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第82話 褒賞

「さて…では我々は帰るとしよう。」

「ですね。」

「あら、もうお帰りになるのですか?もう少しこちらに滞在なさっても良いのに……」

「お言葉はありがたいのですが、少し仕事が増えまして。早めに終わらせなくてはならないのです。」

「そうですか。では無理に留まらせる事はできませんね。気を付けてお帰りください。」

「直近で襲撃があったばかりだからな。本当に帰り道には気を付けろよ。」

「ご心配には及びません。コウスケ、リスタッドまで開けるか?」

「リスタッドですか……行った事が無いので直接は難しいですね……開けるには開けますけど、どこに出るか分からないので。」

「そうか……ならタリミアはどうだ?あそこかバラシアン第一学園都市がリスタッドに近い街だが……」

「あ、タリミアなら行けますよ。」

「よし。ではそこに頼む。」

「はい。《ディメンションチェスト》」

「では我々はこれで。」


口をあんぐりと開けてポカンとしているジュウとバーナをよそに、コウスケとユーラはゲートでタリミア郊外の草原に向かっていき、ゲートが閉じる。


「な……なんだ今の……!?」

「転移魔法……でしょうか?」

「バカ言え。ありゃ今じゃ殆ど失われた魔法だろ……あんなガキが使えてたまるか。」

「でも…実際使えてましたよね……」

「…そうなんだよな……」(コウスケ・カライト…あいつはマジで何者なんだ……?)


タリミア郊外の草原に到着した2人はフライトを使い、南下してリスタッドを目指して進んでいた。


「あの、リスタッドには何をしに行くんですか?」

「何って、魔王軍の幹部であるルムザを捕らえたのだ。それの報告に決まってるだろう。」

「で、ですよね。じゃあ急いだ方が良いですか?」

「まあ、早いに越したことはないな。」

「じゃあちょっとショートカットを使ってみますね。」

「ほう?」


降助は前方にゲートを作る。潜り抜けたら再び前方にゲートを作り、それを何回も繰り返していく。


「これは?」

「現在地から視界ギリギリの場所に繋がってるゲートを作っていってるんです。これで時間が短縮できますよ。」

「ほう…こんな使い方もできるのか。」


ショートカットを何回か繰り返していくうちに、大きな街が見え始める。


「見えてきたな。あれがリスタッドだ。」

「うわぁ……すごく大きい街ですね……!」

「ルリブス王国の首都だからな。当然だ。さ、そろそろ降りるぞ。」

「はい。」


2人は降りて門へ向かい、門番にギルドカードを見せて中に入る。また門番が3度見くらいしていたが、今回も降助は気にしない事にした。その後は王宮に向かい、門の前までやってきた。


「止まれ。何用であるか。」

「グランドマスター、ユーラだ。陛下に魔王軍関係の急ぎの報告がある。」

「ふむ。グランドマスター殿であったか。ギルドカードも確かに拝見した。それで、そちらの青年は?」

「彼が今回の立役者といったところだ。」

「成程。ギルドカードを拝見しても?」

「あ、はい。」


降助は門番にギルドカードを手渡し、確認を終えた後、返される。


「問題は無いようだ。では入ってよし。」

「ありがとう。」


ユーラは慣れたように王宮内を進んでいき、あっという間に玉座の間に到着する。


「早かったですね……」

「まあ、そもそもシンプルな造りだし、私は何度かここに来ているからな。…コホン。陛下、魔王軍に関する至急の報告があり参りました。」

「うむ。入れ。」


ユーラは扉をノックし、返事を待って中に入る。玉座にはルリブス王国の王、ヴァンゾ・ラジットが座っており、手前には第2騎士団団長のバルツ・ロー・グレストが立っていた。


(この人がこの国の王様……さっきも王様と会ってたけど、今回は何というか、迫力というかすごく威厳を感じる…!いや、ジュウ様にもまったく威厳を感じてなかったかと言えばそういうわけでは無いんだけど……)

「魔王軍に関する至急の報告であったな?では早速話してくれ。」

「は。今回、イゾルツク連邦国にて魔王軍幹部、ルムザ・ヴァーグを捕らえました。」

「何だと!それは本当か!?」

「…ふむ。それで、今やつはどこに?」

「コウスケ。」

「え、ここで出して良いんですか?」

「拘束はしてあるのだろう?」

「まあ、バインドチェーンでギッチギチにしてありますけど……」

「じゃあ大丈夫だ。」

「じゃあ失礼して……」


降助はディメンションチェストから、バインドチェーンで簀巻きにされたルムザを引っ張り出す。


「いったぁ…もうちょっと優しくしてくれない?」

「い、今のはアイテムボックスか…?しかし、アイテムボックスに生き物なんて入れられたのか…?」

「あれ、君はちょっと前に会った団長さん?久し振りだね、元気だったかい?」

「…随分と呑気なものだな。今自分がどのような状況に置かれているのか分かっているのか?」

「はいはい分かってるよ。僕は彼に負けて捕まった。最悪処刑、良くて尋問されて死ぬまで牢獄だろうね。」

「よく分かってるようだな。」

「…ふむ。ではバルツよ。学者団の開発部門に拘束具を持ってこさせ、こやつを"最果て"に護送せよ。」

「はっ!」

「"最果て"?」

「バラシアン大陸の北にあるコウルシア大陸の北端に位置する監獄だ。下は荒れ狂う海、周囲は断崖絶壁、更にあの辺りは常に猛烈な吹雪が吹き荒れていてな。他にも、迷宮と見紛う程に複雑化した内部は脱獄者を徹底的に許さない、まさに人生の最果てだ。」

