第79話 ジュウとバーナ
「ふぅ……相変わらず、無駄に坂が多いなここは……昇降機の1つや2つ設置したらどうなんだ……」
(グランドマスターが物凄く愚痴をこぼしている……)
その後も愚痴をこぼし続けるユーラに、息切れする素振りも見せずついて行く降助は、やがて宮殿の門に到着する。
「ふう……ようやく着いたな。」
「結構坂長かったですね。」
息を整えるユーラの下に、ガタイの良い門番の獣人族の男が近づいてくる。
「グランドマスターのユーラ殿とお見受けします。ジュウ様がお待ちです。どうぞこちらへ。」
「どうも。」
「ところで、そちらの少年は?」
「ああ、彼は私の手伝いで来たんだ。一緒に通してくれ。」
「…分かりました。ではあなたもこちらへ。」
「あ、はい。」
2人は門番に案内され、大きな扉の前にやってくる。
「失礼いたします。ジュウ様、バーナ様。ユーラ殿をお連れしました。」
「入れ。」
合図と共に門番が扉を開き、2人が入った後、門番は扉を閉めて去っていった。
「今回は妹の為に来てくれて感謝する。」
そう言ったのはイゾルツク連邦国を纏める王、ジュウ・ガイター。灰色の髪に胸元の傷が特徴の獣人族の若い男で、彼の座る椅子に立てかけられた大剣が太陽の光を反射してキラリと光る。そしてその隣には綺麗な銀髪の妹、バーナが立っている。その佇まいからは兄とは違い、淑やかな印象を受ける。
「礼には及びません。寧ろ隊を派遣できず、たった2人でしか来れなかった事を謝罪させてください。」
ユーラは頭を下げ、降助も空気を呼んで頭を下げておく。
「いや、気にすんな。最近は魔王軍の野郎共も活発化してきたからな。そんな時にこんな事を頼んじまってすまねな。ところでユーラ殿。そっちのガキは何だ?」
「彼は私の助っ人です。腕は保証します。」
「ほーん……」
ジュウは暫しの間、値踏みするように降助を見る。
(大して覇気も感じねぇし細い体してんなぁ…ホントに使えんのか?ま、グランドマスターサマが連れてきたって事はそこらの兵士よかマシなのか確かだな。)「オマエ、名前は?」
「コウスケ・カライトといいます。」
「コウスケか。最初に言っておく。グランドマスターのユーラ殿が連れてきたって事だから信用はしてやる。だが信頼はしねぇ。認めてほしけりゃ精々頑張って俺様の妹を守れ。」
「…分かりました。」
「んじゃ、後の話し合いはバーナとやってくれ。バーナ、終わったら報告忘れんなよ。」
「はい。お兄様。では、会議室がありますのでそちらに移動しましょう。ついてきてください。」
ユーラと降助はバーナについていき、玉座の間を出る。
(しっかしアイツのつけていたミサンガ、どこかで見たような……ま、どうでもいいか。)
会議室へやってきたバーナは、2人に椅子に座るよう促し、机の上に街の地図を広げる。
「パレードは明日、昼頃から始まります。ルートはこのように宮殿を出発して坂を下っていき、ここにある広場で折り返して坂を上り、宮殿に戻ります。お2人には私の近くで一緒に移動しながら護衛してほしいのです。」
「ふむ。このルートだと、およそ2時間程のパレードになりますね。」
「はい。パレード中は外壁の門は閉じられますが、目撃情報があったルムザという男は空を飛ぶ事ができると聞いていますので、どう対処すれば良いのか…」
「それに関しては問題ありません。彼はルムザとの戦闘経験もあり、空中の敵にも問題無く対処できます。」
「ほ、本当ですか?」
「はい。」
「それは頼もしいですね。では他の場所ですが―」
それから会議はサクサクと進んでいき、1時間ちょっとで話が纏まり、解散となった。
「では明日はよろしくお願いしますね。」
「ええ、お任せください。」
2人は宮殿を出て坂を下り、宿へと向かう。
「ここが私達が泊まる部屋だ。」
「へぇー、結構広いですね……ん?私"達"?」
「ああ、実は部屋がここしか空いてなくてな。ベッドは2つあるから問題無いと思うが……どうかしたのか?」
「えっ…あっ…いや…その……」
「何だ?もしや恋人でもできてたのか?…なんてな。ただの冗談だ。中々可愛い反応をするじゃ―」
「まあ、えっと…はい。」
「……」
少し顔を赤らめ、視線を逸らしながら答える降助を見たユーラは一瞬フリーズした後、子供の姿になって降助に詰め寄る。
「嘘嘘嘘嘘!!本当にいるの!?詳しく聞かせて!!」
「分かりましたから!落ち着いてください…!」
興奮するユーラをベッドに座らせ、降助も向かいのベッドに座って説明をする。
「ほへぇ〜フィルソニア家のお嬢様と恋仲に…コウスケ君のお家にお邪魔させてもらった時に居たからもしやと思ったけど…いやあ〜!いいねぇ!青春してる!羨ましいよ!」(よーし、後でシグルドにも知らせてやろっと。)
(絶対悪い事考えてるなこの人……)
その後、2人は夕食と風呂を済ませて眠りにつく。降助が眠った後、こっそりユーラが使い魔に手紙を括り付けて飛ばし、シグルドにバラしたのはまた別の話。




