の前の崩落した家に狙いを定める。
周囲を旋回していた炎は短杖の前に集まり指示を待つ
村を滅ぼした時の炎を鮮明に想像する
想像を重ね、明確にしていく。
村人の最後の悲鳴、建造物の破壊、関係の破綻
想えば、想うほど、気持ちが昂る。ワクワクする。
目の前に集まった炎は槍を形成し、目の前の瓦礫を木っ端微塵に破壊した。
「できた」
オリミアの拍手が聞こえる
「おめでと。だけど来客が来たらしい。」
村の周りを見てみたが、特に森しか見えない
「とりあえず茂みに隠れて、入り口に待機しとき」
オリミアがにやけながら言った。
私はオリミアの言った通りに村の入り口に隠れて待機した
オリミアは村のど真ん中で立っている。
そこまで大きくもないし、更地になってる分、ここからでも見える。
数分後に、一つの小さな馬車が来た。
そこそこの荷物を抱えており。
乗員は5名
そこの馬車から、一人の女性が声を発しながらオリミアに近づく、ここからは何を言っているかわかんないが女性の方はかなり荒れている。
馬車からもう二人ほど女性に続き村へと進む。
5人。ミアが囮になってくれてる分、このままだと危ない、かもしれない。
殺す?一つの考えが自分の頭をよぎる…
本能が肯定し、理性が否定する。
だが理性の否定も虚しく、先程の高揚感が重なり、本能が勝る。
茂みに隠れている間。よりイメージを強固にしていく
さっき得た高揚感はまだ続いている。殺れる
私は自分を滅ぼした。
自然と笑みが溢れる。迷いは晴れた。
フードを被り、勢いよく茂みから出た瞬間、短杖を横に一振りしながら馬車に向かって走る。
杖を振った場所から炎の槍が形成される。合計三
御者はまだ気づいてない
馬は二匹いる。馬に二発、御者に一発。
爆音が鳴り響き、土煙と同時に、悲鳴が上がる。
残り乗員一名、フードを被り直し、土煙の中で炎の槍を形成。
二発を馬車の外から重ねて打つ。
馬車の爆音に村にいる三人が気付いた。
炎の槍を再び形成、一発だけ打ち。
茂みに隠れ、一時的に戦線を離脱した。
馬車にいた二人は、多分殺した。
あとは剣を持ってる二人とミアに近くの一人。
幸い、剣は二人しか持っておらず、ミアとも距離がそこそこある。
二人は警戒してるお互いに背中を合わせ、
私を殺そうとしてる。
昨日感じたワクワクとも違う感情。
背中が震え、気持ち悪いような、心地いいような感覚が全身を駆け巡る。
殺戮とはまた違う。命を交差し、燃やす行為
私の本能はあの二人に向きっぱなしだった。
イメージを固めることなく、茂みから全速力で彼らに向かう
感情に任せ、短杖を振るう。
さっきとは違う、壊すような燃え盛る炎じゃない
人を傷つけるような濁った炎
彼らがいる真下の地面に打ち込み、砂煙が舞う。
「ひとりめ」
ガタイの良い男に近づき、杖を振るう
こちらに気付き剣を向けるがもう遅い。
炎が近づき、彼の顔がよく見える。私を捉え、最後まで覚悟を決めた鋭い目つき。
そんな彼の胸を、炎の槍が貫いた。
吹き飛ばされた彼はどんな顔をして死んでいるのだろうか
そんな余韻をもう一人の男の剣が突き破る。
力強く、速く、無駄のない剣。焦りが見えてる、叫んでいる、怒っている。だが、
「覚悟はない...」
彼の剣を紙一重で避け、隙を見て一気に目の前に近づく。
彼は一瞬だけ止まった。しかし状況を理解し、首を目掛けて剣を振るう。
私はその剣致命的な一撃を、片手で押さえた。
異様な化け物を見るような目でこちらを見る
その目に、表情に、口元が緩んだ
「ふたりめ」
少しうわずった声で、杖を振るう
彼の体内から炎が吹き出し、絶望した表情ごと燃やし尽くした。
あと一人
私は死体を後にした。