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第9話 誕生日

初めて町に行ってから1ヶ月。ハクの下で薬学を教わる日々を過ごしていたある日の事だった。


「ふ〜んふんふんふ〜んふ〜ん」

(鼻歌……トランさんだな。キッチンの方か。何やってるんだろ?)


降助がキッチンを覗くとトランが何か料理を作っていた。ボウルがいくつか置かれており、下拵(したごしら)えをしている様子だった。


「なにをつくってるんですか?」

「うひょおおおぉぉぉう!?ゔ、ヴィアか……お、驚かさんでくれ……」

「す、すみません……それでなにをつくってるんですか?」 (結構独特な悲鳴だったな……)

「イヤワシハナニモツクットランゾイ」

(あっ……明らかに嘘だこれ!!カタコト過ぎて誤魔化せてないよ!!)

「おーいトラン……何か独特な悲鳴が聞こえた気がするんじゃが……!!?」

「あ、コウさん。トランさんがなにかつくってるみたいなんですけd―」

「よーしラギ!今すぐ俺と遊ぶぞい!何が良いかの?」


そう言ってコウは慌てて降助を抱えてキッチンから離れていく。


「えっ?ちょ、ちょっと??」(ゴリ押したー!!遂に強行手段にでたー!!というか2人ともグルなんかい!!)

「ほーれこっちで遊ぼうのー。」

「は、はぁ……?」(まあ詮索しないでおくか……)


降助はコウに連れられボウと共にボードゲームをする事になった。


「これは駒を動かして相手を攻め、先に相手陣地を陥落させた方が勝ちのチェギというものでの。おぬしもやってみるかの?」

「じ、じゃあ…せっかくなので……」(チェスとか将棋みたいなものかな……あんまり経験無いけどやってみるか。)

「駒には種類があっての。主に兵士、槍兵、弓兵、騎兵、魔法兵の5つじゃ。それぞれに相性があり、行動内容や1回で移動できる距離などが違うんじゃ。」

「なるほど……」(ちょっと複雑なチェスってところかな。)

「そして駒どうしが接敵、正面で隣接したら互いにこのダイスを振り、相性とその数値によって勝ち負けを決めるのじゃ。」

「ダイスによっては捕縛したり、寝返らせたり、そのまま倒してしまう事もできるの。」

「ふくざつ……」

「まあやってみれば慣れるじゃろう。さっそく俺とボウでやるから見ておるんじゃぞ。」

「はい!」

「義兄上でも容赦しないぞい?」

「それはこちらの台詞じゃ。対戦形式は城攻めで良いかの?」

「勿論じゃ。」


それから数分にわたってコウとボウの対決が続いた。コウは攻めの姿勢で、ボウは守りの姿勢で進めていき、両者互角の状態が続いた。そして最終的な結果は勢いを防ぎきれなかったボウがそのまま攻め込まれ、負けとなった。


「やはり義兄上は強いの〜…また負けてしまったわい……」

「これで45勝45敗じゃな。」

(想像以上に互角だった……)「そういえばこのこまはなんですか?さっきはずっとつかっていませんでしたけど…」

「それは指揮官の駒じゃな。対戦形式が殲滅戦の時とかに使う駒じゃ。」

「たいせんけいしき…そういえばさっきもいってましたね。」(殲滅戦って…およそボードゲームじゃ聞かない単語なんですけど…)

「ああ、これにはいくつか種類があっての。相手の城を攻めて占拠すれば勝利の城攻め、相手の駒を全て倒せば勝利の殲滅戦、攻めと守りを固定して攻めは相手の城を攻め落とせば、守りは一定ターン侵攻を防ぎきれば勝利の防衛戦、捕縛か寝返りで確保した駒が多い方が勝利の降伏勧告など様々じゃ。」

(あっこれ思った以上に奥が深いやつだ……)


2人に教わりながら遊んでいるとふと玄関のドアが開く音がする。


「あれ、だれかきました?」

「ふう……疲れたわい……」

「あ!ハクさん!でかけてたんですか?」

「ああ、ちょっとの。町まで買い物に行ってたんじゃ。」

「そうなんですか…ぼくもいきたかったなぁ…」

「それならまた今度行くかの?」

「はい!」

「ほっほっほ。では楽しみに待っておくんじゃぞ。」

「わかりました!」


そう言ってハクは紙袋を抱えたままキッチンへ向かう。それから再び降助はコウとボウと遊び、あっという間に日が暮れていった。


「こ、これ…やりだすとなかなかとまらないですね……」

「そ、そうじゃろ……?楽しすぎて止まらなくなるんじゃよ…」

「ダイヤ…おぬし強いの……とても初めてとは思えんかったぞい。」

「お、おほめにあずかりこうえいです…」


ふとキッチンからいい匂いが漂ってくる。


「くんくん……なんかすごくいいにおいがしますね」

「そうじゃな。そろそろできたみたいじゃな。」

「今日の晩ご飯は何かのう。」


それから数分もしないうちに3人は呼ばれ、食卓に集まる。そこにはハンバーグやサラダ、ポタージュなどが並んでいた。


「うわぁ〜…!」

「腕によりをかけて作った品々じゃ。じっくり味わっとくれ。」

「それでは…」

「「「「「「いただきます」」」」」」

「どうかの?しっかり火は通ってると思うんじゃが。」

「はい!とってもおいしいです!」

「それは何よりじゃ。」


それから少しして全員が料理を食べ終えるとトランはキッチンへ向かい、少ししてケーキを持って戻ってくる。


「わあ…!おおきなケーキ…!あの時作ってたのはこれなんですね!」

「そうじゃ。いやーケーキは久々に作るから不安じゃったが上手くできたようで一安心じゃ。」

「でもなんできゅうにケーキを…?」

「今日はの、儂がおぬしを拾った日なんじゃよ。」

「あ……もうそんなに……」

「仮ではあるが今日がおぬしの誕生日じゃ。誕生日おめでとう、ミコト!」

「…ありがとうございます!」

「あ…わしからプレゼントがあるんじゃが…」

「ジックさんから?なんですか?」


ジックは大きなポーチを降助に渡す。


「これは…」

「それはマジックポーチ…ハクが買ってきたポーチに、わしが魔法を付与してなんでもしまえるようにしたんじゃ。使ってくれると…嬉しいの。」

「はい。たいせつにします…!」


それから6人でケーキを食べ、降助は風呂と歯磨きを済ませて眠りにつく。


「アインや…今日はミコトが誕生日を迎えたんじゃ。皆で祝っての。ケーキも食べてプレゼントも渡したんじゃ。おぬしも…あの世でミコトを祝って……いや、儂ら"賢者はあの世に行かない"んじゃったな。とりあえず、ケーキはここに置いておくぞい。」


ハクはアインの墓の前に切り分けたケーキを乗せた皿を置くと館の中へと戻っていく。

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