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前日譚 9話

 前回のあらすじ。

 俺は朝風に当たりに外へ出ると、扉のすぐそばで見知らぬ少女が寝ていたのだった。

 

「誰だお前!」

 

 そんな犬のように威嚇しなくても。それに俺だって君が誰か知りたい。閉めていいのなら扉を閉めて引きこももりたいよ。

 

「なんでここにいる。お前髪が黒いなこの辺の人間ではないな! 黒い髪ということは、まさか……」

 

 まさか異世界人ニジアケシのことを知っているのか⁉︎

 俺はゴクリと生唾を呑んだ。

 

「旅人なのか! そうだろ!」

 

 ……ごめん。全然違う。その勘違いはありがたいけど、全然違う。

 でも、異世界人ってバレない方がいいんだよな。ここは頷いておこう。

 

「ま、まあ……」

 

 そう言えば俺嘘下手だった……どうしよう……嘘つき続けるしかないけど、どこかでボロを出しそうだ。

 

「すごい! ねえねえ、どこから来たの! 名前は! どうやってここまで来たの! 魔物とかどうしていたの!」

 

 何この子。コミュ力高すぎない⁉︎ 初対面だよね⁉︎ 眩しすぎて俺がチリになりそうだ。

 彼女から感じていた光はどうやら朝日だったようで、こっちの世界の朝日は元いた世界に比べて随分と眩しいようだ。

 もう1度寝ようかな。日光に当たるの久しぶりすぎて頭がクラクラするや。

 

「ねえ、私の話聞いているの!」

 

 あ、ごめん。何も聞いていなかった。てか質問に答えるのまあまあ嫌だな。よし、ここは一旦中に誘導して、俺はキッチンにでも消えよう。何も料理はできないけど。水くらいなら出せるか。

 

「と、とりあえず中に……」

 

「そうね! 話はじっくり聞きたいもんね!」

 

 追い出すの今からでも遅くないだろうか。話とは尋問のことではなかろうか。

 言ってしまった手前追い出すことなんてできずに、小屋の中に招き入れて、リビングに座らせて俺はキッチンに消えた。それでもなお、少女は大きな声を出して俺に話しかける。

 

「どうしてこんなところで生活しているの? 村の中にはいればいいのに」

 

 その村の村長に嫌がられて追いやられたんだよ。でなければ、もっといい家に住んでいるよ。金はないけど。

 

「ま、まあ、ちょ、ちょっと事情があって……」

 

 全面的に村長の事情だけど。

 

「へえーそうなんだ。大変だね」

 

 ああ大変だとも。君が話しかけてくるのが何より。

 水魔法を使ってコップに水を入れていると、さっきまで執拗に話しかけていた少女が無言になっていた。少し気になって、コップに水も入ったことだし持って行こうとすると、リナさんが少女を睨むような目で見ていた。そんなリナさんを見て俺は咄嗟にしゃがんで隠れた。

 

「ミア。なんでここにいるの」

 

「それはこっちのセリフ。リナこそなんでこんなところにいるの。ここは村長が作った魔物避けの安全圏セーフハウスだよ。余程のことがない限り、宿泊してはいけないんだよ」

 

 そんなルールあんの⁉︎ そういうことはもっと事前に教えてよ。ベンさんだって何も言ってなかったじゃないか。

 

「たまたま夜が遅くなってしまったから、泊まっただけよ。別にやましいことなんてしてないわ」

 

「本当かな。見知らぬ男連れ込んでいるみたいだし、何かあったんじゃないのかな?」

 

 ……それ俺のいないところで話してもらえません? たちそうなので。

 

「本当に何もなかったから。ミアこそ、どうしてこんな朝早くに小屋に来たの?」

 

 心に刺さるから強い言葉で言わないで。

 

「私は単に、朝早くに薬草取りに行っていただけだよ。家のこともあるしね。リナと違って遊んでいる暇なんてないから」

 

「わ、私だって! 遊んでなんかいない!」

 

