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第8話 初めての町

アインの死から暫くして。季節は春を迎え、ハクは降助を連れて近くの森に来ていた。


「この薬草はラーニといっての。春先によく採れるもので保存も効くからなるべく採るようにしとるんじゃ。」

「そうなんですね。ところでこのやくそうにはなんのこうかが?」

「滋養強壮じゃの。あと嗅いでみるとちょっと変わった匂いがするじゃろ?判別方法はそれじゃ。」

「すんすん……たしかにざっそうとはちょっとちがったにおいがしますね。」

「後はカミルという花じゃな。これも春の方に採れる物でリラックス効果や頭の回転を上げる効果があるんじゃ。こういう見た目の花なんじゃ。」

「きれいなおはなですね〜」

「という事でこの2つをいくつか採ってきてくれんかの?この辺りは特に危険な動物や場所も無いと思うんじゃがあまり離れんようにの。」

「はい!」


降助は草の匂いを片っ端から嗅いだり草むらをかき分けたりしながらラーニとカミルを探していき、10分程経つ頃にはひと束くらいのラーニとカミルを集めた。


「うむ。上出来じゃな。ありがとう。」


そう言ってハクは降助の頭を撫で、ラーニとカミルを受け取る。


「ふむ。今日はこの辺にして帰るかの。」

「わかりました」


2人は館に帰ると早速ハクの部屋で調合を始める。


「この薬を作る時は順番が大切じゃ。こっちのを先に作ってしまうと効力が落ちてしまうからの。」

「そうなんですか?」

「そうじゃ。長年研究してきて分かったことじゃ。それを書き溜めていくうちにこんな分厚いメモが出来上がったんじゃよ。」


そう言ってハクは机の引き出しから紐を通して(まと)められたメモを取り出す。


「そうじゃ、おぬししばらくそれを読んで勉強してみたら良いんじゃないかの?本を読むのは得意じゃったろ。実技も少しずつ挟みながら学んでいきなさい。」

「はい!」


ハクが薬を調合する(かたわ)ら、降助はハクの纏めたメモを読み進めていく。時間はあっという間に過ぎ、夜になる。


「ふう…たくさんかいてありましたね……」

「儂でもこんなに書き溜めていたとは思わなんだ…」

「これでもまだ1さつですよ…」

「同じ素材でも組み合わせや調合の方法によってまた更に違う薬になっていくからの。それを書き記していくと自然と量も増えていったんじゃな…」

「おーい2人ともー晩ご飯できたぞい!」

「あ、トランさんが呼んでますね」

「では行くとするかの。」


2人は部屋を出て1階に向かい、椅子に座る。


「では…」

「「「「「「いただきます」」」」」」

「今日の晩ご飯はシチューじゃ。」

「春を迎えたといえどまだ寒い日もちらほらあるからの。丁度良いかもしれんな。」

「…そうじゃ、ミコト。明日は町に行ってみないかの?」

「まちに?」

「おぬしも少しずつ外の世界に慣れた方が良いと思っての。」

「確かにそろそろ良いかもしれんの。」

「俺がついて行った方が良いかの?」

「いや、買い物だけじゃし大丈夫じゃ。この辺りは魔物も少ないしの。」

「そうか。なら俺は留守番しておくとするかの。」

「それでどうするかね?行ってみるかの?」

「はい!いきたいです!」

「では今日は早く寝んとの。」

「そうします」


そして晩ご飯を食べ終えた降助は風呂を済ませてアインの部屋に入っていく。あれからアインの部屋は降助の部屋として使われており、よく篭って本を読み漁っていた。


「ふあぁ……はやくねるとするか……」


ベッドに入り、布団をかけて目を瞑るとすぐに深い眠りに落ちていき、気付けば朝を迎えていた。


「ふあ……あ〜…よくねた……」


ふとドアをノックする音が聞こえる。


「ミコトや。起きとるかの?」

「はーいおきてますよ!」

「うむ。今日も早起きして偉いの。早速出かけるから準備するんじゃぞ。」

「わかりました!」


それからすぐに降助は着替えを済ませ、朝食を食べてハクと共に館を出る。


「往復でそこそこ歩く事になるが大丈夫かの?」

「だいじょうぶです!」

「よろしい。では行くぞい。」


そこから森を抜け、山道を下っていき、時折休憩を挟みつつ麓まで辿り着くとちらほらと建物が見え始める。


「ここがまち…」

「麓の町じゃ。中々の活気じゃろう?」


タイルで整備された大通りの端には出店が並び、野菜や果物、魚やアクセサリーが売られていた。


「王都の商店街になるとこれとは比べ物にならない活気での。目が回ってしまうわい。」

「そうなんですか」(これでも本当に結構な賑わいだけど…そんなに王都って凄いんだな……)