「ひえぇ……」


バルツは通信用の魔法陣が刻まれた石が付いたブレスレットで連絡を取り、暫くすると開発部門から拘束具を受け取った兵士達が入ってくる。


「すまない、拘束具を装着させないといけないから、バインドチェーンを解いてもらっても良いだろうか?」

「はい。」


ルムザを縛っていたバインドチェーンが解除されるが、特に抵抗する事無く、拘束具が装着される。


「では我々はこれで。」

「ああ。後は頼んだぞ。」(バインドチェーンを外し、拘束具を取り付ける瞬間に抵抗するかと思ったが…驚く程大人しかったな。まあ、これで平和に近づいたなら良しとしよう。)

「さて、では褒賞の話をするとしよう。」

「褒賞…ですか?」

「うむ。魔王軍の幹部を捕らえたのだ。褒賞が出て当然だろう。願いを言ってみると良い。財でも土地でも、大抵の物は用意できよう。わたしに娘がいれば結婚させても構わなかったが、生憎息子しかいなくてな。」

「うーん……急に言われても……思い付かないですね……特に褒賞は無くても構いませんが……」(別にお金には困ってないし…土地もあの館があるしなぁ……武器だってマナウェポンで大体作れるし……困った…本当に何も思い付かない……)

「ふむ…おぬし、コウスケといったか。聞くところによると、シューヴァルト学園平民部Aクラスにしてプラチナランク冒険者、魔王軍対策連合所属でもあるそうだな。」

「はい。」(ひょえぇ…どこからそんな事を……王様って凄いんだなぁ……)

(な…!平民部Aクラスならまだしも、プラチナランク冒険者…!?少し前に対策連合に学園長のシグルド殿、グランドマスターのユーラ殿の推薦を受けた新進気鋭の若者が入ったとは聞いていたが…彼の事だったのか…!それにしてもこの若さでそこまでの強さ、一体どうやって……?)

「ふむ……クラスを上げたり、冒険者ランクを上げるのもアリとは思ったが、既に上限に到達しているしな…まさか、褒賞に困る日が来ようとはな。」

「えっと…なんか申し訳ありません……」

「いや、気にしなくて良い。…が、何も渡さぬというのはやはり格好が付かん。バルツよ。金庫から1000万キーカ程出して彼に。」

「はっ。」

「えっ…そ、そんなに……!?」

「ここは貰っておけ、コウスケ。慎ましいのは良い事だが、王族からの褒賞を断り続けるのも考えものだからな。」

「そ、そうですよね…じゃあ、ありがたく頂戴いたします。」


バルツは玉座の間を出て金庫に向かい、数分程でパンパンになった革袋を持って戻ってくる。


「10万キーカが100枚だ。確認してくれ。」

「へぇ…10万キーカの貨幣があったんですね。」

「普通の市場では滅多に出回らないがな。……よし、確認は済んだな。では受け取れ。」

「ありがとうございます。」


降助はバルツから革袋を受け取り、ディメンションチェストにしまう。


「では我々はこれで。」

「うむ。ご苦労であった。」


ユーラと降助は玉座の間を出て、人目の無い辺りまで向かう。


「じゃあ頼む。」

「ギルド本部で良いんですね?」

「ああ。」

「じゃあ、開きますよ。」


2人はゲートを通り、ギルド本部の執務室に到着する。


「やはりこのスキル…いや、魔法なんだったな?便利だな……」

「そうですね。すっごく便利です。」

「…ちょっと仕組みを教えてくれないか?」

「良いですよ。」


降助はディメンションチェストの魔法陣を展開し、ユーラに見せる。


「魔法陣はこんな感じですね。」

「……」

「それで、ここがこうなってて、この部分をこっちと繋げて、ざっくりこういう構造になってます。こうすると自分から離れた場所にも出し入れ口が―」

「……」

「グランドマスター?」

「わ……分からん……微塵も分からん……よくこんな複雑な魔法陣を構築できるな……はっきり言って、異次元もいいところだぞこれは……」

「そ、そんなにですか……?」

「ああ……師は一体誰なんだ…?」

「師匠はジックっていう魔族です。まあ、基礎とか色々教わっただけで、ストライクビームとかディメンションチェストは独学だったりしますけど。」

「独学なのか……待て、それより魔族のジックだと…?まさか、魔賢ジックじゃないだろうな?」

「そのまさかですよ。他にもコウさんにボウさんから戦い方も学びましたし、アインさんとかからも知識を色々学びました。」

「…成程。君が異次元の強さを持っている理由が分かったよ。」(それにしたって些か強すぎはしないだろうか…)

「あはは……」

「…コホン。とりあえず、こいつを渡しておかないとだな。」


そう言ってユーラは降助の手に革袋を乗せ、しっかり握らせる。


「あの…これは?」

「バーナ様の成人式パレードの護衛報酬だ。まだ渡していなかっただろう?」

「あーそういえば…ちなみにおいくら程…?」

「100万だ。」

「ひゃくっ……」

「王族を護衛し、襲撃を受けた時も被害ほぼゼロで鎮圧したのだ。成功報酬としては妥当だろう。」

「そ、そうですか……じ、じゃあ俺はこれで帰りますね……」

「ああ。気を付けて……といっても、ディメンションチェストですぐだったな。…チェストの定義が崩れそうだ。」

(それは全く以ってその通りです。俺でも常々そう思ってます。)


そんな事を考えながら降助は館へと帰っていくのだった。

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