 俺上げてはいけない人を上げてしまったかのかも。絶対仲良い雰囲気じゃないあの2人。犬猿の仲じゃん。止めるにも何も関係ない俺が止めることは難しいだろうし、どうしよう。でも、あのミアとかいう子を小屋の中に入れてしまった責任は俺にある。

 よし! しばらく傍観していよう。

 だって怖いんだもん。女同士の言い争いに男が入っても碌なことが起きないから。それはわかりきっているから。

 中学生の時も不良の女同士の争いがあって、不良の男子めっちゃ集まっていたのに、誰も何もできていなかった。なんてこともあった。男の力ってそれくらい弱いんだ。今俺が入って行ったところで、「邪魔」「はい」で終わる。うん。正座しながら聞いていようか。

 

「はいはい。遊んでいる人もみんなそう言うから。自分は仕事していますって。その仕事が何になるっているんだ? なんの役にも立ってないだろ。リナは大人しく仕立て屋をしていればいいんだよ。それなのになんでわざわざ村の外に出たがるのかな」


 耳が痛い……地味に俺に攻撃するのやめてくれない。

 

「ミアには関係ないでしょ……」

 

「関係ない⁉︎ 同じ村の仲間なのに⁉︎ リナがそうやってみんなに隠し事しているから悪いんでしょ⁉︎ 10年前のことだって、犯人はリナだったんでしょ? 私見たんだから」

 

 ……そこまで言われて黙って見ているなんてカッコ悪いよ。リナさんの事情も何も知らないくせに好き勝手言って。話せない事情だってあるのに、それを見つけると勝ち誇ったかのように攻撃を仕掛ける。……俺も前の世界では責められる側だった。好きなことを好きだと言えない立場だった。俺は特別なんだって思いながらも、周りの人間と比べて劣化品って意味の特別なんだって気がついていた。でも、そうでもしないと、心がもたなかった。嫌なことの上書きができなかった。何度も見た、人を、同級生を殺す悪夢を。悪夢を見てしまったことよりも、俺自身が現実でそうしてしまいそうだったこことの方が怖かった。どこの店に行っても刃物や鈍器が置いてあったら、それを思い出して、本当にやってみようかな。って少しでも思った自分が怖かった。リナさんには俺と同じ思いはしてほしくはない。もうすでに経験しているのかもしれないけど、このまま同じ状態が続けば結末がどうなるのか知っている。それで友人を1人なくしているんだ。友人と言ってもネットの繋がりだけだったけどな。でもな、もし同じ学校だったなら親友になれていたんじゃないかって今でも思っている。

 俺のことはいいから今はリナさんのことをどうにかしないとだな。

 どこの世界にいても同じことはあるんだ。似たような人はいるんだな。世界ってなんだかんだ繋がっているんだな。

 隠れていた俺は、リナさんとミアと名乗る人の前に姿を晒した。ミアという人にこれ以上リナさんの悪口を言ってもわないために。

 具体的な策は何もない。行き当たりばったりでなんとかしよう! コミュ障には難しいけど。

 俺がリナさんとミアさんに話しかけようと「あ」くらいを言った途端にリナさんは声を荒らげた。その瞬間に俺の脳内で、青、紫、赤の順番に色が思い浮かんだ。

 なんだ今の気持ち悪い。

 

「うるさい! お前に何がわかる! ただ呑気に暮らしているお前と私を同じように語るな! お前には私の努力が見えていないんだろ! 私だってお前の努力なんて知らないよ! ただのミルク屋が! モウの乳を搾るだけのミルク屋に言われたくないよ!」

 

 リナさんは強い人だ。俺が思っている以上に。俺にもリナさんくらい言える勇気があったらな。今と違う人生を歩めていたんだろうか。まあ、もう死んで異世界にきてしまっているけど。

 

「ちゃんと言えるじゃん。リナ」

 

「……え?」

 

 え、何この。序盤はめっちゃ悪役なのに、終盤で味方になる敵役みたいなの。展開早すぎない? もうちょっと悪役演じた方がよくない? そうしないと物語が持たないよ。

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