第95話 春休み前のお出かけ
試験が終わり、暫くして。殆ど授業もなくなっていき、後は春休みを待つだけとなっていた。その日の授業が午前の早いうちに終わったので、降助は皆と一緒に商店街に出かけていた。
「もうすぐ春休みだけど、またいつも通りスタトの館に帰るのかい?」
「かな〜、特にこっちでやる事も無いし。」
「あ、私も一緒に行っても良い?」
「うん?全然良いけど、どうして?」
「特に深い意味は無いよー。ただ、またクーアちゃん達と会いたいなーとか、そんな感じ。」
「そっか。きっと皆も喜ぶよ。」
「……仲良くお話中のところ悪いけど、なんであたしまであんたらと出かけてんのよ?」
降助とクレイの会話を遮ったのはリリィだった。「嫌々ついてきたように見えて、しっかりおしゃれはしてきているんだね」と降助は思ったが、決して口には出さないよう、必死に飲み込んだ。
「いい機会だと思って誘ってみたんだけど、嫌だった?」
「別に嫌ではないわよ。ただそんな仲だったかなって思っただけ。それにしても、コウスケだけじゃなくてあんたらも物好きね。こんなあたしと一緒に出かけて楽しいの?」
「うん?まあ、ワイワイしてて僕は良いと思うよ。」
「オレは別にそういうのは気にし―うぐっ!」
「ここは楽しいって言っときなさいっ!あ、私も勿論楽しいよ!」
「ね?」
「ふーん。平民らしいお気楽さね。ま、あんたらが良いならあたしも気にしないけど。」
「あ、あっちに美味しそうなスイーツ屋さんがあるよ!行こう行こう!」
「良いね。丁度小腹が空いてたし行こっか。」
一行は店に入り、早速スイーツを注文する。少しして、それぞれに美味しそうなスイーツが運ばれてきた。
「あ、それ期間限定の特濃クリームとフルーツのケーキ?」
「うん。ひと口食べる?」
「欲しい!じゃあ…あーんさせて♡」
「えっ!?あ、あーん…?」
「ん。ほら、早く〜」
クレイは口を開けて降助のあーんを待っており、あまり待たせるのも良くないと思った降助は、恥ずかしがりながらもフォークでフルーツの部分と一緒にケーキを取り、クレイの口元に運ぶ。
「あ、あーん……」
「あーんっ!う〜ん!甘くて美味しい〜!」
「そ、それなら良かったけど……」
「すみません店員さん、ブラックコーヒーください。とびっきりの深煎りで。」
「僕も頼むよ」「オレも」「私も」
「あ、私のチョコレートパフェもあげるね。はい、あーん!」
「お、俺もやるの…!?あーん……あ、美味しい。程良い苦味がホイップの甘さに合うね。」
「ケプッ…ねえガーヴ、私マカロン1個でお腹いっぱいになっちゃった。残り食べない?」
「悪いなミレナ、オレはサンドイッチで腹いっぱいなんだよ」
「カイト─」
「ごめん、僕もタルトで結構きちゃったんだ。」
「リリ─」
「嫌よ。」
「即答!!」
その日、特定の時間帯だけブラックコーヒーが飛ぶように売れたとか……
「はーあ、突然買い物に誘われたかと思ったら目の前でイチャコラ見せつけられるなんて思いも寄らなかったわ。」
「ご、ごめん……」
「私達、そういうイベントに飢えてて……」(何せ、元出会いナシ、色恋沙汰?何それ美味しいの状態の社畜OLだったからね!)
