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第80話 パレード 1

「んんっ……ふう。確かパレードは昼、か。ユーラさんは…まだ寝てるのか。集合時間も近いし、起こしちゃおう。起きてください。朝ですよ。準備しましょう。」


優しく体を揺らして起こそうとするが、まったく起きる気配が無い。


「…グランドマスター!集合時間に遅れますよ!!」

「むにゃぁ……う〜ん…あと1時間……」

「いや欲張りすぎですよ!?起きてくださいって!」

「う〜……うるひゃいっ!」

「ぷげっ!?」


ユーラの蹴りが降助の顎にクリーンヒットし、暫くの間悶絶する。


(グランドマスターって寝相悪い部類の人間だったのか…!)「お、起きてください…!」

「むにゃ…あと10時間」

「そんなに寝てどうするんですか!?早く起きないと遅刻―」

「んも〜…うるひゃい……」


瞬間、ユーラは目を閉じたまま降助に突撃し、鼻に膝蹴りで1ヒット、勢いで髪を掴まれ、そのまま後ろに倒されて床に頭を打ち2ヒット、最後に腹にダイブされて3ヒットでトドメとなった。


「むにゃ……」

「こ…これはもう、寝相とかの域を超えている……あっ胃から何か込み上げて……ッ!」


降助は急いで起き上がってトイレに駆け込み、戻る頃にはユーラが大人の姿になって支度をしていた。


「おはようコウスケ君。昨日はよく眠れたか?さ、今日はよろしく頼むぞ。」

「あ…はい。」(何事も無かったかのように支度している…本当に寝てたんださっきまで……睡眠を妨害する者は徹底排除するという明確な意思(殺意)を感じたよ俺は……)


気を取り直して降助も支度を済ませ、朝食を食べた後、2人は宮殿へ向かう。宮殿に到着すると、門番は2人を迎え入れ、中庭へ案内する。


「お待ちしておりました。ユーラさん、コウスケさん。」

「ほぇ〜随分と大きい乗り物ですね……」

「はい。私がこちら、お兄様があちらに乗り、それを駄獣に引かせて街を周ります。」

「俺達は近くで護衛、ですね。」

「我々はパレードのメンバーではないから行進の中ではなく外、というのも忘れないようにな。」

「はい。」


最終確認を済ませ、準備を整えたところでジュウがやってくる。


「よう。準備はできたか?」

「はい。いつでもいけます。」

「よし。門を開けろ!パレードを始めるぞ!!」

「「はっ!!」」


門番が門を開けて先頭に立ち、警備隊が音楽隊と乗り物を引く駄獣を囲むように続いていく。その頃、ガルニアの三方にある門ではパレードの開始を確認し、門を閉めようとしていた。


「お、パレードが始まったみたいだな。よし、門を閉じ―」


ふと胸に異物が刺さり、口から何かが垂れてくるのを感じる。ゆっくりと視線を下ろすと、剣が胸を刺し貫いていた。


「な……」


驚く暇もなく剣が引き抜かれると、門番はばたりと力なく倒れた。そのことを確認したもう1人の門番が合図を出すと、武装した他の部族らしき集団がどこからか現れ、続々と街へ入っていった。


(な……何という事だ……ま、まさか裏切り者が居たとは……は、早くジュウ様に知らせねば……!)「ぐ……」

「!」

「がはっ!」


刺された門番がまだ生きていると気付いた裏切り者の門番は再び剣で刺し、とどめを刺す。一方街では、この事に気付かないままパレードは進行していた。


「《索敵》」(今のところ、ルムザっぽい反応は無いな……スキルも知らない間に成長して、敵対反応とそれが魔物なのか人なのか、はたまた別の種族なのかが分かるようになったのは便利だけど。)

「問題は無いか?」

「はい。今のところは―」


瞬間、降助の索敵がパレードに向かう複数の集団を感知した。


「ッ!」

「どうした?」

「複数の獣人の集団がパレードに向かっています。」

「獣人?パレードを見ようと端の居住区から集まってるだけじゃないのか?」

「いえ……この集団は全員、明確な殺意を持って凄いスピードで迫っています!」

「なんだと…!警戒体制!!複数の敵対反応を察知した!!住民は避難しろ!!」


ユーラが大声で警告し、警備隊が構えようとした瞬間、路地や建物の屋上から複数の武装した獣人が飛びかかってくる。


「《バインドチェーン》!!」

「ぐっ!」「な、何だこれは!」「動けん…!」


降助の放ったバインドチェーンは襲撃者を1人残らず拘束し、ガッチリと近くの地面や建物に縛りつけた。その様子を見ていたジュウは乗り物から飛び降り、拘束された獣人達に近寄る。


「……ん?誰かと思えばテメェら、北のガール族に西のカゲト族、南のヨーテ族じゃねぇか。前々から反発的だとは思ってたが、まさかパレードを狙った襲撃までしてくるとはな。言え。誰が首謀者だ?言っとくが、黙ってると痛い目に遭うぜ?」

「ふん……ジュウ、貴様のような臆病者の腑抜けなぞに誰が口を割るものか!」

「ほーう……臆病者の腑抜け、ね。」

「ああそうだ!先代のオウガル様による武を誇りとする栄光の時代から一転、弱者ばかりが優遇される最悪の時代!!民に君臨する絶対的王者ではなく、民に媚びへつらうような貴様は臆病者で、腑抜けで、まさに小心も―」


言い切る前にジュウは蹴りを入れ、男を黙らせる。


「何が武を誇りとする栄光の時代だ?ありゃ弱肉強食が行き過ぎたただのカスみてぇな時代だ。あと今は弱者ばかりが優遇されてんじゃなくて扱いを等しくしてっただけだバカ。警備隊、こいつらを牢屋にブチ込んどけ。パレードを再開するぞ。ったく……妹の晴れ舞台を邪魔しやがってよ。」


警備隊はすぐに襲撃者達を牢屋へ連行し、パレードが再開される。


「よくやったなコウスケ。この調子で最後までいくぞ。」

「はい。」


騒動も落ち着き、パレードは再び街を進んでいった。

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