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第73話 ヘルンジ

突如現れた謎の敵による襲撃から数日。それ以上問題は起きる事なく合同合宿を終え、降助達はシューヴァルト学園へと帰ってきていた。


「ふぅ〜…疲れたなぁ……」

「そうだねぇ…結局、あいつらは何だったんだろうね?」

「さあな。それよりコウスケ、ちょっとこの後ツラ貸せ。」

「え?なんで?」

「別に何だっていいだろ。いいか、必ず来いよ。来なかったらぶっ飛ばすからな!」

「わ、分かったよ……」


放課後、降助はシューヴァルト学園の校門前で待つガーヴの下へ向かう。


「お待たせ。それで、何するの―」

「ついてこい。」

「ちょっと…!」


そのままガーヴは何も言う事なく、バラシアン第一学園都市を出てすぐの森の中へ降助を連れ、開けた場所で止まる。


「…で、こんなところまで来て何をするのかそろそろ教えてもらってもいいかな?」

「コウスケ。オレと決闘しろ。」

「…なんで?」

「テメェ、この前学園が襲撃された時からまた強くなってるだろ。」

「ま、まあ。でもそれと何の関係が―」

「その力を、この目で確かめてやる!!」

「ちょっ…!」


容赦無く炎を纏った剣で攻撃してくるガーヴに対し、降助は腕にマナを纏わせ、炎を散らしながら剣を防ぐ。


(コイツ…!あの人型ヘドロと同じように、全くスキルが効かねぇ!炎が消されるし剣自体も通らねぇ!)

「ちょっとガーヴ!一旦話を―」

「《フレイムスラッシュ・バースト》!!」

(早くなった!いや、それだけじゃない…攻撃が少し重くなった?ふむ。バーストと言っていたし、剣が何かに触れる瞬間に少し爆ぜてるのか…!)


ガーヴの攻撃は更に激しさを増すが、降助は変わらず全て防ぎ続ける。


(クソッ…!まだ攻撃が通らねぇのか…!)「へっ…どうしたんだァ?コウスケ!そっちから攻撃できねぇのかァ!?」

「…分かった。こっちからもいかせてもらう!!」

「うおっ―ぐはっ!」


降助はガーヴの剣を受け流して逸らし、腹部に掌打を叩き込む。


「ぐ…くっ…!」

「で、なんで決闘するのか教えてもらっても―」

「まだだァ!!」

「っ!」


降助の質問を無視し、ガーヴは激しい攻撃を続ける。


「いい加減に……しろっ!!」

「がはっ!?」


痺れを切らした降助はガーヴの剣を弾き飛ばし、数発殴って背負い投げで地面に叩きつける。


「はぁ…はぁ…はぁ…!」

「…で、そろそろ話を聞かせてくれる?」

「……そうだな。テメェには負けちまったし、話しとくか。……実はオレは貴族なんだ。いや、元貴族、ってとこか。」

「……へ?」

「ガーヴ・ヘッジは母方の旧姓で本当はガーヴ・ヘルンジなんだよ。オレの名前はな。」

「ま、待って…唐突過ぎて理解しきれてないんだけど…ガーヴが?元貴族?それと決闘と何の関係が…?」

「ああもういちいちうるせぇな…黙って聞きやがれ…そんで、オレの親父と兄貴がお袋とオレを追放したんだよ。」

「え…なんでそんな事を…」

「知るかよ。あんなクソ野郎共の考えなんざ。ま、オレのお袋は妾だったから雑な扱いをしたんだろうけどよ。んで、あの家にゃ変わった伝統があってよ。目上の者に対して意見がある時には決闘を申し込んで勝った方の意見が最終決定になる。オレはそいつで親父と兄貴をぶっ飛ばしてぇんだよ。」

「だから決闘で力をつけようとした、ってところか。」

「そうだ。」

「変わった家だなぁ…で、決闘を挑む理由は分かったけどなんでこのタイミングで?」

「合同合宿で襲撃が起きた時に会ったんだよ。兄貴に。そんでまあ、ちょっと色々あってな。」

「ふーん。で、ガーヴはこれからどうするの?もっと力をつけるの?」

「当たり前だろ。」

「…じゃあ、俺の修行、受けてみる?」

「テメェの修行ぉ?」

「うん。割と強くなれると思うけど。」

「へっ…いいぜ。受けてやるよ。精々オレを(しご)いてみやがれ!」

「じゃ、冬休みから本格的に始めるって事で。」

「あぁ?今すぐじゃねぇのかよ?」

「何言ってるの…今はまだ学校もあるしそんなに時間取れないでしょ。」

「チッ…しゃあねぇな……じゃあそれまで我慢してやるか……」


一方その頃、とある屋敷では…


「ただいま戻りました、父上。」


そう言って、長い赤髪を後ろで束ねた山吹色の瞳の青年は、足を組んで頬杖をつきながら大きな椅子に座る赤茶色の髪と顎髭、右目の周りについた傷が特徴の男の前に跪く。


「おう、ラーヴェか。どうだった、合同合宿は?」

「そうですね。はっきり言ってくだらない茶番でした。まったく…平民などと共に合宿など…学園長は何を考えているのだか。」

「ふん。流氷のシグルド…元冒険者風情が貴族の教育者など、笑い話も良いところだ。もっと相応しい人材もいるだろうになあ?」

「まったくです。…そうだ、もう1つありまして。」

「ほう?」

「あの出来損ない(ガーヴ)に会いましたよ。」

「ああ、そうか。そういやあいつもシューヴァルト学園に入ってるんだったな。」

「相変わらず、突っ込む事とあの女の事しか頭にない馬鹿でしたよ。」

「はっ…いかにも出来損ないらしいな。」

「では俺はこれで。」

「おう。」


更に時は夜、ウルボ盆地にて。アビス・ホールに王国の研究機関であるルリブス学者団とシグルドが集まり、調査を行っていた。


「これがアビス・ホール……」

「来るのは初めてかい?」

「あ、はい。しかし、こんな何ともない深いだけの穴からマナが大量に噴射されただけでなく、人型になって襲ってきただなんて…にわかには信じられませんね。」

「まあ、まだマナについてはあまり解明されてないし、このウルボ盆地の歴史についても分かってない事があるからね。」(しかしマナか…数百年…下手すれば数千年前の可能性があるものが何故ここに……これは、マナだけじゃなく、この国…いや、この世界の歴史を調べ直す必要がありそうだな。)

「シグルドさん?どうかなさいましたか?」

「…確かルリブス学者団には歴史研究部門があったよね?」

「ああ、古書館に籠りきりの人達ですね。彼らがどうかしたんですか?」

「少し、歴史についても調べようと思ってね。」

「分かりました。手配しておきます。」

「よろしく頼むよ。」(コウスケ君からの報告にあった魔王軍の魔族に、また別の勢力のリスタという男。そして何かしらの意思を持って襲い来るマナ…この世界に一体、何が起きようとしているんだ……?)






第5章 魔王軍侵攻編 -完-

これにて第5章が終わりとなります。この後の第6章からも盛り上がる…筈、なので楽しみに待っていただけると嬉しいです。

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