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第65話 圧倒的な実力差

降助は魔物の軍勢を一掃すると、軍勢が居た場所の更に奥の方を見渡す。


「んー……あそこか。」


目視でおおよその位置を確認し、ディメンションチェストの中に入っていく。


「ほ、報告します!」


重たそうな鎧を着たオークはドスドスと走ってきて、ボスらしきオークの前に跪いた。


「何事だ?」

「先程進撃した部隊が全て壊滅しました!」

「何だと?一体どうなっている?」

「わ、分かりません!突然街から火の雨が降ってきたかと思ったら一瞬で焼け野原に―」

「《乱飛斬》」


突如暴風が吹き荒れたかと思うと、周りにいた配下達はみじん切りにされ、報告をしに来たオークも首から上が消失しており、がしゃんと音を立てて倒れた。


「な、なんだ貴様は!?い、一体何をした!?」

「見ての通り、あんた以外はみじん切りにした。」

「ば、馬鹿を言うな!どんな手品を使ったか知らんが、お前のような小僧にそんな事ができるわけ…!」

「もう話す事は無いし、このまま倒していいかな?」

「くっ…ふざけるなガキがァッ!死ねえぇ!!」


オークと同じくらいの大きさの岩でできた大剣が振り下ろされるが、降助は右手で掴んで簡単に受け止めてみせる。


「ぐっ…!ふっ…!ふんぬぬっ…!ば、馬鹿な…!押し込めない!」


押し込めないのならと大剣を引こうとするが、降助にガッチリと掴まれ、まったく動かす事ができない。


「動かんだと…!?」

「…ふっ!」


降助が手に力を込めると、大剣にヒビが入っていき、ヒビが伝播して刃の部分が全て粉々に砕け散る。


「あ…あり得ない…!お、俺様は魔王軍幹部になる男…ピグオ様なんだぞ…!こ、こんな馬鹿な事があってたま―」

「そんな事知らんよ。」


降助は粉々になった大剣の破片を掴み、ピグオの脳天目掛けて投げつける。


「《索敵》…よし、敵もいなくなったみたいだし帰るか。」


降助はディメンションチェストでその場を後にする。降助が居た場所には、無数の血溜まりと首の無いオーク、脳天を貫かれ、絶命したピグオが転がっていた。


「ただいま。」

「あ、師匠!どこ行ってたんだよ!?」

「ちょっと攻めようとしてた魔王軍を全滅させてきた。」

「ぜ、全滅!?」

「あ、なんなら見てみますか?《ディメンションチェスト》…この先に行けば魔王軍が居たところまで行けますよ。」

「…コウスケよ。お主、どうなっている?」

「へ?どうなってるって…師匠になんかあんのか?」

「外見は…特に変わっていませんが…」

「あ、ヴニィルには分かるんだ?」

「我を舐めるな。今のディメンションチェスト、魔力を使ってないだろう?というより…魔力も無ければ気も無いようだが…本当にどうなっている?」

「え!?魔力が無い!?」

「気も無いってどういう事だよ!?」

「コウスケ君、まさか君は―」

「シグルド学園長も分かるんですね。……はい。俺はマナを使えるようになりました。」

「「!!」」

「マナ?何だそりゃ?」

「マナというのは大昔…我も生まれる前くらいまで遡る。それくらいの時代に存在していたものでな。魔力や気よりも遥かに強力な力の源なのだ。」

「はははっ、君が生まれるくらい前って俺とそんなに変わんないんじゃないの?君何歳?」

「あっしまっ…」

「なーんてね。君がかの有名な邪龍なのは気付いてたよ。」

「なっ!バレていたのか…!」

「まあ、今は特に悪さはしてないみたいだったから放っておいてたけどさ。で、話を戻して、コウスケ君は一体どうやってその力を?」

「それは…」


降助は神についてはある程度伏せつつ、1ヶ月の間に修行をしていた事を話した。


「あの世とこの世の狭間でとある男と一緒に修行…そんな不思議な事があるんだね。」

「まあ、はい。そうですね…」

「へー、だから師匠は1ヶ月も寝てたのか…ホント、待たせすぎな!」

「ごめんごめん。あ、学園長、魔王軍はもう倒しちゃいましたけど、この後どうするんですか?」

「あーそれね。ま、とりあえずはここのお偉いさんに報告しないとだね。えーっと…会議室の場所は―」

「あっ!居たぞ!」

「ええっなになに!?」


突然、降助の元へ兵士達がやって来て、ビシッと整列する。


「タリミアの窮地を救っていただき、感謝する。この事についてフルイア様がお呼びだ。是非ご同行願いたい。」

「あ、丁度良かった。俺らもそっちに向かうところだったから、ついてってもいいかな?」

「あなたは…シグルド様!?わ、分かりました。それではついてきてください。」


一行は兵士についていき、街で1番大きな建物の4階にある部屋に案内される。


「フルイア様、お連れしました。」

「どうぞ。」

「失礼します。」


部屋の中で待っていたのは、金髪縦ロールのいかにもお嬢様な女だった。


「や。久しぶりだね、フルイア。」

「あらシグルド様。久しいですわね。お連れの方々もどうぞおかけになって。」

「あ、はい。失礼します。」

