第63話 新たな修行
「―い。―なよ。―。コウスケ。おーい。」
「う…」
「起きてーコウスケー。おーいおーい。」
「ここは…?」
「あ、起きた?」
「…?その顔…どこかで…」
意識をはっきりさせつつ辺りを見回すと、そこには見覚えのある極彩色の空間が広がっていた。
「…あ、貴方は転生を司る神様!」
「その通り!覚えてくれてたんだね。」
「…って事は…俺、死んだのか……」
「いや、厳密には死んでないよ。」
「え、そうなんですか?」
「うん。まあ、厳密には死んでないだけでほぼ死んでいるようなものだけど…」
「一体どうなってるんですか?」
「そうだね、まず今の君の状態だけど…まず魂をこの空間に留めてある。そして、肉体の方はあの世界で仮死状態になってるよ。要するに、君の魂が肉体に戻れば普通に生き返るし、今すぐにでもそれはできるよ。」
「そうなんですね。じゃあ早速お願いしても―」
「駄目だよ。」
「え?」
「君はここでもう一回修行をしなくちゃいけない。」
「なんでですか…?」
「いや、君負けて死にかけじゃん。」
「確かに、そうですけど…」
「君、言ったでしょ?他の人も守って自分も死なずに済むくらい強くなりたいって。」
「確かに言いましたね……って、そうじゃないですか!今俺死にかけですよ!?どうなってるんですか!?」
「いやまあ、そうなるよね?僕だってね、状態異常無効とか成長率倍増とか付けたし、賢者達の住んでた館を狙って送り出したし、順調に強くなってたから大丈夫かなって思ってたんだけどさ?」
「むむむ…」
降助は半信半疑な表情で神を見て訝しむ。
「君、何か勘違いしてない?言っとくけど、主神とか凄い偉い神様ならまだしも、僕みたいな神はそんな万能じゃないからね!?未来なんか見えないし…」
「そ、そうなんですね…」
「とにかく!暫くはここで鍛え直し!ほら、早く始めるよ!」
「は、はい!」
神が指を鳴らすと、極彩色の空間は一瞬で何も無い荒野に変わる。
「うわあ…」
「これからここで、僕が満足するまで修行をつける。肉体に魂を戻すにはどっちも同じ時間を過ごして情報を同期させないといけないから、いつ戻れるかは君の努力次第だよ。」
「それはつまり…早ければ明日には戻れるし、遅ければ何年もここに居るって事ですか?」
「そういう事。まあ、少なくとも明日ではないかな。」
「それで、まずは何から始めるんですか?」
「まずは君の力を取り戻す修行だよ。」
「力を取り戻す?」
「そ。君、ずっと力をセーブしてたでしょ?」
「はい。ざっと10年以上は…」
「そのせいで君本来の力が出せなくなってるんだよ。ずっと抑えてて全力の出し方を忘れちゃったって言えばいいかな。もっと簡単に言うと…体が鈍ってる…って事かな。」
「それで、どうやって取り戻すんですか?」
「もちろん、戻ってくるまでやり合うだけだよ。」
「え―」
神は瞬時に降助の目の前まで迫り、アッパーカットを決める。
「う……」
「あ、起きた?」
「俺は…確かアッパーカットをくらって…」
「一応僕の動きを目で追えてはいるみたいだね。でも体が間に合ってないからまだまだだよ。」
「一応…参考までになんですけど、どれくらい寝てました?」
「もう1日経っちゃったよ。いやー、時間が流れるのは速いね。」
「えっ!?丸一日寝てたんですか俺!?」
「うん。速攻でK.Oされてぐっすりと。」
「そうですか……」
「さ、起きたならまたやるよ。今の君は睡眠も食事も何も要らない状態なんだから、厳しくやっていくからね!」
「分かりました!お願いしま―」
言いきる前に再び神の拳が迫ってくるが、今回は即座にシールドを展開して対応する。幸い、1発K.Oはされなかったが、シールドは割られ、上方向に数メートルは吹っ飛ばされた。
「くっ…!」
「いいね!その調子でやっていこう!」
降助の着地の瞬間を狙い、神が一気に距離を詰めようとする。
「《合掌波》!」
「おっと…」
「はあっ!」
「よっ!」
降助と神は一進一退の肉弾戦を繰り広げる。
「よっ…と!」
「うぐっ!!」
降助は一瞬の隙を突かれ、腹部に回し蹴りをくらってしまい、よろけてその場に蹲る。
「オエ―」
「隙あり」
顎に蹴りをくらい、再び降助は気絶する。
「―う…また俺は気絶して…?」
「おはよう。今度は3日くらい寝てたよ。」
「痛った……ちょっと容赦無さすぎじゃないですか…?」
「うん。僕は君の師匠達と違ってこういう時はそんなに優しくないからね。ま、敵と違って命は取らないだけ優しいと思ってくれれば。」
