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第69話 激突

「ガフッ…ゴフッ…」

「《マジックエリクサー》!」

「う……」

(ふう…何とか間に合ったかな……でも、随分血を失ってる……早くしないとマズそうだな…!)

「よそ見してると死ぬわよ?」

「ッ!」


いつの間にか眼前に迫っていたナイフを思いっきり仰け反って躱し、そのまま地面に両手をついて蹴りを入れる。


「ふぅん…やっぱり、中々やるわね。ルムザが苦戦するのも納得……かしら?」

「《乱飛斬》!!」

「あら、危ないわね。でもこんなもの全て弾いて―」


乱飛斬は弾かれる事なくナイフを切断し、ジャックを掠めていった。


「ッ…!」


乱飛斬が掠めていった場所から血が滴り、頬から垂れる血を拭い、血で汚れた自身の手を見る。


「あ、アイツ…ジャック様に傷を…!」「い、一体どうなってやがるんだ…!?」「そ…それよりもマズくないか…?」「あ…!」

「よくも…よくも…!私の肌を…!私の血で汚させたわね…!」

「…ん?」(あれ?これってもしかして逆鱗に触れてしまったやつでは…?)

「ジャック様はその真っ白な肌や髪が殺した相手の血で染まり、映える事を好まれるが……」「自分の血で汚れる事を最も嫌う……!」「へ、へへ…これでアイツも終わりだな…!」

「殺してやるぞ、ガキ!!」


ジャックはすぐに新しいナイフを取り出し、圧倒的な速さで降助の目の前にまで迫り、ナイフを首元目掛けて突き出す。


「はっ!」

「ぐふっ!?」


降助は突き出されたナイフを左手で掴んで逸らし、右手でジャックの腹部に掌打を叩き込む。


(やっぱ、近距離のナイフ相手なら片手剣より無手かな…)

「ぐ…どうして…どうして、このナイフを握ったのに手に傷がないのよ…!」

「ああ、それはこういう事だよ。」


そう言って降助は手をグーパーさせる。ジャックがよく目を凝らして手を観察すると、シャボン玉のようにカラフルな半透明の何かが降助の手を覆い、ガントレットのようになっていた。


「何よそれ…!私のナイフは魔力か気でできているものなら斬れる筈よ!」(実際、ジミル様のバリアも容易く破壊はできずとも手応えはあった!なのに、なのに…全く手応えを感じない…!破壊できると、感じられない……!)

「まあ、俺の力はちょっと特別なんでね。」

「…ふん。いいわ。あなたがどんな小細工をしていようと関係ない。絶対に殺してあげるわ!!」

「来るなら来い!」


両者が再び激突しようとした瞬間、1組の男女が現れる。


「マスター。既に戦闘が始まっているようです。」

「やたら騒がしいと思っていたがやはりか。で、一体誰と誰が戦って―」

「お前は……!」

「えっ、何!?まだ誰か来るの〜!?」

「なんだと……!?」

「……!」


そこに現れたのはリスタとシャンだった。


「おい。アイツはお前が殺したんじゃなかったのか?」

「はい。あの時、確かに対象の胸を貫きました。心肺機能の低下も観測しています。」

「じゃあ何故生きている?」

「分かりません。」

「チッ…使えんやつめ…」

「ねえ、後輩君。あれ知り合い?」

「ええ、まあ。ちょっと色々ありまして。ところで、レインの回収はできましたか?」

「はいこれ。」


そう言ってカリカは小脇に抱えていたレインをその辺に転がす。


「……先輩はコイツ持って先生達のところへ行ってください。」

「えっ…後輩君はどうすんのさ!?」

「ここは俺1人でやります。」

「で、でも…!」

「大丈夫です。それに…正直に言うと…その…足手纏いになってしまうというか……」

「……ははっ。言うねぇ後輩君!そこまで言うなら任せちゃおっかな!」


カリカは再びレインを抱え、降助に背を向ける。


「…死なないでね。」

「はい。」


カリカは猛ダッシュでキャンプ地に向かい、あっという間に見えなくなった。


「マスター、どうしますか?」

「そうだな。あると分かっている障害を放置する必要も無いし……今度こそ殺せ。」

「了解しました。」

(来るッ…!)


突撃するシャンに対し、降助が片手剣を構えた瞬間、ジャックが割り込んでシャンの攻撃を止める。


「!」

「…!?」

「勘違いしないで。私はあなたを助けたんじゃなくて後ろのいけ好かない男に用事があるだけよ。」

「お、おう……」

「ねえ、後ろに突っ立ってるあなた。」

「ん?僕の事か?」

「そうよ。あなた以外に後ろに突っ立ってる男なんていないでしょ。」

「で?何か用かな?」

「この子に何をした。」

「何をした?ああ、僕の最高傑作の事が聞きたいのかい?じゃあ最初からそう言ってくれよ。僕の研究に関わる話ならいくらでもしてやるとも。そうだな…まずはどこから話すか……よし。コホン、彼女は賢者の生まれ変わりの魔族でね。いやあ、彼女を回収するのには苦労したよ。わざわざ西のシュラント大陸まで出向いてアシス大砂漠を歩き回り、魔族の村を焼き討ちまでしたからな。いやあ、本当に疲れた疲れた……」

「貴様ッ…!」

「おいおい、そう殺気立つなよ。まだ話は終わってないんだ。それでようやっと回収した素体…彼女をまあ弄くり回して…四肢を魔力で自在に変質する粒子に置き換えたり、体内に色々埋め込んだり…色々と改造して最後に洗脳。これで忠実かつ強力な兵士の出来上がりさ。」

「ッ!殺してやる!!」


ジャックはナイフを投げ、リスタの脳天に命中させる。


「やれやれ…これだから魔族は野蛮で困る……ま、そうじゃなきゃ戦争も仕掛けない、か。」


リスタは何事も無かったかのように脳天に刺さったナイフを抜く。すると、瞬く間に傷口が修復されていき、完全に直る。


「チッ…!」

「どういう事だ…?あいつらはお前の仲間じゃないのか?」

「はあ?何を言ってるのよ。私達魔族は仲間を大事にする。決して見捨てないし、裏切らない。ましてや、あのように(もてあそ)ぶ事は絶対にしない…!」


激しい怒りを(あらわ)にしながら、ジャックはそう言った。


(あいつらは魔王軍じゃない…!?じゃあ一体、あいつらはなんなんだ…!?)

「とにかく、今は獲物はあの男にする。あなたは好きにすればいいわ。私の邪魔をしてもいいし、一緒にあの男を殺しても構わない。もし前者ならまとめて殺してあげるし、後者なら…あの子を傷つけたら殺すわ。」

「…元から傷つけるつもりはない。」

「あらそう。じゃあ一時共闘といこうかしら。」

(まさか…一時的とはいえ魔王軍の幹部と共闘する事になるなんて……世の中何があるか分からないなぁ…)

「行くわよ!」

「ああ!」


2人が駆け出した瞬間、アビス・ホールから突如としてヘドロの様なものが吹き出した。

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