「次は何を買いに行く?私はお洋服見に行きたいんだけど……」
「は?オマエどんだけ服買うんだよ……この前もなんか買ってなかったか?」
「うーるーさーいーなあ!ガーヴは!女の子はおしゃれしてないと死ぬ生き物なの!」
「流石にそれは盛ってるだろ…」
「…否定はしないけど、事実楽しいの!つべこべ言わず付き合いなさい!あ、他の皆はどうするか聞かなきゃだね。」
「僕は今あんまり手持ちが無いからね…一緒に眺めるだけにさせてもらうよ。」
「オレもカイトと同じだな。」
「あたしは…良い機会だし、何か買おうかしら。」
「じゃあ俺も買おうかな。結構お金持ってるし。」
「そういえば、色んな依頼を受けてお金持ちなんだったね。」
「そんなお金持ちのコウスケ君に更にお金持ちになっちゃうお話があるんだけど、どうかな?」
「うわあ!?が、学園長!?」
突然背後からシグルドが話しかけてきたので、降助は飛び上がった。
「折角皆でお出かけ中なのにすまないね。実はコウスケ君に頼み事があって探していたんだ。」
「そうなんですか?」
「うん。ただまあ、若者の青春の時間を邪魔したくないからね。話は後で良い。なので!俺も一緒にお買い物しちゃうぞッ!」
「いや、『しちゃうぞッ!』じゃないですよ…?」
突然の乱入者が現れるも、各々買い物を楽しんだ。ちゃっかりシグルドも色々購入しており、しれっとショッピングを楽しんでいるようだった。
(まさか学園長が乱入してくるとは思わなかった…)
(しかも結構はしゃいでたし…)
(暇なのかコイツは……)
(さて、秘書さんに見つかったらなんて言われるのかな)
「君達なんか変な事考えてないか?」
「いえ、別に。」
「あ、僕達はこれで失礼しますね。」
「私はもうちょっとガーヴ連れてぷらぷらするけど、ばいばーい!」
「は?おい聞いてねぇぞそんなの…って引っ張んな!おい!ミレナ!!」
「あたしも帰るわ。…結局、最後まで一緒に買い物しちゃった……」
4人は各々その場を後にし、降助とクレイ、シグルドだけが残った。
「あ、私は外してた方が良いですか?」
「ん?いや、別に秘密の依頼とかでは無いから良いよ。まあ、あんまり関係ある話じゃないと思うけどね。」
「それで学園長、頼み事って何ですか?」
「おっともう本題に入っちゃうか…ま、もう夕暮れだし長話も良くないから良いか。こほん。コウスケ君、君には春休みに勇者と共にウルボ盆地のアビス・ホールへ調査に向かってほしい。」
「勇者と一緒にウルボ盆地……え?勇者とですか?春に勇者が召喚されるって知らせは見ましたけど……春休み中に召喚されるんですね。」
「といっても、かなり無茶してる感じだけどね。ま、そこよりもアビス・ホールがメインなんだ。」
「あの謎のマナが噴出してきたところですね。」
「ああ。そして学者団による調査の結果、あの下には巨大な地下空間…そこに巨大な遺跡が存在している事が確認された。」
「成程…話は分かりましたけど、どうして勇者と俺が調査に?」
「魔王軍の本拠地の可能性があるからさ。今までルリブス王国、そして同盟国の諜報部が魔王軍の本拠地を捜索してきたが、それらしいものは見つけられなかった。そんな時に謎の地下空間に巨大な遺跡がありました、ときたら調査しないわけにはいかない。魔王軍に関係あるなら早急に解決しなければいけないし、関係無かったとしてもあんなものが噴き出した場所なんだ。放置するわけにはいかないでしょ?」
「確かに、そうですね。勿論引き受けさせてもらいます。」
「ありがとう!ああ、それと。"ホープ"というパーティーとして来ても構わないとは思うが、何があるか分からない未知の領域の調査だ。あまりおすすめはできない。」
「分かりました。」
「詳細はまた追って連絡するよ。じゃ、俺はこれで!秘書に見つかる前にこの戦利品を片付けなくちゃいけないんでね!」
そう言ってシグルドは足早に去っていった。
「まあ…俺を探しに行ったのに、一緒にショッピングして沢山買っちゃいましたー、とかバレたらなんて言われるか分からないもんね。」
「あの人って本当に自由だねー…」
「あ、ごめんね?折角春休みに一緒に来てくれるのに……」
「ううん。大丈夫だよ!応援してるから!ちゃんと帰ってきてね!」
「うん…凄くフラグっぽく聞こえたけど大丈夫。きっと。」
「あ……」
「……あはは」
「ふふっ……も〜!そんな事言ったら余計フラグっぽいじゃ〜ん!」
「ごめんごめん!本当に大丈夫だから!」
「うん。分かってる。じゃ、私達も買いたい物買ったし帰ろっか!」
「だね!」
2人は一緒に寮に帰り、それぞれ戦利品を片付けるのだった。
第6章 貴族部転入編 -完-
6章も終わり、遂に7章です。これからもコツコツ書いていきますので、引き続き応援よろしくお願いします。




