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前日譚 6話

 鮭を干している途中であったが、日も沈み始めていたこともありベンは村に帰って行った。リサさんはやりたいことがあるらしくまだここに残るようだ。

 また2人きりになってしまった。なんでベンと一緒に帰ってくれないかな。せっかく1人の時間を過ごせると思ったのに。まあリナさんとの時間を愉しめるのも悪くはないけど……ドキドキしすぎて何もできないんだよ! ベンが帰って無言になってから結構経つけど、俺から何か言うのを待っているんだよな。わかる。俺も何か言って欲しいから。質問だったらなんでも答えるのに。あ! こんな時こそ、ペルネを活用するときか! 

 ヘイペルネ。女の子とのデートで盛り上がる話題は?

 

(すみません。何言っているのかよくわかりません)

 

 おい! ペルネ! お前とんだ欠陥品だな! なんでもいいから話題をくれ。そしていちいち話しかけなくても答えてくれ。最近のAIはもう少し進化しているのだから。

 ……こう言うのはよしておこう。せっかく女神が俺をこの世界に飛ばしてくれたのだから。いない相手の悪口は女神の機嫌を損ねる原因になりそうだから。女神が機嫌を損ねたら何をされるのかわかったもんじゃないから。何も言わず大人しくしておこう。それよりも……今は現状をどうするのかだけを考えよう。コミュ障だからと言って無言が得意ってことではないからな。俺はむしろ苦手だ。特に面接のような1対1の場面は。

 不意にリナさんの方を見ると、リナさんは天井を見ながらぼーっとしていた。

 若干口を開けている姿もかわいいっって、そうじゃない! 何か……何か言わないと。

 俺は声を絞り出した。蚊の泣くような小さく細い声を。

 

「リ、リナさんのこと……お、教えて欲しいです……この村について……」

 

「え?」

 

「ごめんなさい。なんでもないです……」

 

 ……完全に言葉間違えた。正しい言葉ってなんだよ! 言葉難しすぎな! もう……リナさんの顔なんか見れない。恥ずかしい!

 俺は両手を使って顔を隠した。合わせてリナさんのいない方向に顔を向けた。

 視界を完全に閉ざしていたけど、リナさんが立ち上がった音だけは聞こえていた。そして歩く足音も。

 

「ねえ、アユム」

 

 声がさっきまでと違って近い。それにものすごく近くに気配を感じる。

 

「顔、隠さないで。私にちゃんと見せて」

 

 あ、ああ、こ、これは……目の前にいる……。め、目の前に…、リナさんがいる⁉︎ 何これ……何このラブコメみたいなの……そんなこと言われたら嫌でも意識してしまうじゃんか。リ、リナさん……い、今どんな顔をしているんだろうか……見たいけど、恥ずかしいから手のけられない。

 痺れを切らしたのか、リナさんは俺の手を掴んでゆっくりと俺の顔から離していった。

 ……あ、リナさんの顔が目の前に……。

 恥ずかしくて俺は目があった瞬間に目を逸らした。

 

「ちゃんと目を見て」

 

 ごめんさい! 目を見るのはコミュ障が1番できないことです! はい。

 

「私のこと聞きたいって言ったのはアユムでしょ? 聞くの聞かないの?」

 

 あれ、なんかちょっと不機嫌。これはやばい。さらに道を間違うわけにはいかない。

 

「き、聞きたい! です……」

 

 徐々に小さくなる俺の声。それでもリナさんは笑顔を作った。

 

「わかった。隣座るよ」

 

「は、はい……」

 

 リナさんは俺の隣に腰掛けた。それも、肩がぶつかるくらいの近さ。

 リ、リナさん……それは近すぎやしませんか⁉︎ それはコミュ障が固まる距離ですぜ。

 多分今の俺は、その辺に転がっている石よりも動いていないと思う。

 隣にリナさんがいるから体はおろか、顔さえも動かしづらく、俺は何もない壁をずっと見つめていた。

 

「アユムこれ見て」

 

 リナさんに言われて顔を向けると、リナさんは俺に鎖骨を見せびらかしながら、服の中にしまっていた銀色のプレートを見せびらかした。

 俺はそれを直視はできなかった。だって、リナさんの鎖骨が見えているから。

 

「アユム! 目を逸らさないでちゃんと見て!」

 

 そんなこと言われたって見れませんって! リナさんは気にしてないのかもしれませんけど、俺は気にするので! 結婚を決めた相手じゃない限り、そんなことはできませんので!

 顔を逸らした俺の前にリナさんは銀のタグを見せびらかした。

 

「私、討伐者スレイヤーしているの……このことを村で知っているのはベンと村長だけ。あと、アユムも……」

 

 確かにリナさんのことを教えて欲しいと言ったけど、秘密を教えてくれとは言ってない。そんな重大なことを今この場で発表しないでよ。ベンと村長しか知らないリナさんのことを知れたのは嬉しいけど、重いって。そんな秘密俺に背負わせないで。あと、スレイヤーってなんすか? 確か、前の世界でもそんな異世界小説があったような。どんな意味だったか思い出せないから、そこんところも詳しくお願いします。

 と言いたいが、そんな長文を言えるわけもなく。

 

「ど、どうして、秘密にしているの?」

 

 それと、スレイヤーについて教えて。

 リナさんは困ったような顔を浮かべた。

 

「……コルス村では、女が探連プロユニに参加したらダメなの。でも、お父さんをずっと近くで見ていたから諦めきれなくてね。村長に無理を言って、認めてもらったの」

 

 へえーそうなんだ……それよりも、もっと難しい言葉出さないでもらえるかな。プロユニって何? プロユニットか何か? そもそもプロユニットって何? スレイヤーについてもまだ何もわかっていないのに、全然話についていけない。

 

「それからたまに討伐に出かけて、薬草を取ったり魔物を狩ったりしているの。ちゃんと村長さんの許可は取ってね」

 

 ごめん。話についていけないからなんてコメントしていいやわかんないや。とりあえず笑いながら頷いておこう。

 

「もうかれこれ10年くらいになるの」

 

 そんな長いこと続けているの⁉︎ 待って、リナさん何歳? 実は結構歳いってる? 見た目若そうだけど⁉︎ これだから女の人は怖い。

 

「それでいてまだ討伐者スレイヤーをしているなんて、私もまだまだだな。父さんはすごかったのに……。ごめんね辛気臭い話して」

 

 大丈夫。もうすでに頭パンクしそうだから。

 

「そうだ!」

 

 リナさんは何かを閃いたのか。手を打った。

 

「アユムも狩人ハンターやらない?」

 

「え⁉︎」

 

 その前にスレイヤーとかハンターとかそっちの意味を教えて。

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