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前日譚 8話

 この家はほぼほぼワンルームのようなもの。だから、壁が薄い! リナさんはシャワー浴びている音めっちゃ聞こえているんですけど! こんなのどうしろって言うんだよ! 誰でもいいから俺にティッシュをくれ!

 落ち着け俺……余計なことを考えるな。平常心……平常心……深呼吸……深呼吸……だめだ! 耳を澄ませばシャワーの音しか聞こえない! 

 こんな時は別のことに集中するんだ。別のこと、別のこと……待って、俺手ぶらでこの世界に来たのだった! 何もすることないや!

 はっ! こんな時こそ、ペルネに話を聞くべきじゃないか! 暇な時間がないとペルネの話全部聞けないから。

 ヘイペルネ。ペルネの解説画面に表示できない?

 訊きかたわかんね。言葉むず!

 

(では、画面表示を行います)

 

 え⁉︎ で、できるの⁉︎ ついに異世界転生っぽくなってきたな。

 ペルネは俺の期待をまるっきり裏切った。

 

(どうでしょうか。見えていますか?)

 

 ……あ、あの……何も見えていないのですが……。

 あ、そうか……ペルネは話しかけないと応えてくれないんだった。

 ヘイペルネ。何も見えてないんだけど。

 

(おかしいですね。私には見えてます)

 

 いや。俺に見えないと意味ないでしょ。何自分だけ便利なものを導入しているの。てか、ペルネ自身の画面表示って何? ペルネは何を見ているの?

 ……よし! 切り替えて別のことを訊いてみよう!

 この世界のことは少し訊いたから、魔物とかユニオンだっけ? それについて訊いてみよう。あ、あと魔法も。意外と女神が最後にくれた何かを知っているかもしれないな。よし、それから訊いてみようか。

 ヘイペルネ。女神が最後にくれたものって何?

 

(女神ペルネ・ゲッティン様がくださったのは、人や魔物、生物全体の感情を色覚で見分けられるスキルです。スキル名は感情色覚カラーイモーション。常時発動可能でMPも使用しません。発動しますか?)

 

 いや、スキル認可制なんかい。あんな無理やり与えられたのに、発動してなかったとか、信じられへんわ。そんなのもちろんイエスだろ。

 

(………………)

 

 こいつそうだった。いちいち話しかけないといけないんだった。というか、そっちからのあ疑問形なんだから、こっちから話しかけなくてもいいようにしてよ。不便なこと多すぎるよ。

 ヘイペルネ。カラーイモーションってやつ常時発動して。

 

(わかりました。では発動します)

 

 ペルネが言った瞬間、俺の目にはゴミが入ったかのような違和感があって目を閉じた。数回目を掻いてから目を開けると……何も起きていなかった。

 さっきまでと何も視界変わらないんですけど。何がどう変化したの? あ、そうか! 生物の感情が見えるようになるってことだから……え、待って……今試せるのリナさんしかいないの? 待って! 待って! それだけは無理! いきなりリナさんは難易度高すぎだって! だってもし、リナさんの俺に対する感情が友人以下のものだったら……そんなの見てしまったら自害するって! 安易に発動させるんじゃなかった! リナさんが出てくる前になんとかしないと。リナさんの感情だけは見たくない。いや、見たいけど。めっちゃ見たいけど……今は見たくない! 

