第67話 合同合宿
ルリブス王国上空。シューヴァルト学園の平民部と貴族部の生徒、そして数名の教師を乗せた2つの飛空艇はイゾルツク連邦国の南東に位置するウルボ盆地へやって来ていた。事の発端は数時間前に遡る。
「今からウルボ盆地に合同合宿に行くんで飛空艇乗り場に行きます!!」
シグルドがそう言った直後、生徒(主に貴族部)から非難の嵐が巻き起こる。
「まあまあ落ち着いてください。これにはちゃんと目的があってですね。魔王軍の侵攻が増えつつある今、君達生徒は手を取り合って協力し、この事態に備える必要が―」
「合同合宿の必要は無い!」「我々貴族部の力だけで充分だ!!」「下民どもは引っ込んでろ!!」
「あー駄目だこりゃ……」
自分勝手な意見を騒ぎ続ける貴族部に対し、平民部は明らかに嫌そうな雰囲気を漂わせ、ぶつぶつと不満を言う者もいた。
「はあ…なんで貴族部はいちいち突っかかってくるのかねぇ?」
「さあ?貴族サマの考える事は僕には分からないよ。」
「同感。オレもだ。」
「ここまで言う必要は無いと思うんだけどなぁ……」
「静かに!!」
周囲がどんどん騒がしくなっていく中、シグルドが一喝すると、講堂がしんと静まり返る。
「君達はこの前の襲撃から何も学んでないのか?魔王軍の脅威を認識し、団結して戦う事の重要性を意識しなかったのか?もう既に戦争は始まっているんだ。いつまでもいがみあってる場合じゃない。」
貴族部と平民部両方に思い当たるところがあったのか、反論は無く静まり返るだけだった。
「……分かったのなら出発します。各自荷物をまとめて校門に待機しておくように。」
その後、多少ざわつきはしたものの飛空艇乗り場に向かい、今に至る。
「あ、見えてきたよ!」
「そういえばウルボ盆地ってどういうところか知ってる?」
「僕もあんまり詳しくはないけど…最高で4000メートルも窪んでる場所がある盆地の集合体がウルボ盆地なんだって。」
「よ、4000メートル……」(富士山の標高より深いのか……)
やがて飛空艇は平らな土地に着陸し、次々と生徒達が降りていく。
「これからグループ発表を行う!平民部、貴族部はそれぞれクラス毎に並んで待機!」
「あれ、ルーク先生もいるんだ。」
「一応ここも魔物が出るみたいだし、戦える先生は何人か一緒に来るらしいよ。」
「そうなんだねぇ。って、コウスケ?」
「……」
「おーい。コウスケー?」
カイトが数回呼びかけるが反応がなく、肩を強く揺さぶってようやく気が付いた様子だった。
「大丈夫かい?かなりぼーっとしてたみたいだけど?」
「ん?ああ、うん。大丈夫……」
「もしかして飛空艇酔い?」
「いや、コイツ前に武術科でウードの街に行った時は平気そうだったぞ。」
「そうなの?」
「気にしないでいいよ。俺は大丈夫だから……」(ここに来てから変な感じがする……これは一体……?)
生徒達が整列し終えたのを確認したルークは、上部に穴が空いた箱を取り出す。
「グループはくじ引きで決める。同じ柄を引いた者で集まり、代表者を決めてテントを取りに来い。」
貴族部に続いて平民部の生徒がくじを引いていき、全員のグループ分けが終了する。
「えーっと、鷹の模様のグループは……あ、あそこか。」
降助が向かった先には既に他のメンバーが集まっており、2人の少女と1人の青年が居た。
(あれ……見知った顔が……)
「あ、ヴィアく…さん!」
「クレイも同じグループだったんだ。」(そっか、2人きりじゃないからよそ行きの口調か。)
「ええ。では全員揃ったようですし、改めて自己紹介しましょうか。私は貴族部1年、Aクラスのクレイ・フィルソニアです。よろしくお願いしますね。」
クレイに続き、ネコ耳が生えた黒髪目隠れの少女が自己紹介をする。
「うちは平民部2年、Aクラスのカリカ・クーキュだよ〜。気軽にカーちゃんって呼んで〜って、そりゃお母さんになっちゃうじゃないかいっ!」
カリカはノリツッコミをしながら、尻尾をゆらゆらとさせ、反応を伺った。
「「「………」」」
「はぁ……やらかした……はっず……むり…しぬって…黒歴史だよ〜こんなの……」
「え…えーっと……平民部1年、Aクラスのヴィア・カルゴです。よろしくお願いします……」
「よろしくね〜後輩君。」
「最後は貴方の番ですよ―」
「ふん。俺は貴様らのような下民と馴れ合うつもりは無い。それより、さっさとテントを取りに行けよ。」
紺色の髪の青年はそう言って1人その場を離れ、近くの木陰にある石に腰掛ける。
「あいつは?」
「貴族部1年、Aクラスのレイン・ラジットだよ。」
「レイン・ラジット…なんか感じ悪いなぁ……」
「ちなみにルリブス王国第2王子で、兄がいるんだけど、それがあそこにいる貴族部2年Aクラスのクウル・ラジットだよ。」
クレイはそう言って少し離れた場所に立っている青年を指さす。
「ああ…言われてみるとそっくりだ……」
「兄の方はそんなになんだけど、彼は差別意識が強くて…だから、私達だけで頑張る感じになっちゃうかな……」
「しょうがないか。じゃ、俺がテント取ってくるよ。」
「いいの?」
「うん。じゃ、行ってくる。」
「ありがとう。」
降助は駆け足でルークの下へテントを受け取りに走っていった。
「随分と仲が良いんだね〜」
「きゃっ!?」
「あ、失礼。ヴィア君とはどういったご関係で?」
「えっと……昔、魔物に襲われた時に助けてもらって…それから学園でも時折会う事があって、というくらいです。いわゆる、友達ですよ。」
「あら残念。てっきり恋仲だと思ったのに……」
「こっ…恋っ……!」
「わあ。顔真っ赤じゃん。」
カリカの思わぬ一言に赤面し、口をパクパクさせていると、テントを持った降助が帰ってきた。
「テント持ってきたよー…って何かあった?顔が赤いけど……」
「い、いや!なんでもない!なんでもないから!」
「ふふふ。クレイ様、口調が崩れてるよ〜」
「あっ…これは……」
「ん??」
「さ、テントも来たし組み立てちゃお〜。約1名、手伝う気も無さそうだけど。」
カリカはレインを睨みつけるが、当の本人は全く気付いてない様子でふんぞり返って座っていた。
「…じゃあ始めよっか。俺がこっち持つからそっち押さえてもらっていいかな?」
「はーい。」
組み立て作業はレイン抜きで進められ、いよいよ平民部、貴族部合同の合宿が始まるのだった。
最近何かと忙しくなってきて更新ペースが更に落ちてきていますが、気長に待っていただけると嬉しいです。
時間は無いけど書きたい欲はあるんです……!




