第76話 告白
冬休みが始まり、館で修行を開始してから早数日。降助達は元の世界で言うところのクリスマスを迎えていた。
「ねえ、こーちゃん。そういえばこの世界ってクリスマスとかあるのかな?」
「あー…確かにどうなんだろう…新年のお祝いはあったけど、ハロウィンとかクリスマスはやった事無いなぁ…」
「だよね…私の家でもやった事無いし…まあいいや。こーちゃん、今日は私とお出かけしよ!」
「え?まあ、修行も今日は休みだし良いけど……」
「じゃあ早速しゅっぱーつ!」
「あっちょっと…!」
クレイは降助の手を引いていき、館を出て麓へ向かう。が……
「はぁ…はぁ…け、結構キツいねこの道…!」
「だから館を出た時にディメンションチェストで行くか訊いたのに……」
「い、いや!今日は歩いて行きたいの!」
「そ、そう…もしキツそうならおぶってくけど…」
「えっじゃあお願いします」
「わあ即答」
降助はクレイをおぶって山道をどんどん下っていき、あっという間にスタトの街に到着する。
「じゃあ降ろすよ。」
「うん。ありがとう。」
「それで、どこに行くの?」
「腹が減っては戦はできぬ!まずはどこかでご飯食べようよ!」
「分かった。じゃあ……あのお店とかどうかな?」
「いいね!行こう行こう!」
2人は適当なレストランに入り、料理を注文する。少ししてミートソーススパゲッティとサラダ、スープが運ばれてくる。
「「いただきまーす」」
「う〜ん!おいし〜!」
「そうだね。温かいスープが冷えた体に染みるよ。」
その後、食事を済ませた2人はレストランを出て市場へとやって来ていた。
「私から言い出したのに奢ってもらっちゃってごめんね。」
「大丈夫だよ。それに、あそこで俺が払わないと格好がつかないでしょ?」
「ふふっ。こーちゃんは優しいねー。あ、このアクセサリー可愛いかも!買っちゃおうかな。」
「俺が買おうか?」
「いやいや!流石にこれは自分のお金で買うよ!なんでもかんでも払わせたら私ヒモみたいじゃん!」
「あ、それもそっか…」
それからは日が暮れるまであちこちを回り、沢山買い物をした2人は、人気のないちょっとした広場のベンチに腰掛ける。
「いや〜沢山買い物しちゃったね!」
「そうだね…靴に、服に、アクセサリー…だいぶ買ってたけど帰る時とか大丈夫?結構荷物とか持ってきてなかった?」
「……あ。」
「えぇ……」
「ま、まあ大丈夫だよきっと!うん。多分なんとかなる!」
「本当かなぁ…?」
「なるよ!多分!」
「…まあ、もし大変なら手伝うよ。」
「ありがとう。本当にこーちゃんは変わらず優しいね。」
クレイは荷物を置いてベンチから立ち、降助に問いかける。
「ねえ、覚えてる?小さい頃、風で飛ばされた私の帽子を取りに行ってくれた事。」
「ああ、あの時ね。確か庭に怖い犬を飼ってた怖いおじいさんのとこの木に引っかかったんだっけ。登って取ろうとして、取ったは良いけど足を滑らせて落ちて。犬に見つかって吠えられて噛み付かれるし、おじいさんに見つかって拳骨も落とされて。……改めて思い出すと踏んだり蹴ったり過ぎでは?」
「あはは。そうだね。私もあの時は拳骨はあんまりだと思ったよ。後は…うっかり鍵を家に置いたまま学校に行っちゃって、家に入れなくなった時も親が帰って来るまでずっと一緒に居てくれたし、ブランコからジャンプして足を捻った時はおぶって家まで連れて行ってくれたよね。」
「全部覚えてるよ。ほんと、そら姉って変なところで鈍臭いよね。」
「いっつもこーちゃんに助けてられてたよね。おっかしいなぁ…私って一応年上だったよね?」
「その筈なんだけどねー。」
「……それから引越しちゃったけど、また会えて、最後も私を助けてくれた。」
「助けたなんてそんな…俺は大した事もできないまま死んだだけだよ。そのせいでそら姉も……」
「ううん。こーちゃんが気に病むことは無いよ。…ねえ、ちょっと立ってみてくれる?」
「うん。」
降助が立つと、クレイは振り返って降助の前まで歩いて来る。
「昔は私の方が背が高かったのに、今じゃ逆になっちゃったね。」
「そうだね。」
「……その。こーちゃんにずっと、伝えられなかった事があるの。」
「…うん。聞かせて。」
「好きです。君のその優しいところが。頼りになるその格好良さが。ずっと、ずっと大好きです。だから、私と…付き合って、ください。」
想いを打ち明け、赤くなったクレイの顔は夕日に照らされ、より一層赤く見えた。それからひと呼吸置いて、降助が答える。
「……俺も、そら姉の事が好きだよ。いつも明るくて、ちょっと抜けてて。でも、それがとても可愛くて。一緒に居た時間はそんなに長くはなかったけれど、とても楽しくて、心地良かったと思ってる。できればまた、そんな時間を一緒に過ごしたい。」
「じゃあ…!」
「うん。俺からも、よろしくお願いします。」
「こーちゃん!!」
「うわっ…とと。」
クレイは降助に飛びつき、互いに抱きしめ合う。
「とっても嬉しかったけど、『抜けてる』は余計だよ!」
「でも事実じゃん。」
「ぐぬぬ……」(何とかしてギャフンと言わせてやるっ!……そうだ!)
クレイは何かを思いつくと、顔を上げて降助の顔を見つめる。
「ねえ、折角付き合う事になったんだからアレ、してよ。」
「あ、アレ…?」
「アレだよアレ。ほら。んー…」
クレイは目を閉じ、顔を近づける。
「…!」
(ふっふっふ…焦ってる焦ってる!ホレ見た事か!私を舐めてると痛い目に―)
その瞬間、クレイの唇に柔らかい感触が伝わる。柔らかい感覚は暫く続き、それが終わると同時にその場に座り込んでしまう。
「そ、そら姉…?」
「こ、腰抜けちゃった……」
「締まらないなぁ…」
結局、降助が大量の荷物を抱えながらクレイをおぶって帰る事になったのだった。