 ガチャ

 と扉が開く音が鳴って、風呂場からリナさんが顔を出した。

 

「はあ〜さっぱりした。どうしたのアユム?」

 

「……なんでもないです」

 

「なんで背中を向けて立っているの?」

 

「き、気にしないでください」

 

 これ以上追及しないでください。人の感情がどうやって見えるのかとか発動条件も何も訊いていないから、リナさんを見れない。だって、姿を見たら感情が見える可能性だってあるじゃんか。リナさんの感情なんて見たいけど見たくないんだよ。

 

「アユムもお風呂どうぞ。って使い方わからないよね。教えてあげるからついてきて」

 

 あ、これ、絶対に目を合わせないといけないやつだ。

 観念した僕はおとなしくリナさんについて行った。

 

「お風呂について説明するからよく聞いててね」

 

 ははっ。今はそれどころじゃなく緊張しているので記憶に残るかどうか怪しいです。

 

「ここにある赤い魔法石を上に掛けてある樽の中に入れて、破壊するの。そしたら樽の穴から暖かい水が出てくるから、それで頭とか体を洗って。水は余っても捨てるしかないから残さないでね」

 

 そうか水は捨てるしかないのか。その水があれば世界の子供を救えるかもしれないのに。それは前の世界の話か。

 

「身体はこの石鹸を使って、頭はこの粉を使って」

 

 この世界にも固形石鹸というものがあるのか。なんか親近感。それにしても、真っ黒な粉で頭を洗うとは斬新だな。この粉なんなんだろうか。匂いは……あ、これ炭だ。粉々にしたやつか。なんにせよ粉シャンプーは初体験だ。どんなのだろうか。想像もできないや。

 

「全部洗い終わったら今度は、箱にこっちの緑の魔法石を入れて。風と火の魔法石だから暖かい風が出て身体を乾かしてくれるから」

 

 人間ドライヤーか。いいなそれ。バスタオルで拭かなくていいと楽だな。いいな魔法。

 

「一通り説明したけど大丈夫?」

 

 ……ごめんなさい。全然聞いていなかったのでまた1から説明して欲しいです。なんて言えない! リナさんに殴られるわ! ま、まあ、とりあえず石を樽に入れて、お湯を作ればいいってことだろ。終わったらまた石を入れて風を出せばいいんだろ。うん。大丈夫。

 

「だ、多分、大丈夫です……」

 

「そっ。じゃあ、ごゆっくりね」

 

 リナさんはお風呂場を後にした。

 え? 待って。服どこで脱ぐの?

 時すでに遅く、リナさんの姿はなかった。

 仕方ない箱の中に入れておこう。

 そんで、えーっと……赤い魔法石を樽の中に入れる。

 樽の中に赤い魔法石を放り投げたが、何も起きなかった。

 ……お湯でないんですけど⁉︎ 魔法石を入れたら出るんじゃないの⁉︎ 何も起きてないんだけど⁉︎ 仕方ない自分で作るしかないか。でも、俺の魔法クソしょぼだし。お湯を作っていれば何時間かかるか。はあー。水でいいか。プールを思い出して。

 

水球ウォーターボール

 

 俺が想像していたよりもはるかに大きな、大きめのバランスボールくらいの水球ウォーターボールが指先に宿った。

 

「へっ?」

 

 樽に向かって放ったら、辺り一面が水浸しになってしまった。

 冷たっ! なんで急にこんな大量の水が……今までビー玉だったのに。まだ1日も経ってなくて、レベルアップできるような魔物も1匹も倒してないのに、威力が上がるっておかしくね。鮭2匹だぞ。それよりもここが浴室でよかった。もし、小屋のリビングでしていたならば、大事件だった。リナさんにめっちゃ怒られるところだった。危ねえ……。本当なんで急にこんなことになったんだ。あ、そうか。わからないことがあればペルネ使えばいいんだ。

 ヘイペルネ。なんで急に水球ウォーターボールが大きくなったの?