「買い物する店はこの先じゃ。はぐれないようにしっかり付いて来るんじゃぞ。」

「はい!」


2人は大通りを歩いていき、一軒の店に入っていく。そこでは気前の良さそうな中年手前くらいの男が店番をしていた。


「いらっしゃい…おお、ハクさんか!久しぶりだな〜!今日は何の用だい?」

「今日は買い物ついでにこの子に町を見せて回っていての。」

「んん?なんだその子?孫か?」

「捨て子を拾ったんじゃ。まあ、ほぼ孫のようなものじゃの。」

「ふーん成る程な。ボク〜お名前教えてくれるかな〜?」

「ミコトです。1さいちょっとです。」

「へぇっ!?随分お利口なんだな〜!って1歳?マジか?」

「儂も驚きじゃよ。アインに歴史を学んだ後は儂に薬学まで教わっとる。天才児じゃな。」

「えへへ…」

「はぇ〜……そういえばアインさん達は元気か?」

「いや…アインは少し前に…の。」

「おっとそりゃすまねぇ。そうか……アインさんが……」

「まあ皆歳が歳じゃからな。遅かれ早かれ皆そうなるんじゃよ。もし皆居なくなってしまったらお主が面倒見てくれんかの?」

「おいおい、縁起でもない事言わないでくれよ。で、買い物に来たんだろ?いつものでいいのか?」

「そうじゃったな。うむ、いつものに加えてこのメモに書いてある物もあるかの?」

「えーっとどれどれ……おう、これならあるぜ。ちょっと待っててくれ。」


男は店の奥に行き、少しすると紙袋を持って出てくる。


「ほいよ。」

「ありがとの。お代はここに置いておくぞい。」

「へいまいど。」

「ではまたの。」

「おう!また来てくれよ!おっとそうだ。ボク…ミコト、だったな。俺の名前はアリウス。ここで雑貨屋を営んでる。また機会があれば来てくれよ?」

「はい!」


2人は店を後にし、再び大通りの賑わいの中に戻っていく。ふと降助のお腹が鳴る。


「あ…」

「ふむ。少し早いが昼食にしようかの。帰るためにも体力が必要じゃしの。近くに良い店があるんじゃ。そこに行ってみるかの?」

「いきたいです!」


少し歩き、大通りから外れたところまで行くとレストランに着く。中に入ると元気な給仕の女性がやって来る。


「いらっしゃいませー!あ、ハクさん!お久しぶりですねー!…ってその子は?」

「少し前に捨て子を拾っての。今儂らで育ててるんじゃよ。」

「ミコトです。1さいちょっとです。」

「わぁ〜!可愛い〜!しかもお利口さん〜!」


女性はしゃがんで降助を撫で回す。


「あう……」(俺は犬か何かかと思われてる…?)

「…っとコホン。席に案内しますね。」


2人は席に座ると早速料理を注文する。暫くすると焼いたパンにベーコンと卵を乗せたものやサラダが運ばれてくる。


「お待たせしました!」

「ここのベーコンエッグトーストは絶品での。ほれ、ミコトも食べてみぃ。」

「いただきまーす…はむっ……もぐもぐ……うん!とってもおいしいです!」

「くっ…この笑顔……守りたいッ……!!」

(このお姉さん真面目に働いてんのかな)


ひとりでに悶えている女性をよそに降助はサラダも食べていく。


「うん。おいしいですね。」

「へぇ〜野菜の好き嫌いとかしないんですね。偉い!」

「やさいはおいしいしけんこうにもいいですからね。」

「賢いッ!そして偉いッ!くっ…!!」

(本当に大丈夫かなこの人…)


更に悶える女性を放って料理を食べ終えた2人は会計を済ませ、店を後にする。


「また来たくださいねー!」

(まあ料理は美味しかったしまた来ても良いか……)

「では帰るとするかの。」

「はーい!」


それから2人はまた山道を歩き、森を進んで館に辿り着く。


「はぁ……つかれた……」

「今日はよく歩いたの。しかし年寄りにこれはちときついのぅ…」

「お、おかえりさん。今日は沢山歩いたみたいじゃしな。早いが風呂に入ってゆっくりしたらどうかの?」

「あ、コウさん…そうします。」

「儂は買った物を片付けないといかんからの。後にしとこうかの。」

「分かった。」


降助は風呂場で桶いっぱいのぬるま湯を浴び、専用で作られた浅めの湯船に浸かってリラックスした。

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