「まずは自己紹介から。わたくしはフルイア・ナイプス。ルリブス王国第3騎士団の団長とこの街の管理をしておりますの。」

「俺はコウスケ・カライトです。シューヴァルト学園の1年生で、プラチナランク冒険者もやってます。」

「オレはクーア!師匠の弟子その1だ!よろしくな!」

「私はトーカっていいます。クー姐の義妹で、師匠の弟子その2です!」

「私はベルといいます。ロトウィーナス教のシスターで、えっと…師匠の弟子その3、です…」

「我はヴニィルだ。よろしく頼む。」

「ええ、よろしくお願いいたしますわね。それでは早速ですけれど、何があったかお聞きしてもよろしくって?」

「はい。まずは―」


降助はまず先遣隊をファイアレインで一掃し、次に本隊のところに行ってこれも全滅させた事を報告した。


「成程。素晴らしい手腕ですわね。もしかして、そちらの方々とパーティーを組んでいらっしゃるのかしら?」

「あ、はい。パーティーは組んでますけど、全部俺1人でやりましたよ?」

「…今なんと?」

「全部俺1人でやりました。」

「に、にわかには信じ難いですわね…ですが…プラチナランクである事を考えればあり得るのかしら…?」

「うーん…コウスケ君、ディメンションチェストで戦った場所と繋げられる?」

「はい。できますよ。」

「じゃあ、まずはファイアレインで一掃したところにお願いしてもいいかな?」

「分かりました。《ディメンションチェスト》」

「な、なんですのこれ!?」

「彼の自作魔法。本当はアイテムボックスみたいなものなんだけど、おまけでワープ機能もついてるんだってさ。」

「な、何を言っているのか全く理解できませんわ!?」

「これが彼の力なんだって受け入れるしかないよ。ほら、行こう行こう。」

「あ、先に言っておきますけど、3秒以上滞在すると時間停止の影響を受けて動けなくなるんで急いでくださいね。」

「じ、時間停止まであるんですの!?」


驚愕するフルイアと共にディメンションチェストを通り、降助がファイアレインで焼け野原にした場所に到着する。


「ねえコウスケ君。敵の軍勢についてもうちょっと詳細に説明できるかい?」

「はい。この焦げてる部分にミッチリと鉄製の鎧を着込んだオークの軍勢が居て、ちょいちょい上位種のオークリーダーとかが居たって感じです。」

「成程ね。」

「これは元プラチナランクから見てどうなんですの?」

「魔法っていうのはさ、デフォルトがあるわけよ。一定の威力、一定の範囲。ファイアレインをこの広大な範囲まで広げて尚且つ、鉄製の鎧すら残らない程の威力にするとなると…まあ、よっぽどの実力者じゃないと難しいかな。それこそ賢者クラスの。」

「やっぱ師匠ってすげーんだな〜」

「これは凄いの一言で表していいんでしょうか…?」

「でも実際凄いとしか言えないよね…」

「こうしてコウスケの力を見ると…よく初対面の我は死ななかったな……」

「まあ、あの時は別に殺すつもりでやってなかったし…」

「…なんだか次を見るのが怖くなってきましたわ。」

「…それじゃあ、本隊の方もお願いできるかな?」

「あ、分かりました。」


続いて本隊が居た場所へ、ディメンションチェストで移動する。


「あそこに転がってるオークはなんですの?」

「あ、あれがボスです。」

「…脳天が綺麗に貫通してますわね。どんな技を使ったのかしら?」

「大剣を砕いて投げただけです。」

「はい?」

「その辺りになんか破片が転がってませんか?」


フルイアは辺りを見回し、石ころのような破片を拾い上げる。


「ああ、これですわね。」

「それを投げました。」

「…ちなみにどんな大剣だったかも聞いてよろしくて?」

「あ、はい。そこのオークと同じくらいの大きさで、大剣っていうよりはデカい岩を引っこ抜いて研いだ棍棒みたいな感じでしたけど。」

「それを砕いたそうですがどうやって砕いたんですの?」

「普通に右手で受け止めて砕きましたね。」


フルイアが驚きを通り越して若干引いてるような、呆れているような顔でシグルドを見るが、シグルドも、苦笑いで返す。


「まあ、そんな事できるやつ知り合いにはいませんね。」

「我もこれくらいはできるぞ?」

「え、そちらの方もできるんですの?」

「ああ、彼はヤーラマ山脈に住むあの邪龍サマだからね。確かに、彼ならできるか。」

「…充分驚くべき事なのに感覚が麻痺してさほど驚きませんでしたわ。」

「それは俺も同感。」

「ところで、この辺りに赤い草なんて生えてたかしら?そんな記憶は無いのだけれど。」

「ああ、本隊に居たオークの血ですね。」

「ああ、そうなんですのね。それで、倒したオークはどこへ?」

「ここです。みじん切りにしたので固形の何かは残ってないかもしれませんけど。」

「みじん切り…」

「はい。乱飛斬でスパパっと。」

「これじゃあみじん切りというか…」

「もうほぼ消滅してるようなもんだよな。」

「塵だよ塵!」

「…一旦帰りましょうか。」

「分かりました。」


降助達はディメンションチェストで先程の部屋に帰っていった。

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