 

(この世界の魔法では意識を重んじる傾向にあり、無意識下で大きなものを想像したことが起因したと考えられます)

 

 なるほど。水球ウォーターボールを放つ前に俺がプールを想像してしまったから、めっちゃ大きな水球になってしまったってことか。

 それにしては小さすぎないか。だから今までも、アニメで見たような水球ウォーターボールを想像してしまっていたからビー玉サイズになってしまっていたということか。割とプールでいいサイズだな。これから何かを放つときはプールを想像しよう。そしたら水球ウォーターボールだけはデカくなるぞ。

 俺が水球ウォーターボールを樽に放ったせいなのか、めっちゃぬるいお湯が出ていた。その間にソッコーで頭と体を洗ってお風呂を終えた。

 終わったら確か、緑の魔法石で風を起こすんだっけ。さっきのお湯が不発に終わったのに、どうしようか。身体を拭くものがないからやらないわけにはいかないし。自分の魔法でどうにかできるものでもないし……一応やってみるか。

 想像するのは扇風機。それもただの扇風機じゃない。テレビで見るような強風を起こせる扇風機。これでちょうどいい風になると思う……どうやってあの箱の中に風入れるの⁉︎ か、風を起こして……いや面倒だ。手から直接だしてドライヤーのように身体に浴びせよう。ああ、めっちゃ地味だ。そして遅い。俺の想像している扇風機より大きなものってあるか? これが俺の風魔法の限界か。

 台風とか想像しても強風は出そうだけど、自然災害を想像するのは何が起こるかわからないからよしておこう。これは何かあった時の最終兵器だ。

 よし、なんとか乾いたな。結構時間かかってしまったけど、大丈夫だったかな。リナさんを結構待たせてしまったかな。

 

「長かったね。お風呂上がりに一杯どう?」

 

 チャチャでなければいただきます。

 

「ただのミルクだよ」

 

 リナさんが差し出しているコップを取って、口をつけた。

 ……思っている牛乳ではないけど、悪くはない味だ。ここの食べ物全般的にえぐみがすごいな。これ以上のものは食べられないかもしれない。

 ミルクを飲み終えると、リナさんはリビングに横になって薄い布団を肩まで掛けた。

 

「私ここで寝るから、アユムはベッド使って」

 

 そんな硬そうなところで寝られて悠長にベッドで寝られるか。俺はそんなに薄情なやつではないぞ。一応前の世界ではレディファーストって言葉があったんだから、ここで寝るのは俺だ。

 

「リ、リナさんがベッド使ってください……」

 

「ありがとう。でも大丈夫だから。私、外で寝る時はいつもこんな感じだから、慣れているの」

 

 慣れで言ったら俺の方が絶対に慣れている。今までずっと畳の部屋で寝てきたから。ベッドを使ったのだって修学旅行くらいしかない。

 

「お、俺もずっと床で寝てきたから……俺がここで寝ます。か、硬い方が好きなので……」

 

「アユムって変ね」

 

 硬い床の方が好きなの割とマジなんだけど。この世界では変人になるのか。

 

「あろがとう。じゃあ、ありがたくベッド使わせてもらうわね」

 

 リナさんはあ部屋の奥へと移動した。

 リナさんと一つ屋根の下とか心臓がもたないんですけど。この場所もさっきまでリナさんが横になっていた場所だって思うと……ダメだ眠れん! 誰かティッシュをくれ!

 あれは一種の睡眠薬みたいなものだったから、やらないと眠れないな。

 そんなことを思っていたが、気がつけば眠っていた。朝、日が出る前に目が覚めて寝ていたことに気がついた。

 リナさんまだ寝ているな。まだ薄明るいくらいだから、元の世界で言うと6時とかその辺の時間だろう。寝るのが早かったからそんな時間に起きてしまったのか。

 リナさんはまだ寝ているし、起こさないように外にでも行こうか。新鮮な空気も吸いたいし。

 扉を開けると、見知らぬ少女がそこには横たわっていた。

 え……死んでる⁉︎ ど、どうしよう⁉︎

 俺があたふたとしていると、少女は体を起こして、目を擦った。合わせて大きな欠伸をして、両手を上に挙げてノビをしていた。

 よかった死んでなかった……。

 少女は俺と目が合うなりこう言った。

 

「だ、だれ?」

 

 ごめん。それ俺のセリフ。勝手に取らないでもらえるかな。

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