「命って…もう魂だけの状態なのに死ぬとかあるんですか?」
「うん。むしろ魂だけの方が死にやすいよ?」
「えっ…」
「肉体は魂を保護するいわば鎧のようなもの。今の肉体を持たない君は丸裸も同然の状態なんだよ。」
「その割にはえげつない攻撃を受けてもピンピンしてるんですけど…」
「ああ、それは僕がマジックエリクサーを使っているからだよ。」
「マジックエリクサー?」
「そう。マジックエリクサー。最上位の回復魔法さ。ちなみに、地上じゃ扱える人はもう居ないと思うよ。とにかく、これで逐一回復してるから死なないのさ。」
「あ、ちなみになんですけど…俺も使う事ってできますか?」
「ん?まあ、できるんじゃない?魔法陣はこれね。といっても、すぐには―」
指先に魔法陣を展開して降助に見せ、神がちらり見ると、降助はマジックエリクサーの魔法陣を構築して発動させていた。
「《マジックエリクサー》…こんな感じですか?」
「……」
「えっと?」
「う、うん…今まで抑えてたぶん、出力はまだまだだけど魔法陣の構築自体は完璧だよ……」
「やった…!」
(あれ…成長率倍増ってここまで倍増してたっけ…?)「こほん。とりあえず、修行再開しようか。」
「はい!」
それからも肉弾戦は続き、途中から武器を使っての修行に変わったが、互角のまま戦いは続いた。
「…よし。ここまで。」
「…え?」
「おめでとう。ようやく体術や武器の扱いは元の力を取り戻したよ。なんなら、もっと強くなってるしね。」
「やった…!じゃあこれで―」
「じゃあ次は魔法の修行ね。」
「あー………」
「確か君は詠唱すると威力が高かったから、省略して抑えていたんだよね?」
「はい。そうですね。」
「じゃあ僕がシールドを展開するからそこに詠唱ありで適当な魔法を撃ってみて。」
「分かりました。輝く火の玉は触れるものを焦がす。《ファイアボール》!」
降助の放ったファイアボールは神のシールドに激突するが、傷ひとつつける事なく消えていく。
「う……」
「いや、これは正しい威力だよ。」
「そうなんですか?」
「うん。魔法に関しては詠唱と魔力を流す量だから、その辺の感覚さえ覚えてれば鈍るとかは特に無いんだ。つまり、魔法の修行は威力を上げたり、バリエーションを増やすのをメインに進めていくってこと。」
「成程…じゃあ、早速お願いします!」
「よし。まずは魔法の威力を上げるよ。」
「っていう事は…繰り返し発動して出力を上げていくんですね?」
「ああ、そういえば君はそれで修行してたっけ。言っとくけどそれ、効率最悪だよ。」
「ええっ!?そうなんですか!?」
「うん。まあ、実戦経験は大事だけどさ…効率が悪いにも程があるよそれ。時間も魔力もかかるし。まあ、素質が無い人間が魔法を強化しようとしたら大体その方法でやってるけどさ。」
「じゃあ…どうするんですか?」
「魔力の質を上げる。」
「そんな事ができるんですか?」
「うん。魔力と繋がればね。」
「魔力と繋がる…?」
「そう。魔力を全身で循環させて魔力と繋がる。そうすれば魔力の質が上がって強くなる。」
「そ、そうなんですね…それで、どうやって繋がるんですか?」
「説明するのは難しいんだけど…君ならできるんじゃないかな。ほら、武器のスキルを使う時に気を纏わせたりするじゃん?」
「ああ、確かにやりますね。」
「その要領だよ。気を扱うつもりで魔力を扱う。」
「分かりました。やってみます!」
それから数分。降助は胡座をかき、精神を統一させていた。
「……。」
(邪魔しちゃったら悪いし、僕は離れておこうかな。)
神はその場から離れると、どこからか畳とちゃぶ台を出してお茶を啜りながら降助を眺める。
(今のところ変化無しか…思ったより手こずってる…?)
それからも降助は胡座のまま、数日が経過していた。
「流石に長いよね…?ちょっと見てみるか…」
神は降助の前に立ち、手を振って呼びかけてみる。
「おーい。降助くーん?」
「……。」
「呼びかけにも応じない…かなり深く瞑想している…?とりあえず魔力視で……あれ、魔力が無い?いや、そんな筈は…それなら、気は……無い…まさか…!起きるんだ降助君!!」
神は降助の肩を掴んでぐらぐらと揺らしながら呼びかける。すると、降助が目を覚ます。と同時に、とてつもない威圧感が降助から放たれる。
「これは…!」
「えっと…何日くらい経ってますか?」
降助は、自分が放った威圧感には全く気付いていない様子で神に尋ねたのであった。




