第78話 イゾルツク連邦国へ
「ふあぁ〜…おはよう……」
降助が寝巻きから着替え、あくびをしながら階段を降りると、ソファに腰掛け、紅茶を飲みながらにこやかに挨拶をするギルドのグランドマスター、ユーラが居た。
「や、久しいな。コウスケ・カライト。」
「ぐっ…ぐぐ、グランドマスター!?どうしてここに!?」
「実は折り入って頼みたい事があってな。」
「頼み事ですか?」
「ああ。プラチナランク冒険者であり、魔王軍対策連合の一員でもある君にだ。」
「!」
ユーラから魔王軍対策連合の名前が出た事で事情を察した降助は素早く寝癖を直し、ユーラの前に座る。
「一体何があったんですか?」
「近々イゾルツク連邦国でジュウ様の妹君、バーナ様の成人式パレードが行われる。君には私と共にバーナ様の護衛になってもらいたい。」
「護衛、ですか…」
「そうだ。実は最近、魔王軍幹部であるルムザ・ヴァーグがイゾルツク連邦国付近で目撃された。念には念を入れておきたいとジュウ様直々にルリブス王国に依頼が来たのだが、ルリブス王国軍は他の仕事で人手を回せなくてな。」
「成程。それで俺に話が来たんですね。」
「ああ。実力者かつ奴との戦闘経験がある君が適任だと判断した。できれば今すぐに発ってもらいたいのだが、できるか?」
「分かりました。すぐに準備します。」
「それと。そこの物陰から覗いている4人と奥に引っ込んでいる4人。出てこい。」
「チッ…」
「ほらバレた。」
観念したガーヴ、ヴニィル、クーア、トーカに続き、ミレナ、ベル、クレイ、カイトも出てくる。
「先に言っておくが君達の同行は許可できない。」
「は?なんでだよ。オレらだって充分戦え―」
「いいか。これは護衛だ。多少の被害ならば時間や人手で解決できる街の防衛などとは違って一瞬の油断、対象の傷1つが命取りになる。特に今回は一国の王の妹君が護衛対象な上、敵は魔王軍幹部。君達では力不足だ。」
「…あのっ!せめて私達は行けませんか?師匠とは同じパーティーだし、実力だってある程度は―」
「まあ確かに、そっちの学生諸君よりは良いかもしれないな。」
「なら―」
「だが、駄目だ。あくまで彼らよりマシなだけであって、今回の依頼に同行させられる程ではない。」
「むぅ……」
「仕方がありません。確かに、何かあった時に私達では責任が取れないのも事実ですから……」
「そういう事だ。どうか分かってほしい。」
「…なら我はどうだ?実力も申し分なかろう?それに、人手は多い方が良いのではないか?」
「…確かに、かの邪龍ならば実力は申し分ないが…」
「いや、ヴニィルはここに残ってほしい。俺が居ない間は皆の修行相手になってほしいんだ。」
「そうか。ではそうするとしよう。」
「ではコウスケ1人で行くという事で良いんだな?」
「はい。」
「では早速向かおう。……と言っておいてなんだが、ディメンションチェストをお願いできるか?」
「あ、はい。とは言っても、イゾルツク連邦国には行った事が無いので、ウルボ盆地までになりますけど…」
「それでも構わない。」
「分かりました。《ディメンションチェスト》」
降助はゲートを開き、ウルボ盆地にあるアビス・ホールの近くに繋げる。
「こーちゃん」
「うん?」
「いってらっしゃい。」
「うん。行ってきます!」
2人はゲートを通り、アビスホールに到着する。その直後、ユーラは大人の姿から子供の姿になる。
「ふぁー!やっぱり大人の姿だと肩が凝るなぁー!子供最高!」
「そ、そうですか……」
「じゃ、イゾルツク連邦国はこっから西側だからフライトで飛んでくよ〜」
「分かりました。」
それから暫くの間ウルボ盆地を飛んでいると、やがて大森林が見えてくる。
「さて、そろそろ降りよっか。」
「はい。」
2人は大森林の入り口で降り、歩いて中へ入っていく。
「合同合宿の時に飛空艇からちょっと見えてましたけど、こんな大森林の中に国があったんですね。」
「そうだよー。今から向かうのはイゾルツク連邦国の中心地、ガルニア。途中にある村で休憩しつつ行くよ。」
「どれくらいかかるんですか?」
「んー、途中で3つくらい村を経由して行くから……徒歩で5日かそこらかなあ。」
「成程。ちなみに成人式パレードはいつなんですか?」
「6日後だね。」
「…ギリギリじゃないですか……」
「…てへっ。」
「はあ……じゃあのんびり行ってられませんし、急ぎますよ!」
「おー!」
それからは時折り襲ってくる森の魔物を撃退しつつ、3つの村を経由し、遂にガルニアに到着する。
「ふう。予定通り、5日程で到着できたな。」
「そうですね…って、いつの間に大人の姿に……」
「さっき君が目を離したうちにだ。ここからは他所行きの格好にしておかないとだからな。さ、検問だ。ギルドカードは持っているな?」
「はい。」
2人は検問の列に並び、順番が来るとそれぞれギルドカードを門番に見せて通る。ギルドカードを見せた時に門番が目を丸くして3度見くらいしてきたが、気にしない事にした。中に入ると壮大な景色が広がっており、無数の滝やビル程の高さがある巨木と、そこに建てられた家や大きな坂に所狭しと並ぶ露店は、まさに圧巻の一言に尽きる。
「さて、早速宿に向かって休憩……といきたいところだが、まずは宮殿に向かうぞ。」
「えっ、いきなり宮殿にですか!?」
「当たり前だろう。まずは顔合わせをして、その後パレードのルートなどの細かい打ち合わせをしないといけないからな。」
「あ、それもそっか……」
「では、行くとしよう。」
2人は長い坂を上り、宮殿を目指すのだった。




